自動運転関連特許競争力においてグーグルがトヨタより高く評価されたのは何故なのか?
日経新聞が「自動運転の特許 評価でグーグルがトヨタ逆転」という記事(全文閲覧には要登録)を公開しています。「米グーグルが自動車の自動運転に関する特許競争力でトヨタ自動車などを逆転し、首位となったことが分かった。」ということです。
この調査はパテント・リザルトという特許調査会社が米国における自動運転分野の特許競争力をランキングしたものです。首位はウェイモ(グーグル持株会社のアルファベット子会社)で、以下、トヨタ、GM、日産と続きます。
注目すべきは取得特許件数ではトヨタが682件とウェイモの318件を大きく上回っているのに、特許競争力ではウェイモが2815ポイントとトヨタの2243ポイントを上回っている点です。これは、同じ特許1件でもその価値に違いがあるからです。限定が多く権利範囲が狭い特許は相対的に価値が低いですし、基礎技術に近い特許は価値が高いですし、対象技術が既に陳腐化していればその分野の特許の価値は低くなります。
このような特許価値の分析は、特許の知識と当該技術分野の知識の両方を備えた専門家によって行なわれることもありますが、今回のようなケースでは数千件の分析が必要になるので現実的ではありません。もう少し自動化された手法が必要です。
パテント・リザルトの手法の概要は同社ウェブサイトにも公開されています。他の特許調査会社も同様の手法に独自のノウハウを加えて分析を行なっています。ここでは、このような評価手法の一番基本的な考え方について説明します。
審査における引用
他の特許の審査段階で特許庁審査官に先行文献として引用されることが多い特許の価値は高く評価すべきです。関連出願が多いということは、その技術分野が”ホット”であることを意味するからです(Googleのページランクに似た考え方です)。加えて、競合他社の出願を拒絶に導けた特許はさらに高く評価すべきです。
無効審判
無効審判を請求されたにもかかわらず無効にされなかった特許の価値は高く評価すべきです。まず、無効審判を請求されたということは、その特許があると困る競合他社がいる(つまり、競合牽制効果が大きい)ことを意味します。さらに、(競合他社が費用をかけて調査した証拠に基づいても)無効にできなかったということは、今後も無効にできる可能性が低いことを意味し、強力な特許であることがわかります。
上記のような情報は(米国)特許庁からオープンデータとして提供されていますので自動的にスコア計算できます。もちろん、これは目安に過ぎません(単なる特許取得件数よりは優れた目安ですが)。各要素の重み付けを変えれば順位が変わることもあり得るでしょう。とは言え、グーグルがトヨタをはじめとする他の大手自動車メーカーと”同格”になっていることは注目に値します。GAFAに代表される米国大手IT企業がプラットフォームを押さえてその後にグローバルな市場を支配するいう展開が、自動運転の領域でも繰り返される可能性があります。
ところで、日経の別記事にはランキング50位までが公開されていますが、テスラは上位50位以内には入っていません(ウーバーは26位に入っているのですが)。他社と比較して小規模なのはわかりますが、同社の次のステップが自動運転分野にあることは明らかであり当該分野の技術開発も進めています。2014年に発表した特許を重視しない戦略をまだ続けているのでしょうか?今後、各メーカー間で特許のクロスライセンスが進んでいくときに手持ちの特許が少ないと不利だと思うのですが。イーロン・マスクも「あの時はカッコつけて特許不要なんて言ってしまったができれば撤回したい」と思っているかもしれません(憶測)。