井上尚弥の聖地デビュー&デービス対サンタクルス。ファン垂涎のファイトウィーク迫る
ビッグファイトウィークが幕を開けようとしている。
今週末、米英のリングには人気ボクサー、注目選手が続々と登場する。特にハロウィーンの10月31日には、ジャーボンテ・デービス(アメリカ)対レオ・サンタクルス(メキシコ)、井上尚弥(大橋)のラスベガスデビューという2つの目玉ファイトが用意された。
また、同日には井上だけでなく、実力を高く評価されるオレクサンデル・ウシク(ウクライナ)もヘビー級2戦目を行うだけに、パウンド・フォー・パウンド(以下、PFP)ランキングにも大きな影響が及ぼされる可能性がある。ボクシングファン垂涎の週末はどんなドラマが待っているのかだろうか。
10月30日 カリフォルニア DAZN生配信
ミドル級12回戦
ハイメ・ムンギア(メキシコ/24歳/35戦全勝(28KO))
対
トレアノ・ジョンソン(バハマ/36歳/21勝(15KO)2敗1分)
31日の3試合と比べればスケールは落ちるものの、ムンギアのミドル級昇級2戦目にあたるこの試合も楽しみだ。スーパーウェルター級で戴冠直後はサイズとパワーゆえにスター候補と目されたメキシカンだが、以降、その評価は停滞。技術的にも頭打ちの印象は否めない。
ミドル級に上げればパワー・アドバンテージは目減りするという予想もあり、昇級初戦(1月のゲイリー・オサリバン(アメリカ)戦)ではその懸念を払拭することはできなかった。そんなムンギアにとって、“ミドル級の門番”的な存在のベテラン、ジョンソンはテストマッチの相手としては適切と言える。
ムンギアが今後も無敗を守り、サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)との同国人対決まで持っていければビッグビジネスになる。ただ、ムンギアの実力を信用しない一部の関係者からは、「一刻も早く組むべき」という声も出ている。懐疑論を吹き飛ばせるかどうか、24歳の新鋭の成長度に注目が集まる。
10月31日 イギリス DAZN生配信
ヘビー級12回戦
オレクサンデル・ウシク(ウクライナ/33歳/17戦全勝(13KO))
対
デレック・チソラ(イギリス/36歳/32勝(23KO)9敗)
現代最高のロードウォリアー、ウシクがまたも敵地イギリスでヘビー級のベテランとの力試しを迎える。過去6戦はすべて相手の母国で勝ち続けたウシクにとって、地の利のなさは問題ではない。それよりも見どころは、クルーザー級では一段上のスキルを見せつけた元統一王者の力が最重量級でも通用するかどうか。
昨年10月のヘビー級初戦では、直前で代役となったチャズ・ウィザースプーン(アメリカ)にTKO勝ち。チソラはより危険な相手であり、この階級でのリトマス紙としては申し分ない。その馬力を持て余すようであれば、スリリングな展開になることも考えられる。
現在、リング誌のPFPランキングでウシクは4位。2位の井上と自身の試合内容次第で順位変動の可能性もあり、そういった意味でも興味深いノンタイトル戦と言えよう。
10月31日 ラスベガス ESPN+生配信
WBA、IBF統一バンタム級タイトル戦
王者
井上尚弥(大橋/27歳/19戦全勝(16KO))
対
ジェイソン・マロニー(オーストラリア/29歳/21勝(18KO)1敗)
”モンスター”がいよいよベガスリングに足を踏み入れる。
当初の対戦相手だったWBO世界バンタム級王者ジョンリエル・カシメロ(フィリピン)との統一戦が流れたのは残念ではあっても、井上にとってトップランクとの契約初戦でもある一戦は一定以上の注目を集めるはず。軽量級離れした豪快ファイトで魅せる東洋の怪物は、近年、米国への本格進出が最も期待されるボクサーの一人であり続けてきたからだ。
ESPNでの生中継がないのを残念に感じるファンもいるかもしれないが、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)の去年の2戦もESPN+生配信だったことが示す通り、リニアTVの中継ではないことは必ずしも格下のファイトという意味ではない。多少の金を払っても見たいというコアなファンの関心をより強く呼びそうな井上の試合は、米国では今後もEPSN+での配信が続くかもしれない。
試合展開、結果予想は別の機会に譲りたいが、両者のタイプ的に噛み合った戦いになることが有力。ハイライトになるような激しいダウンシーンが見られる可能性も十分。デービス対サンタクルス戦からチャンネルを変えてきたファンの目を奪うような内容、結末を期待したいところだ。
10月31日 テキサス Showtime PPV
WBAスーパーフェザー級スーパー、ライト級タイトル戦
WBA世界ライト級正規王者
ジャーボンテ・デービス(アメリカ/25歳/23戦全勝(22KO))
対
WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者
レオ・サンタクルス(メキシコ/32歳/37勝(19KO)1敗)
日本のファンの興味はもちろん井上対マロニーに向くとしても、アメリカのマニアにとって、今週のメインイベントはやはりこの試合である。
しばらくスター候補と目されてきた“メイウェザーの秘蔵っ子”、デービスがついにビッグファイト路線に突入。4階級制覇王者サンタクルスとの好カードで、初めてPPVの顔役にもなった。若手の中では特筆すべき集客力を示してきた通称“タンク”が、メキシカンとメキシコ系アメリカ人の中に一定のファンベースを持つサンタクルスの力も借りて、どんな数字を叩き出すかが興味深い。
KO率95.7%を誇る新星と豊富なキャリアを持つベテランとの対戦は、試合内容的にも上質なものが望める。ただ、1つ気になるのは、スーパーフェザー級リミットの契約体重にもかかわらずこの試合にはスーパーフェザー、ライト級両方の王座がかけられることだ。
1988年にはシュガー・レイ・レナード(アメリカ)対ドニー・ラロンデ(カナダ)戦がWBC世界ライトヘビー級とスーパーミドル級という2つの階級のタイトルをかけて行われたことがある。とはいえ、スーパーフェザー級の試合でライト級王座が争われるのはやはり奇妙。強引に2階級タイトル戦になった背景には、デービスのウェイトへの不安があるという見方は根強い。
デービスはライト級でも体重調整に苦しんだ過去があり、ここで再びスーパーフェザー級のウェイトを作れるのかは微妙なところ。それでもこの試合を何とかタイトル戦にしたい主催者側は、デービスが体重を作れなかったときのための“保険”として2つの王座をかけたのではないか。
まずは“タンク”にスーパーフェザー級のリミットを目指させ、契約通りに試合挙行できれば万々歳。スーパーフェザー級をオーバーしても、サンタクルスが同意すれば少なくともライト級タイトル戦として挙行できる。もともとの契約を130lbsに設定しておけば、さすがに135lbsのライト級までオーバーすることはないだろうという用意周到な考え方である。
“何でもあり”のボクシング界らしい経緯で挙行される2階級タイトル戦。一部の推測が正しいとすれば、前日計量の時点ですでに2人の主役ボクサーから目を離すべきではないのだろう。