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どれくらいの医師が新型コロナに感染したのか? 「感染したらどうしよう」と悩む時期もあった

倉原優呼吸器内科医
(筆者自身)

私の同僚や知り合いの医師も、新型コロナに感染したという人が増えてきました。今や日本では4人に1人は新型コロナに感染している状況で、抗体検査から推測すると、約半数がすでに感染したとされる地域もあります。

医師約1,000人の調査

医師会員が多数登録している医療メディアCareNetが実施した1,000人規模の『医師の新型コロナ感染状況に関するアンケート』(1)を紹介したいと思います。

これまでに新型コロナに感染したことがあると答えたのは、医師の26.1%でした(図1)。ほとんどが1回の感染でした。

図1. 新型コロナに感染したことがあるかどうか(医師1,008人)(CareNetに転載許諾を得て参考資料1より引用)
図1. 新型コロナに感染したことがあるかどうか(医師1,008人)(CareNetに転載許諾を得て参考資料1より引用)

厚生労働省の「(2023年1月版)新型コロナウイルス感染症の“いま”に関する11の知識」(2)では、過去に新型コロナと診断されたのは、日本人口の23.2%とされています。比率は微差ですが、統計学的な検定を行うと、この標本では一般人よりも医師のほうが有意に感染率が高い状況と言えます。

感染対策を講じているとはいえ、よくこの数字におさまったなという印象もあります。

ちなみに、新型コロナワクチン接種回数が多いほど新型コロナに感染した医師は少なく、5回接種者では85%が感染していないという結果になりました。

一時は恐怖を感じていた

医療現場の実感として、ウイルスの毒性が最も強かったのは、2021年春~夏にかけてのアルファ株・デルタ株の流行期でした。

現在のコロナ病棟の景色とはまるで別世界で、入院してくる患者さんのほとんどが酸素療法を適用され、次から次へ人工呼吸器につなぐ状況でした。

当時、不安をできるだけ出さないようにしていたので、今だから言えることですが、2021年の春は「感染したらどうしよう」という恐怖と戦いながら診療していました。

他院の医師がコロナ病棟に入院してきたこともありました。「もう明日は我が身だな」と思っていました。

医療従事者の感染リスクが高かったのは、人工呼吸器につなぐための気管挿管などの救命処置を行うときでした。部屋中にエアロゾルが飛びます。当院では、マネキンを使って、感染リスクをできるだけ低く気管挿管する練習をしていました(写真)。

写真. マネキンを使った気管挿管の練習(筆者撮影)
写真. マネキンを使った気管挿管の練習(筆者撮影)

やがてウイルスは変異を繰り返し、新型コロナワクチンが普及し、感染しても致死的になりにくい変異ウイルスに進化したのは、ありがたいことでした。

しかし、かわりに強い感染性を獲得したオミクロン株は、医療現場に大きなダメージを与えました。第7波・第8波は、医療従事者が次々と感染していきました(図2)。人手不足によって、病院の機能がほぼ麻痺する状態に陥る地域もありました。

図2. 新型コロナに感染したのはどの時期か(医師278人)(CareNetに転載許諾を得て参考資料1より引用)
図2. 新型コロナに感染したのはどの時期か(医師278人)(CareNetに転載許諾を得て参考資料1より引用)

まとめ

「5類感染症」に移行し、インフルエンザと同じように対応する形になったとしても、医療従事者が感染すれば休職を余儀なくされ、院内クラスターの規模によっては病院の機能を制限せざるを得ません。

今回は医師の感染率についてデータを紹介しましたが、現場では実際にケアにあたる看護師のほうが圧倒的に感染リスクが高いです。

この3年間、最前線に立ち続けてきたのは、コロナ病棟の看護師であることを忘れないでいただきたいと思います。

(参考)

(1) CareNet(医療者向けサイト):コロナに感染した医師はどれくらい?ワクチン接種回数別では?(URL:https://www.carenet.com/news/general/carenet/55768)(会員限定ページ) ※1月30日(月)より会員外からもアクセス可能。

(2) 厚生労働省:(2023年1月版)新型コロナウイルス感染症の“いま”に関する11の知識(URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000927280.pdf

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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