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「田端プリンスホテル」問題について

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:いらすとや

今朝の「とくダネ!」で、「田端プリンスホテル」という西武グループとはまったく関係ないホテルに対してプリンスホテル側が提訴する予定であるというニュースについて触れていました。「田端プリンスホテル」側の経営者は「マークが違うので混同しない」、「他にも(西武系ではない)プリンスホテルはあるが問題なく営業している」と主張しているようです。

当然ながら(西武系)プリンスホテルは「宿泊施設の提供」等を指定して「プリンスホテル」を商標登録していますので上記主張は認められるはずもなく、本件はほぼ確実に差止と損害賠償請求が認められるでしょう。

ただ、上記主張における「他のプリンスホテル」についてはちょっと気になります。番組によれば、熱川プリンスホテルや菅平プリンスホテル等、西武系列ではないプリンスホテルは全国に20軒以上あるそうです。これらが問題なく営業できている理由として、番組では、プリンスホテルが商標登録(出願)された1992年以前に開業したからと説明していました(パネルでは「商標登録」となっていましたが、正しくは「商標登録出願」です。)

これは、先使用権のことを言っているのだと思います。間違ってはいないのですが、なぜ1971年から事業をしている(西武系)プリンスホテルが、1992年まで商標登録出願をしていなかったのかという点にはついては説明がありませんでした(時間の都合上、しょうがないのだと思いますが)。

実は、1992年以前の商標制度では、商標登録できるのは商品に対する商標のみで「宿泊施設の提供」といったサービス(役務)で使用される商標(サービスマーク)については商標登録できませんでした。(西武系)プリンスホテルは1976年から「プリンスホテル」を商標登録出願し、登録していましたが、それは、食品、飲料等の商品に対するものでした。そして、改正直後の1992年にホテルサービスやレストランサービスに対する商標登録出願を行なっています。

「とくダネ!」中で小倉キャスターが「仮に熱川プリンスホテルが先に商標登録していれば(西武系)プリンスホテルは商標登録できなかったんじゃないか」といったような主旨のことを言われていましたが、1992年前ではどちらにしろそれは不可能だったわけです。

なお、上記のサービスマークの登録を認める改正に伴い、1992年9月30日以前から使用しているサービスマークについては、その後に他人が類似の商標を登録してしまっても継続して使用できるという継続的使用権の制度が設けられていますので、昔から営業している非西武系プリンスホテルに対しては西武系プリンスホテルは商標権を行使できません(先使用権も効果としては同じですが、先使用権は周知性が要件であるのに対して継続的使用権は使用さえしていれば認められます)。前述のとくダネ!のパネルも厳密に言えば「1992年の商標法改正前から継続的に商標を使用していたから」とした方が正確だったと言えます。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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