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これでいいのかポストシーズン:「成績不振で辞任」の監督が「日本一」の胴上げをされるかもしれない秋

阿佐智ベースボールジャーナリスト
セ・リーグのクライマックスシリーズ・ファーストステージの行われる神宮球場(写真:アフロスポーツ)

 10月9日の試合をもって混戦だったセ・リーグの順位が確定し、クライマックス・シリーズ(CS)の出場チームが決まった。終盤、もたつきはしたものの、ぶっちぎりといっていい独走で優勝した広島以外の5チームが、9月いっぱいまでクライマックスシリーズ出場権を争うという展開は、集客という点で大成功と言っていいだろう。しかし、現在のポストシーズン制度が導入されて10年余、様々な矛盾が目立ち始め、その制度の是非について声が挙がっているのも事実である。とりわけ、独走状態で優勝したチームが「日本一」を争う舞台である日本シリーズに出場できないという事態が今年も起こるようなことになれば、日本シリーズの存在意義そのものに疑念を生じかねないことになるだろう。

今やワールドスタンダードになったポストシーズン

 ポストシーズン制は、興行としてのプロ野球にとって今や欠かせないものになっている。世界各地の野球リーグでは、レギュラーシーズンの後、上位チームによるポストシーズンによって年度のチャンピオンを決めるのが常となっている。

 極端な例になるが、2007年に1シーズンだけ存在したイスラエルのプロ野球リーグでは、当初、前後期制を採用し、各期の優勝チームによる決勝プレーオフを実施する予定でいたが、あるチームが前後期とも独走状態になったため、急遽プレーオフは、全6チームが順位に応じてステップラダー式のトーナメントを行う方式に改められた。つまり、最初に6位対5位の対戦が行われ、その勝者が4位というふうに順位が上になるほど勝ち上がってくるチームを待つ状態にして、それをレギュラーシーズンの順位に対するアドバンテージとする方式である。この方式は、1リーグ制の韓国プロ野球でも採用され、ここではAクラスのチームにポストシーズン出場権が与えられる。しかし、この方式は、上位チームほど実戦から遠ざかることになり、これがアドバンテージにはならないという考え方も存在する。日本においても、パ・リーグだけがポストシーズンを導入した2004年から3年連続でこれを導入しなかったセ・リーグが日本シリーズ敗退ですると、レギュラーシーズン終了後、リーグ優勝をかけたプレーオフを勝ち抜けるパ・リーグの覇者に対し、間延びした消化試合を行った後、シリーズ開幕を待つことになるセ・リーグの不利が議論されたこともあった。

 この上位チームの実戦から遠ざかることによる不利をなくすべく考えられたのが、ポストシーズンに際して、レギュラーシーズンの順位のより上位チームがより下位のチームと対戦するという方式だ。この方式はメキシカンリーグやオーストラリアのウィンターリーグで採用されている。レギュラーシーズン1位のチームは4位のチームと、2位のチームは3位のチームと対戦するというフォーマットで、1位チームが試合感を失うことなく、なおかつ勝ち上がり易い状況を作ろうというのだ。

 それでも、これらの方式はいずれも、レギュラーシーズンで「優勝」していないチームが年度優勝を飾ってしまうという重大な矛盾をはらんでいる。現行の日本のシステムも同様だ。

 メジャーリーグでは地区制を採用し、地区優勝チームがリーグ優勝を争い、ナショナル、アメリカン両リーグの優勝チームによるワールドシリーズを行うという方式を採用しているが、3地区制を採用していることと、各地区の2位以下のチームが別地区の優勝チームの勝率を上回ることもあるという矛盾解消のため、現在は、各地区優勝チーム以外の勝率上位2チームに「ワイルドカード」を与え、その2チームの一発勝負のプレーオフの勝者が地区優勝チームとポストシーズンを争うフォーマットを採用している。しかし、これとて地区優勝も果たしていないワイルドカードチームがワールドチャンピオンになる可能性があるという矛盾を抱えているし、メジャーの場合、交流戦なども考えると、そもそもの各球団の対戦数が違うので、そこで細かい勝率を云々することに対する正当性に疑問が残る。

ポストシーズンを「優勝」チームによる対決にしたいならば、シーズンを前後期に分けるという方法もある。台湾リーグがこれを採用し、また、かつて日本のパ・リーグもこの方式でリーグ優勝を決めていた。しかし、これとて前後期とも優勝できなかったチームがシーズン勝率1位になる可能性や、シーズン勝率3位以下のチームが、前後期どちらかのペナントをとってしまう可能性があり、事実そのような例も起こっている。そこで、現在の台湾リーグでは、前後期チームが違う場合、より勝率の低いチームが、前後期とも優勝しなかったチームの中で一番通期の勝率が高かったチーム(このチームが年間勝率1位の可能性がある)とプレーオフを行い、決勝シリーズ進出チームを決めるという方式をとっている。前後期制覇のチームが現れた場合は、本来ならば、ポストシーズンを行う必要はないのだが、やはり大観衆を見込めるこのイベントをなくすわけにはいかず、年間勝率2、3位チームによるワイルドカードプレーオフの後、前後期制覇のチームに1勝のアドバンテージを与えた上で、決勝シリーズを行うのだが、仮に前後期優勝チームがこれに負けてしまった場合、120試合という長いペナントレースの意味は一体何なのかということになる。

