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コロナワクチン被害者「河野太郎大臣にブロックされた」SNSで苦境を訴えた直後 法廷で証言

楊井人文弁護士
河野太郎大臣にX上でブロックされた女性のスマホ画面(筆者撮影)

 河野太郎デジタル大臣が2022年12月、新型コロナワクチン接種後の健康被害が生じ、苦境を訴えた一般人女性のSNSアカウントをブロックしていたことがわかった。投稿は「生活も苦しくもう限界です」「どうかワクチン被害者も助けてください」などと訴えたもので、河野氏を誹謗中傷する内容ではなかった。

 女性は「まさかこんな扱いを受けるなんて夢にも思わなかった。ショックだった」と話している。河野氏はこの女性をブロックしたことについてコメントを出していない。

 誹謗中傷をしたわけでもないのに河野氏からブロックされたという報告は相次いでいるが、メディアはほとんど報じていない。

「まさかこんな扱い。すごいショックだった」

 河野氏からブロックされたと証言したのは、岩手県在住の宍戸千穂さん(40代)。

 2021年10月、新型コロナワクチンの1回目接種をした直後から指先の痺れなどを発症し、その日のうちに病院でアナフィラキシー(*)と診断された。まもなく発熱や、身動きできなくなる全身倦怠感など様々な症状に見舞われた。「それまで持病はなく、体力には自信があった」が、接種翌日から飲食店の立ち仕事を続けられなくなり、失職。集団接種会場ではアレルギー体質を申告していたが、医師に「アレルギーがあっても大丈夫。このワクチンは絶対打った方がいい」と言われ、その言葉を信じたという。

 河野氏にブロックされたのは、2022年12月8日のことだ。前日、河野氏が「"被害者救済法施行後 改善のため検討会設置へ" 河野消費者相」というニュースをX(旧Twitter)上でシェアしていたのが宍戸さんの目に止まった。旧統一教会の被害者救済を図る法案審議中に、消費者担当大臣としてした答弁を報じた記事だった。

 宍戸さんは、引用リプライという形で「1年前のワクチン接種後から体調不良で生活も苦しくもう限界です。救済制度申請したけど結果が来るまで保ちそうにありません。/どうかワクチン被害者も助けてください。/何かあったら責任取ると言ってましたよね?その言葉は嘘なんですか?」と投稿した。すると、その日のうちに河野議員にブロックされた。

 健康被害救済制度では当初、接種後2日分しか補償されず、それ以降の分の審査が長引いていた。河野氏に窮状を訴えた当時は、借金をしながら療養生活が1年を超え、追い込まれていたという。

(*) 後に健康被害救済制度に基づく審査では「急性アレルギー反応」と認定された。

河野大臣にブロックされる直前の投稿(筆者撮影、アカウント名は伏せています)
河野大臣にブロックされる直前の投稿(筆者撮影、アカウント名は伏せています)

法廷で訴え、覚悟の実名証言 河野氏の答えは…

 宍戸さんは今年4月ようやく、接種後3日目以降の分についても健康被害の認定を受けた。一方で、コロナワクチンのリスク情報について十分周知しなかったことは問題だとして、遺族らが国の責任を問う集団訴訟(4月提訴)に参加した。

 その第1回口頭弁論が8月19日、東京地方裁判所で開かれた。宍戸さんは陳述書を読み上げ、河野氏にブロックされた出来事や、「心因性だ」と鼻で笑われるなど医療機関の対応に言及。「もし健康被害が起きたとしても、しっかりフォローされ向き合ってくれるものだと思っていました」「どうかワクチン接種後の健康被害にも目を向けてください。立ち止まり検証してください」と訴えた。

