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A級以上29期のレジェンド羽生善治九段(51)今期残留を争う山崎隆之八段(40)に勝って2勝目

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月15日。大阪・関西将棋会館においてA級順位戦6回戦▲羽生善治九段(51歳)-山崎隆之八段(40歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は0時33分に終局。結果は115手で羽生九段の勝ちとなりました。

 今期リーグ成績はこれで羽生九段2勝4敗、山崎八段1勝5敗となりました。

 名人9期を含め、A級以上29期の実績を誇る羽生九段。今期残留に向けて、大きな一番を制しました。

羽生九段、深夜の熱戦を制す

 長くA級で戦い続けてきた羽生九段。今期は初めて、順位8位となりました。対して悲願のA級昇級を果たした山崎八段は順位10位。両者ともに順位が低く、さらにここまで1勝4敗。残留を勝ち取るためには、この直接対決が大きな一番であることは言うまでもありません。

 本局までの両者の対戦成績は羽生18勝、山崎5勝。羽生九段が長きに渡って圧倒していましたが、直近では山崎八段が巻き返し、3連勝していました。

 羽生九段は関東、山崎八段は関西の所属。本局は羽生九段が遠征して、山崎八段のホーム、関西将棋会館での対局となりました。

 羽生九段は初手、角筋を突きます。対してどんな序盤作戦が飛んでくるかわからない山崎八段。本局では2手目、角の横に金を上がりました。これは山崎八段がしばしば用いる変化球です。居飛車党に対して「振り飛車はできますか?」という問いかけ、駆け引きの意味合いがあります。かつてはこの手が「挑発的である」などとして、しばしば議論になったりもしました。

 羽生九段は2分考え、飛車先の歩を突いて、居飛車で臨む姿勢を示しました。以下は定跡形をはずれた序盤となります。

 中盤では山崎八段の独創的な指し回しが光りました。先手側から見て右辺に囲った玉のすぐ横に飛車を回り、端に角を出て、守りの銀を中段に押し上げていきます。

羽生「(59手目)▲7八玉に△4六銀出られて、わるくなっちゃったような気がしたんで・・・」

 山崎八段の銀は中段を走りきって羽生陣に侵入。見応えある中盤の応酬で、山崎八段がリードを奪いました。

 71手目、羽生九段は山崎陣の右隅、玉近くの狭いところに角を打って迫っていきます。対して山崎八段は金を打ち、しっかりガード。

山崎「さすがに負けにくい・・・。さすがに私でも・・・」

 感想戦で山崎八段は自信があった旨を示していました。しかしその直後、羽生九段がさらに右隅に銀を打ったのが相手を楽にさせない、さすがの勝負術です。

山崎「銀打たれるの、気にはしてたんですけど」

 持ち時間6時間のうち、残りは羽生28分、山崎25分。そこで形勢がいい側の山崎八段は、刻々と時間を削られていきます。

 考えること23分。山崎八段は自陣に角を打って受けます。誤ることなく対処して、形勢は山崎リードのまま終盤戦を迎えました。

 87手目。残り2分の山崎八段は銀を打って受けるか、それとも銀を打って王手をかけて攻めるか。重大な選択を迫られます。そして受けを選んだところで、形勢は互角へと巻き戻りました。

山崎「(相手陣を指差しながら、王手で)銀が・・・」

羽生「(うなずきながら)それがわかりやすいかと思いました」

山崎「銀打ち損ねる人はいないですよね」(苦笑)

 もし羽生玉に王手で銀を打っていれば、どうなっていたか。

羽生「(少し検討したあと)全然ダメです」

山崎「いや、将棋、弱すぎる」(苦笑)

 本譜、羽生九段は頑強に自陣に金を埋め、大ピンチをしのぎました。

 深夜の順位戦。秒読みの中で抜け出したのは羽生九段でした。

 115手目、羽生九段は上から銀を打って山崎玉を押さえ、上下はさみうちで受けなしに追い込みます。対して羽生玉は詰まない。攻防ともに手段がなくなった山崎八段が投了し、熱戦に幕がおろされました。

 終局後、時間をかけて検討がおこなわれたあと、両対局者は一礼をして、感想戦もお開きに。頭をあげた山崎八段は右手で頭をかき、左手の袖をパンと叩きました。

 この日、同じ関西将棋会館でおこなわれた▲佐藤天彦九段(33歳)-△斎藤慎太郎八段(29歳)戦は本局より早く終わり、斎藤八段が勝ちました。

 2勝4敗となった羽生九段は年明けにおこなわれる次節で、6勝0敗の斎藤八段と対戦します。

 1勝5敗の山崎八段は、豊島将之九段(現在3勝2敗、17日に糸谷哲郎八段戦)と対戦します。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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