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アスリートに「学士の学位」は必要か?

松岡宏高早稲田大学 教授
今年も多くの学生アスリートが卒業したが。。。(写真:アフロ)

この3月に全国各地で大学を卒業したのは合わせて50万人以上。その中には、学生アスリートも含まれている。4月からはプロ、企業、そしてクラブチームで競技を続ける者と、現役から退いて会社等で仕事をする者に分かれるが、共通しているのは4年制の大学を卒業したということ。つまり、学士の学位を取得したということであるが、果たして、学士に値する学を修めたのであろうか。

いったいどれぐらいの学生アスリートが学士に相応しい教養を身につけるつもりで大学に通っているのだろう。そして大学は彼ら・彼女らを学士としての学力を有する者として育てようとしているのだろうか。実際には、試合や練習のための欠席が多いにもかかわらず、それを補う課題等の提出もないままに、単位が認定され、その積み重ねで学位が授与されているケースは少なくない。知らないうちに大学院生になっているアスリートもいる。

学士に値する学を修めないなら大学に通う必要はない。競技なら、プロか企業のチームでできる。地域のクラブチームやサークルでもできる。むしろそのほうが大好きな競技に没頭できる。学士としての教養を身につけることなく、就職に有利な「大卒」という肩書だけが必要なのだろうか。一方の大学はアスリートを広告塔として利用しているだけなのだろうか。もちろん、多くの学生アスリートが学問と競技の両立を図り、学士に相応しい教養を身につけて卒業している。上記のような学生アスリートはそれほど多くないと信じたい。

さて、各大学におけるこの問題の解決策は、以下の2点に尽きる。

1.学士に値する学を修めることが見込めない者の入学を認めない。

2.学士に値する学を修めるまでは卒業を認めない。

極めて簡単、そして当然のことである。ただ、これらの実行を困難にしているのが、大学間の競技における争いである。争いに勝つためには、学力が不十分であっても競技力の高い学生を入学させたい。入学させたからには4年で卒業させないとその後の学生確保が難しくなる。といったところが大学関係者の言い分で、実際には簡単には解決できない問題である。

そこでもう少し具体的な提案は次のようになる。

1つは、学習状況を厳しく管理する仕組みを作ることである。アメリカのカレッジスポーツはNCAAの管理のもと、各大学が学生アスリートの学業の促進を図っている。例えば、年次ごとの最低修得単位数が設定されており、さらに各大学が設定する基準GPA(成績評価平均値)を上回る成績を収める必要がある。これらの学業に関する条件を満たさなければ、練習・試合への参加が制限される。国内では早稲田大学が同様の仕組みを導入し始めている。

もう1つは、5、6年以上かけて大学を卒業するプログラムの推進である。これは欧州の一部の大学ではすでに推奨されている。アスリートが学業に割く時間は限られており、一般学生と同じペースで学位取得を進めることは、そもそも難しいことである。各競技のシーズン中は競技に専念し、オフに集中して大学に通い、通常より長い年月をかけて学位取得を目指してもよいであろう。

いずれにしてもこのような仕組みづくりは、各大学が個別に取り組むだけでは抜本的な改革は難しい。各競技種目の学連、スポーツ庁、文部科学省などには、このような制度の整備に着手することを期待したい。

早稲田大学 教授

1970年京都生まれ。京都教育大学卒。オハイオ州立大学で博士号(Ph.D.)を取得。専門はスポーツマネジメント、スポーツマーケティング。特に、スポーツ消費者(実施者、ファン・観戦者)の心理や行動の解明を研究テーマとし、スポーツをする人、見る人が増える仕組みづくりを検討している。現在、早稲田大学スポーツ科学学術院教授。日本スポーツマネジメント学会理事、ホッケージャパンリーグ理事なども務める。著書に、スポーツマーケティング(共著:大修館書店)、図とイラストで学ぶ新しいスポーツマネジメント(共著:大修館書店)など。

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