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村田諒太のリズムを狂わせたブラントの3つの戦術

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

WBAミドル級チャンピオンの村田諒太選手(32)が10月20日に米国ラスベガスで行われた2度目の防衛戦で、同級3位のロブ・ブラント選手(28 米国)に判定で敗れ王座から陥落した。

私は試合の2週間前に村田が調整している帝拳ジムに足を運んでいた。

体重を含めた調整は順調に進み、コンディションは良好そうに見えた。

何よりも試合前なのに緊迫感は無く非常にリラックスしていた。

来週からアメリカで頑張ってきます。と笑顔で答えていたので、

今回も良い結果に繋がると思って試合の日を楽しみにしていた。

ラスベガスの調整は難しいと言われている。

乾燥地帯のラスベガスでは湿度が低く汗が出にくい。

減量の心配がある選手にはアメリカでの調整はキツイ。

村田はそこまで過度な減量はしていないが海外での調整はいつも以上に気を使う。

幸い今回は同門のホルヘ・リナレスの計らいでジムを貸してもらえたようで、

コンディション作りに抜かりはないハズだった。

しかし、結果は最大10ポイント差がつく判定負け。

なぜ村田は負けたのか。

私が観たところによるとブラントは入念に作戦を立て、

村田対策を万全の態勢で準備してきていた。

3つの戦術をベースに村田にペースを与えずに試合を進めていった。

果たしてどういうことか...

ボクシングは自分のペースで進んでいくと疲れない

 試合では先にペースをとった方が有利になる。

ペースを取られると後から挽回するのが難しい。

だからいかに序盤でペースを握るかが勝敗の鍵になる。

ペースさえ取ってしまえば相手をコントロールでき有利に戦うことができる。

ブラントは1Rから積極的に攻めてペースを握りにいった。

先に手数を出すことで試合を有利に進めていった。

前半飛ばせば後半疲れてくると思われるがそうとも限らない。

自分のペースで試合が進んでいくとボクサーは疲れないのだ。

手数を出し続けても試合が優位に進んでいくと、

呼吸も安定していきランナーズハイのような状態になる。

相手が考えている時や間が空いた時は自分も休める。

そのため最後まで手数が落ちなかった。

サイドの動きで相手を翻弄していた

 またブラントはまっすぐ下がるのではなく巧みにサイドに動いていた。

ボクシングは基本的には前に出るほうが強い。

下がりながら相手を迎えるとプレッシャーを感じスタミナを消耗する。

村田の前に出る前進に対して、ブラントはサイドに動くことで前進をかわしていた。

追われる方も疲れるが追う方も疲れるのだ。

またサイドに動かれることで、パンチの的が絞れず空振りも目についた。

自分のパンチが当たらない苛立ちとペースが掴めないので村田も疲労していた。

相手の動きに翻弄されて考える間ができてしまった。

その瞬間をついてブラントは攻勢をかけてきて手数を出してペースを掴んでいった。

右からの攻撃で村田の反撃を殺していた

 ブラントは右からの攻めを多用していた。

基本的に右構えのオーソドックス同士の場合は、相手に近い前の手のジャブからの攻めが主流だ。

前の手のジャブをつくことで次の攻撃につなげる事ができる。

そうすることで距離を取りながら戦う事ができる。

しかし、ブラントはいきなりの右からのコンビネーションを打ってきていて、

村田の前の手を殺していた。これは村田も想定外だったと思う。

最初の右をおとりにしてきて後のコンビネーションで次の攻撃に繋げてくる。

そうすると村田もペースを掴むためのジャブを打ち込めない。

相手の攻撃で自分のリズムを失ってしまった。

ブラントの入念な準備と作戦勝ち

 今回の試合ではブラントの作戦勝ちだった。

村田のボクシングスタイルは非常にシンプルだ。

ガードを上げてプレッシャーを掛けて攻めていき、ボディで相手を弱らせて右で仕留める。

村田は体幹も強くフィジカルにも恵まれているためパワー勝負なら、

海外選手に負けない恵まれたポテンシャルを持っている。

陣営も含めて中盤から後半にかけてのKO勝ちのプランがあったハズだ。

ブラントも序盤からハイペースで攻めていたので、

後半動き疲れとボディが効いて動きが落ちてくるだろうと予想された。

しかし、最後まで手数を出し続け村田の倍以上も手を出してポイントを稼いでいった。

今回の試合ではブラントが村田を非常に研究してきていた。

試合での意気込みも感じたし今回の試合に賭けていたのだろう。

今後の村田諒太について

 今回は村田も負けはしたがポイント差以上に内容は競っていたように感じた。

ブラントも最後まで気を抜けなかったし村田の圧力に苦しんだハズだ。

再戦になった時に同じような展開になるとは考えにくい。

本人はまだ進退については話してはいないが、

負けるとすぐに進退の話題になるのも酷な事だ。

この試合に向けて何ヶ月も準備してきて色々な思いがあるだろう。

日本人で初めてのオリンピックで金メダリストで世界チャンピオン。

同じボクサーだからこそ、その偉業の重みと達成した凄さがわかる。

今はゆっくりして心身ともに休めてほしい。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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