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「主体的・対話的で深い学び」の実践には美術館発情報にも耳を傾ける柔軟性が必要

前屋毅フリージャーナリスト
「えひめ『対話型授業』プロジェクト」の集大成『教えない授業』 撮影:筆者

「主体的・対話的で深い学び」は新学習指導要領の柱となるテーマだが、その基本方針となる中央教育審議会(中教審)の答申が発表されたのは2012年8月で、そのころには「アクティブ・ラーニング」という表現が使われていた。そして「アクティブ・ラーニングとは何だ?」と大騒ぎになった。

 そんななかで、アクティブ・ラーニングと聞いて「そのままじゃないか」と受け取ったのが愛媛県美術館学芸員の鈴木有紀さんだった。何が「そのまま」かといえば、彼女が取り組んでいた「対話型鑑賞」の考え方そのままだったのだ。

 アート作品についての情報や解釈を教員が一方的に教えこむ従来の鑑賞法ではなく、鑑賞者自身の目でみえるものを大事にし、そこから考え、それを仲間に伝え、話し合いながら、より深く学んでいくのが対話型鑑賞である。そこから観察力、思考力、コミュニケーション能力などが養われ、ただ知識だけではなく学びも深くなるのだ。

 アクティブ・ラーニングが混乱を招いていることから、文部科学省(文科省)は後になって「主体的・対話的で深い学び」と言い換えるのだが、まさに対話型鑑賞の考えそのものといえる。そのことに気づいた鈴木さんは、対話型鑑賞の手法を美術だけでなく他教科にも応用して広めようと、文化庁の補助事業として「えひめ『対話型授業』プロジェクト」を起ち上げる。

 県下の対話型鑑賞に興味をもってくれる教員を集め、対話型鑑賞の手法を伝えるとともに各授業で対話型授業を実践してもらい、その成果をもちよって研究するというかたちでプロジェクトをすすめていった。2015年春にスタートしたプロジェクトは2019年3月で終了し、鈴木さんをはじめとする愛媛県美術館が主体となる段階は終わった。これからはプロジェクトで学んだ教員たちが核となり、どれだけ愛媛県に対話型鑑賞が広がっていくのか次の段階に突入したことになる。

 これまでのプロジェクトの経緯とともに、対話型鑑賞の説明、それを授業で実践していくためのコツといったものを実践例をあげながら解説しているのが『教えない授業 美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方』(英治出版、2019年4月発行)である。鈴木有紀さんが著者になっているが、プロジェクトの集大成であり、プロジェクトに参加した方々の実践が生かされて書かれてある。

 とかく学校というところは「よそ者」の介入を嫌う傾向にあるが、「主体的・対話的で深い学び」を本気で実践するつもりがあれば、美術館発の情報に耳を傾けてみてはどうだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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