 

本来的に矛盾を抱えたポストシーズンを意義あるものにするために

 つまりは、ポストシーズンとは、プロ野球の興行的な理由により実施される、本来的に不合理な制度なのである。早い話が、長いシーズン、いろいろあったけど、もう一度盛り上がりたいんで、強そうなチームだけでもう一度やりましょう!という興行師と観客のある種の予定調和のようなものである。実際、このおかげで、タイトル争いくらいしか見どころのない消化試合は激減し、どのチームのファンもシーズンの最後までペナントレースを楽しめるし、タイトル争いがある意味かすんでしまった結果、タイトル奪取目的の醜い敬遠合戦などもすっかり影を潜めてしまった。

 しかしである。そのポストシーズンの効用を考慮に入れても、今年のポストシーズンには、大きな疑念が残る。不振で監督が辞任したチームが、「日本一」になる可能性があるのだ。そう、巨人のことである。

 私は、勝率5割を切ったこのチームがポストシーズンに出場することに反対するわけではない。交流戦での「パ高セ低」が続く限り、セの3位チームがこうなる可能性は毎年のように起こるからだ。初めから3位になればCSに出場と決まったのならば、そのフォーマットに従ってペナントレースを戦うのがチームなり、監督なりのつとめなのだから。勝率5割を切ったチームに「チャンピオン」を名乗る資格がないというなら、そういうケースについてまたルールを作ればいいだけだ。

 高橋由伸監督は、現行のルールに則ってペナントレースの采配を振るい、3位という結果を残した。現状において、CSを勝ち抜き日本シリーズを制する可能性があるのに、「成績不振で辞任」する必要は全くないと私は思う。

 思い起こせば、1994年の日本シリーズ、第6戦の試合前にシリーズを戦っている西武・森監督の「勇退」のニュースが流れた。2勝3敗で迎えた敵地・東京ドームの電光掲示板でも大きく報じられた指揮官の「辞任」に西武ナインの士気が上がるはずもなく、この試合を西武は落とし、日本シリーズで初めて巨人の軍門に下ることとなった。長嶋巨人の日本一ということで日本中が沸いたが、シリーズ終了前の優勝監督「辞任」発表が日本プロ野球最大のビッグイベントに水を差したことはいうまでもない。

 今回の高橋監督辞任発表は、CS前である。「高橋監督の有終の美を飾るために日本一を目指す」と言えば、聞こえがいいのかもしれないが、辞任の理由は「成績不振」である。仮に「成績不振」のチームが「日本一」にでもなれば、それはすなわち「日本シリーズの死」を意味するのではないだろうか。

こうも話がややこしくなるのは、現在の日本シリーズが、リーグ優勝を遂げた両雄による日本一をかけた決戦とはなっていないことにあるのではないだろうか。現在の日本のプロ野球のフォーマットは、各リーグの優勝チーム以下3位までの上位チームによるクライマックスシリーズという大会の勝者による日本シリーズを行い、その勝者に「日本一」の冠を与えるということになっている。つまり、リーグ優勝と、シリーズ優勝は直接的に連動していないのだ。これは、長いシーズンを戦った勝者に配慮した結果なのだが、私はCSの勝者がリーグ優勝という方がすっきりするのではないかと思う。つまりは、長いシーズンは、「リーグ優勝」を決めるCSのための予選ということだ。となれば、レギュラーシーズン3位に滑り込み、「リーグ優勝」の可能性が残りうる限りは、高橋監督が辞める道理はないはずである。

 例えば、国際大会では必ずしも勝率が高いチームが優勝するわけではない。あらかじめ決められたフォーマットの中で、最終目標である優勝にたどり着くまでに「捨てゲーム」を作るのも監督の手腕ということだ。これをプロのレギュラーシーズンに当てはめると、5割を切ろうが3位以内を確保することがリーグ優勝への道であり、故障者やチーム状況を考えて監督は「3位以内」(無論より上位の方が有利であることは言うまでもないが)を目指せばよい。そしてポストシーズンの短期決戦に総力をつぎ込んで優勝を勝ち取ることもひとつの方法論となる。それならば、まだ戦いの終わっていない3位チームの監督が「成績不振」のために辞任に追い込まれる必要もなくなるだろう。

 むろん私も、5割を切った3位チームが「日本一」になるようなシステムがいいとは思わない。しかし、これからシーズン最後の「クライマックス」に臨もうかというチームが、「成績不振」のため監督辞任という、いわば白旗を上げ、おまけにその後任まで半ば決まっているという「異常事態」に、なぜ、ルール上「日本一」を目指しうるチームが「成績不振」のレッテルを貼られなければならないのかを考えたとき、日本シリーズに出場するCSの勝者にこそ「リーグ優勝」の勲章を授けるべきではないかと思った次第である。

 いずれにせよ、現行のポストシーズン制度は考え直すべき時期に来ていることは間違いない。

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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