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CL本大会出場を寸前で逃した南野、久保と、五輪サッカーの関係について考察する

杉山茂樹スポーツライター

セビージャの清武弘嗣、レスターの岡崎慎司、ドルトムントの香川真司。16−17のチャンピオンズリーグ(CL)本大会には3人の日本人選手が出場する。

惜しかったのは、南野拓実が所属するザルツブルグと、久保裕也が所属するヤングボーイズだ。日本期待の若手2人は、本選出場を懸けた予備予選最後のプレイオフでそれぞれ、ディナモ・ザグレブとボルシアMGに敗退。ヨーロッパリーグ(EL)に回ることになった。

これまで、CL本大会の土を踏んだ日本人選手は計12人。昨季のプレミア優勝ですでにその座を射止めていた岡崎を加えれば13人。南野と久保は、その14人目、15人目に名前を連ねることができなかった。彼らがもし出場していれば、16−17の日本人チャンピオンズリーガーは5人。過去最多の人数になるところだった。

欧州サッカー最高の舞台であるCLに何人、選手を送り込んでいるか。それは、その国のサッカーのレベルを語る上で、代表チームの成績ともども重要なポイントになる。チャンピオンズリーガーの数に代表チームのレベルが比例することは、データに目を通せば一目瞭然。お互いは相関関係にある。CLで積んだビッグマッチの経験は、その国のサッカー界の財産と言っていい。 

チャンピオンズリーガーの数をいかに増やすか。

06−09、ザルツブルグに所属していた宮本恒靖氏は、当時こう言った。

「僕がルートを示したつもりだ」と。07−08、彼はその先発メンバーとして、CL予備予選3回戦(最終戦)まで進出。シャフタール・ドネツクと対戦した。ホーム戦を1−0で勝利し、アウェイ戦でも、87分まで1−2(通算2−2)とアウェイゴールルールでリード。CL本大会出場は目前に迫っていた。そこでシャフタールにゴールを許し、涙を飲んだわけだが、それは本当に惜しい敗戦だった。

まさに、ルートを示した恰好だ。宮本がザルツブルグに入団した時、多くの人は、そのオーストリア行きに、マイナーなイメージを抱いた。しかし、CL出場という観点に基づけば、こちらの方が近道であることは確かである。メジャー国のクラブからCLを目指すよりハードルは低い。

CLでプレイすることは、名前を売るチャンスでもある。そこから、メジャー国のクラブへというルートも開けてくる。

ザルツブルグからCLを目指した宮本。南野のザルツブルグ入りも、そこにヒントを得た結果だと思われる。スイスのクラブチーム、ヤングボーイズ所属の久保しかり。

久保はその結果、リオ五輪に出場することができなかった。手倉森ジャパンの最終メンバー18名の中に入っていたにもかかわらず、CL本大会出場を狙うヤングボーイズ側が、その招集を拒んだ結果だとされる。

久保は寸前で泣く泣くリオ行きを断念した。メディアは「みんなと一緒に戦いたかった」という彼のコメントを大きく報じた。本心は、リオに行きたくてしょうがないのだけれど、クラブがそれを許さないので……。メディアは、その不参加は、オッケーを出さないクラブのせいだとするスタンスで報じた。

久保の本当の心はどうだったのだろうか。リオ五輪とCL。悩んだことは確かだろうが、少なくとも、断然リオではなかったと思う。欧州に長くいれば、そうした感覚は確実に芽生えてくるはずなのだ。久保はCL予備予選3回戦、シャフタール・ドネツクに0−2で折り返したその第2戦で、2ゴールと気を吐き、チームのプレイオフ進出に大貢献した。残る関門はあとひとつのところまで、自らの力で漕ぎつけた。

南野不在のザルツブルグもプレイオフに進出。リオで日本がグループリーグで早々と敗退したために、第1戦を1−1−で折り返した対ディナモ・ザグレブの第2戦には、何とか出場することができた。後半21分から。

延長にもつれ込む大接戦になったが結果は1−2。通算スコア2−3でザルツブルグは敗れた。久保のヤングボーイズもボルシアMGに大敗。U−23の2人のアタッカーは、CL本大会出場を揃って逃した。

久保と南野はそこで何を思っただろうか。

リオに行かず、CLに全力を注いだが本選出場を逃した久保。

リオに行った、CLに全力を注げずに本大会出場を逃した南野。

より悔いているのは、南野の方だろう。ディナモ・ザグレブ戦はリオに行ったため、最後に少し出ただけ。リオでもグループリーグ敗退してしまった。

さらに言えば、両者は2018年W杯アジア最終予選UAE戦、タイ戦のメンバーからも漏れている。

想起するのは、2000年シドニー五輪に参加した中田英だ。その時、彼はローマでトッティとポジション争いをしていて、長期間、チームを離れることには大きなリスクがあった。

日本はシドニーでベスト8に入ったが、中田英は結局、ローマでポジションを失った。移籍を余儀なくされた。次のパルマではCL予備予選最終戦で、ハリルホジッチのリールに敗れまさかの敗退。その後、ボローニャ、フィオレンティーナ、ボルトンとチームを移ったが、ローマより上のチームでプレイすることはできなかった。29歳の若さで引退することになったこれこそが、最大の要因だと僕は見ている。

シドニー五輪に行っていなければ、そのサッカー人生はもっと違ったものになっていた可能性大。

南野の今後はどうなのか。五輪のサッカー競技。そんなに重要なイベントなのか。少なくとも、五輪よりCL。世界のスタンダードはこれだ。その価値観が大きく不足している日本が、僕は心配になるのである。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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