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“まさかのCGなし”異色の作品も セガサターンの時代を先取りしすぎた傑作5選

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
セガサターン本体(※筆者撮影。以下同)

1994年11月22日にセガ・エンタープライゼス(以下、セガ)が発売し、「次世代型ゲーム機」として華々しく登場したセガサターン。「CESAゲーム白書」によると、世界累計で926万台を出荷した。

後から登場したプレイステーションとの市場シェア争いに敗れたこともあり(※プレイステーションは世界累計で1億240万台)、今では本機はもっぱら「負け組ハード」として語られる感があるが、数々の傑作ソフトが誕生したハードだったことは間違いない。

以下、本稿ではセガサターン、ひいてはゲーム史上に残る珠玉の5タイトルを、筆者の独断と偏見で振り返ってみたい。

1:バーチャファイター2(セガ/1995年)

1994年に登場した、アーケード用対戦格闘ゲームを移植した作品。「ポリゴン」と呼ばれる3DCG技術を使用して描かれたキャラクターが、まるで本物の人間のように動くリアルさと、プレイヤー同士による対戦プレイの面白さとが相まって、全国各地のゲームセンターで大人気を博した。

1993年に業界初のポリゴンを使用した対戦格闘ゲームとして登場し、セガサターンのローンチタイトルとして移植された元祖「バーチャファイター」も十分にインパクトがある作品だったが、「2」はその衝撃をも上回り見る者の度肝を抜いた。

かつて、アーケードゲームには業界最先端の技術が使われており、家庭用に移植された際はその内容を100パーセント再現することはほぼ不可能であった。だからこそ、本作が自宅で遊べて、なおかつ元祖アーケード版とほとんど遜色のない移植が実現したことは、当時のプレイヤーにとっては夢のような出来事であり、新時代の到来を身をもって体験できる一大イベントでもあったのだ。

「CESAゲーム白書」に掲載された、歴代の家庭用ゲーム機を対象にしたミリオンセラータイトル一覧によると、本作は130万本を売り上げた。ほかにセガサターン用ソフトの記載がないことから、唯一のミリオン達成という意味でも歴史に残る1本だ。

「バーチャファイター2」
「バーチャファイター2」

2:Habitat(ハビタット)2(セガ/1996年)

本体とは別売りの「セガサターンキーボード」に同梱されていた作品。1986年にアメリカのルーカスフィルム・ゲームスが開発し、MMO(※Massively Multiplayer Online:オンラインで多人数での同時参加が可能なこと)ゲームの源流とも称されるPC用ソフト「Habitat」の続編にあたる。

(※日本では、富士通がFM-TOWNSなどのPC向けに「富士通Habitat」の名称で1990年からサービスを開始した)。

本作はパソ通(パソコン通信)を介して、「エリシウム」と呼ばれるバーチャル都市空間にアクセスすることで、プレイヤーはアバターを利用して町中を歩き回ったり、ほかのプレイヤーとキーボードを使ってチャットを楽しむことができるようになっていた。

ひと昔前には「セカンドライフ」が注目を集め、現在ではメタバースが話題となっているが、セガサターンのオリジナルソフトではないとはいえ、96年の時点で仮想世界での生活を体験できる、家庭用ゲームソフトがすでに出ていたとは今さらながら驚くばかりだ。

【参考リンク】「Habitat2」(富士通のホームページ)

3:J.LEAGUE プロサッカークラブをつくろう!(セガ/1996年)

現在でもシリーズ作品が出続けている、サッカークラブ経営シミュレーションゲームの記念すべき第1弾。

かつてはマイナ―スポーツだったサッカーが、1993年のJリーグ開幕を機に一躍ブームとなり、サッカーゲームも各ハードで雨後のタケノコのように登場するようになった。そのほとんどが、ボタンで選手を動かしてパスやシュートを放つ遊び方だったのに対し、本作はプレイヤーが監督となってチームを指揮し、さらにオーナーとしてクラブを経営する新たな面白さを創出したところに大きな価値がある。

既存のJリーグのクラブを率いるのではなく、ホームタウンとクラブ名をプレイヤーが任意に選べるようにしたのも素晴らしいアイデア。「もし、おらが町にJリーグの加盟クラブがあって、自分がオーナーだったらこんな経営、強化方針で運営したい」という、歴史のifをゲーム上で体験できる夢をかなえてくれた1本だ。

「J.LEAGUE プロサッカークラブをつくろう!」
「J.LEAGUE プロサッカークラブをつくろう!」

4:リアルサウンド ~風のリグレット~(ワープ/1997年)

画面にCGが一切表示されず、音声のみでプレイする異色のアドベンチャーゲーム。開発プロデューサーは、当時のカリスマゲーム開発者である飯野賢治(故人)で、声優には柏原崇、菅野美穂、篠原涼子などの有名タレントを起用し、脚本は坂田裕二、作曲は鈴木慶一および飯野氏が手掛け、エンディング曲「ひとつだけ」は矢野顕子が作詞・作曲した。

ゲームを起動すると自動で音声の再生が始まり、主人公の大学生である野々村博司と、恋人の桜井泉水を中心とする淡い恋愛を描いたストーリーが展開される。遊び方はいたって簡単で、登場人物のセリフと周囲の物音を聞きながら、時折「チリーン」というチャイム音が鳴ったときに方向ボタンとAボタンで、二または三択の選択肢を選ぶだけ。選択した内容によって以降のストーリーが分岐し、エンディングが変わる仕組みになっている。

添付のマニュアルに「まず、このソフトにはビジュアルがありません」と書かれているように、ポリゴンを使用したリアルなCGはおろか、タイトル画面すら表示されない本作の仕様はまさに前代未聞。それでいてセリフが非常に多いため、CD-ROM4枚組の大ボリュームで発売された。

本作を開発した動機について、飯野氏は生前に以下のように証言している。あえて当時のトレンドの真逆を進むところが、いかにも同氏らしい。

「(中略)それと『ゲームの可能性について、みんなもっと考えろよ!』っていうメッセージが少し。どのハードでもグラフィックがあって、いつもグラフィック中心で争ってきたわけでしょ。だけど、『そうじゃないだろ!』って気持ちで。」

出典:「ゲームを変えた男 飯野賢治 E0事件の真相」(メディアファクトリー/1997年)

また、本作には点字の案内カードが付属しており、カードに書かれた宛先に手紙を送ると、点字で印刷されたマニュアルがもらえるようになっていた。現在ではゲーム開発においてもユニバーサルデザインの導入が進んでいるが、当時から視覚障害者に配慮していた点も特筆に値する。

「風のリグレット」のパッケージ
「風のリグレット」のパッケージ

5:GAME BASIC for SEGASATURN(アスキー/1998年)

タイトルに「GAME」とあるが、本作はゲームではなくBASICを使ってプログラムを組むためのソフトである(※正確には、サンプルプログラムの一部にゲームが含まれている)。

本作はセガサターンの優れた描画機能、すなわちポリゴンによる3DCGの描画をプログラムを組むことで可能にしたところに大きな価値がある。今でこそUnityをはじめとする、3DCGが使えるゲーム開発エンジンが簡単に入手できる時代となったが、当時は家庭用PCを1台買うだけでも高価であり、ましてや最新ハード向けのゲームが作れる開発環境を一般家庭で用意するのは非常に難しかった。

ほかにもセガサターンには、歴史に残る傑作として評価できるタイトルはまだまだたくさんある。だが、本作のように当時の最新ハードでCGやゲームのプログラムを組むことで、最新ハードの性能を体験できる夢をかなえたBASIC言語ツールも、改めて評価すべきではないかと思われる。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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