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ダイソン創業者、「大きな政府が経済を破壊」と政府を痛烈批判―世界貿易戦争の影ちらつく中で(下)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
景気後退懸念が強まる中、増税・緊縮財政を押し進めるスナク首相=スカイニュースより

英保守党右派議員の一人、ジョン・レッドウッド議員は、英紙ミラーの1月19日付記事で、「国の借金を減らし、税収を増やす最善の方法は企業への増税という安易な方法をやめて、減税により経済を拡大させることだ」と、ダイソン卿の呼びかけに呼応。保守党のイアン・ダンカン・スミス元党首も英紙デイリー・メール(1月19日付)で、「今年前半までに経済成長が進まなければ、この政府は跡形もなく崩壊する。次の総選挙で勝つ望みはない。国民はすでに過大な税負担を負っており、景気後退から抜け出すことができないことは明らかだ」と指摘している。

他方、トラス前首相の減税計画を支持する保守党議員20人も1月18日、減税の実現を目指す勉強会を立ち上げた。トラス派議員はインフレがピークを過ぎ、英国は昨年10、11月にリセッションを免れたことを理由に、財務省のインフレ抑制の主張に反論している。テレグラフ紙のコラムニストで経済学者のリアム・ジェームズ・ハリガン氏は1月1日付で、「英国経済は今、かなり根深い混乱した状況にある。我々は依然として成長を追い求める必要があり、トラス前首相は正しかった」と述べている。昨年12月のインフレ率は前年比10.5%上昇と、11月の同10.7%上昇を下回り、2カ月連続で低下。財務省に圧力がかかっている。トラス前首相は昨年10月17日、総額450億ポンド(7兆2000億円)の大規模減税計画を撤回し、3日後の20日、わずか45日間で首相を辞任している。

CBI(英国産業連盟、約19万社加盟)もスナク首相への批判を強め、今年3月の政府予算での減税を目指している。CBIのトニー・ダンカー事務局長は1月18日付テレグラフ紙で、「世界の投資家は、政府が首尾一貫した経済計画を持っていないため、米国やヨーロッパの猛烈なスピードで進められている政策の方針転換に追いつけず、英国を遠ざけている」と警告。「英国からお金が流出している。投資家は凍りついている。問題の核心は戦略がないことだ」と言い切る。

背景にあるのが欧米を中心とした世界貿易戦争。テレグラフ紙のクリス・プライスとスーピンチャンの両記者は1月18日付コラムで、「2022年8月に発効した米国のインフレ削減法(IRA)には、温室効果ガスの排出削減のための約3700億ドル(48兆1000億円)相当の補助金と減税が含まれ、米国製品の購入を奨励している」という。「このため、欧州連合(EU)は産業基盤を強化しようとしているとき、IRAは欧州企業が工場と生産を米国に移すことを促すと懸念、対応を検討している」とし、英国はこうした世界の潮流から目を背けている場合ではないと話す。

CBIは春の政府予算で再投資する企業への課税負担が小さくなるような投資減税措置の導入を求めている。CBIによると、「企業は課税対象となる利益に対し、投資費用の半分、最終的には全額を控除される必要がある」としている。法人税は4月から税率が19%から25%に引き上げられる予定。CBIは今年の企業投資は減少、2024年末までにコロナ禍前の水準を9%下回ると予測、強い懸念を示している。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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