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部活動の地域「移行」でも「展開」でも、カネをかけない計画では子どもたちが困る

前屋毅フリージャーナリスト
(提供:イメージマート)

 部活動の「地域移行」という名称を「地域展開」に変更しよう、という案が浮上してきている。それが、部活動をめぐる問題を解決することになるのだろうか。

|「移行」を「展開」にすれば理念は実現できるのか

「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議」の中間取りまとめ骨子案(以下、骨子案)が、10月23日のスポーツ庁の「地域スポーツクラブ活動ワーキンググループ」で、24日には文化庁の「地域文化芸術活動ワーキンググループ」で提示された。スポーツ庁と文化庁は、2023年度から2025年度までの3年間を改革推進期間として部活動の地域移行に段階的に取り組み、地域移行を可能な限り早期に実現するという目標を掲げている。

 今回の骨子案は、その目標を実行していくための、さらなる「計画」といえる。そのなかで、これまで使われてきた「地域移行」という言い方を、「地域展開」などに変更しようと提案しているのだ。

 その理由を骨子は、急激な少子化のなかにあっても子どもたちが継続的にスポーツ・文化芸術活動に親しむ機会を確保し、地域全体で関係者が連携して支えることで生徒の豊かで幅広い活動機会を保障するという理念を「的確に表すため」、と説明している。しかし、名前を変えただけで「理念」は実現されるのだろうか。

 そもそも地域移行は、教員の働き方改革を議論するなかからでてきたプランでもある。特に中学校教員が過重労働を強いられている原因のひとつとして、部活動があるのは事実だ。とはいえ、部活だけがすべての原因ではない。部活動を地域に移行しただけで、教員の過重労働が解消されるわけではないのだ。にもかかわらず、スポーツ庁や文化庁、そして文科省も教員の働き方改革の決定打のように、地域移行を唱えてきている。

|カネをかけることが重要

 教員の部活動での負担を軽減するなら、教員の数を増やして部活動指導もできる時間的余裕をつくったり、部活動のための指導員を新しく置くなどの方法も考えられる。しかし、そういう案は意図的に無視されているような気がしてならない。無視される理由は、大きな予算が必要になるからだ。カネのかかることは、スポーツ庁も文化庁も、文科省もやりたがらない。そして、部活動を学校から追い出すような地域移行ばかりが目立っている。

 地域移行といっても、受け皿がなければ部活の存続は難しい。全国の学校の部活動の受け皿となるような、スポーツクラブなどの施設が全国的に整っているわけではない。本業がありながら、指導者を引き受けようという奇特な人もそうそういるわけでもない。指導者として生活が成り立つなら引き受け手もあるかもしれないが、カネをつかわない移行では、受け皿を確保できない。それは、これまでの実証試験のなかでも指摘されてきていることでもある。

 それでも、地域移行をやりたい。部活動を学校から放り出したいのかもしれない。「移行」という言葉には、「放り出す」というニュアンスが漂っている。それを消すために、「展開」にしたいのかもしれない。

 移行にしろ展開にしろ、子どもたちが継続的にスポーツ・文化芸術活動に親しむ機会を確保することになるのかどうか疑問でしかない。もっと子どもたちのためになる移行か展開を考えるべきではないだろうか。それには、カネをかけることも検討することが必要な気がする。それをやらないで、移行なり展開しても、困るのは子どもたちでしかない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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