 司法記者クラブの会見でも、ブロックされた時の心境について「そういう対応なんだなと、すごいショックだった」と語った。

 第1回口頭弁論で当事者の陳述が認められるのは異例で、他に3人が法廷で陳述した。遺族を含む原告13人全員が、救済制度で厚労大臣による被害認定を受けている。

 宍戸さんは今回の取材に実名で応じた。筆者は経緯を聞き取り、救済制度に基づく認定通知書などを確認した。

 8月20日、筆者は河野氏の議員事務所にFAXで取材を申し込み、ブロック直前の投稿画像を送った上でコメントを求めたが、回答はなかった。23日、事務所の職員が電話口で「この件は回答しません」とのみ返答した。

宍戸さんが接種から2年半後に健康被害が正式に認定された(筆者撮影)
宍戸さんが接種から2年半後に健康被害が正式に認定された(筆者撮影)

【解説】ワクチン担当相の責任は メディアは問題意識をもって報道を

 宍戸さんは河野氏にブロックされる直前の投稿で「何かあったら責任取るって言ってましたよね?その言葉は嘘なんですか?」と問いかけていた。

 河野氏はブロックした理由についてコメントしていないが、おそらくこの言葉に引っかかったのであろうと推測する。

 これについては少し説明が必要だろう。

文藝春秋サイト(筆者撮影)
文藝春秋サイト(筆者撮影)

 実は、2021年6月、文藝春秋に「河野太郎ワクチン担当大臣『全責任は私が引き受ける』」と題する記事が掲載されている。その中で、河野氏は、自治体に接種を最優先にするよう求めた上で、「全ての責任をとる」と明言していた。

急なキャンセルなどで余ったワクチンを廃棄してしまうのは余りにももったいない。『貴重なワクチンが無駄にならないよう、自治体の裁量で有効活用してほしい』とお願いしています。例えば、接種券がない人に打って、あとから接種記録を入力してもいいのです。

仮に自治体の独自の判断で批判が出たら、私が全ての責任をとる。貴重なワクチンを無駄にしないよう、こっちで全部引き受けるので、遠慮なくやってもらいたいです。

 宍戸さんの問いかけは、このような発言が念頭にあったとみられる。当然、批判的な意味合いが込められているが、誹謗中傷に当たらない。この程度の批判は閣僚として甘受すべきものであることは明らかだろう。一つ一つに応答できないのならまだしも、訴えを封じ込めるブロックなど論外だ。

お見舞いの言葉なし

 今年4月、河野氏はX上で、自身に寄せられている様々な疑問についてQ&A方式で回答した。「コロナワクチンの後遺症の責任はとらないのですか?」という疑問にも答えている。

 河野氏は「多くの皆様のご協力を頂いて、難しいとされていた短期間での接種が進んだ」と接種実績を強調する一方、健康被害救済制度については厚労省の型通りの説明を繰り返しただけで、お見舞いやお悔やみの言葉はひとつもなかった(2024年4月21日投稿)。

 河野氏は、メディア等を通じて「接種ありき」で、健康被害リスクなど負の側面に言及しようものなら「デマ」と見なされる風潮に一役買ってきた面がある。

 例えば、コロナ担当相退任後だが、河野氏は2021年12月に「ワクチンでも心筋炎になる人がいるんですけども、確率的にも小さいし、軽症です。… 全然気にすることはありません」と断定していた(同氏のYouTube)。だが、翌年、19歳男性や14歳女性が3回接種後に心筋炎で相次いで死亡する事態が起きていた(詳しくは筆者のニュースレター)。そのうち一人の遺族が、宍戸さんと同じ集団訴訟原告団に加わっている。

 どんなワクチンでも接種後健康被害は不可避的に生じるとされる。避けられないとしても、できるだけ減らす努力は不可欠だろう。では、河野氏は被害軽減や救済制度の啓発などに、意を注いだことはあるのだろうか。

 現実には、自治体も厚労省も審査体制に不備があり、深刻な滞留が起きた。厚労大臣が問題を認めたのは2022年11月。その後の体制拡充で救済認定は進みつつあるが、実態把握や社会の理解はほとんど進んでいないと指摘されている

 ワクチン担当大臣の時に接種率向上に尽力したことは確かだ。だが「全ての責任をとる」と公言した以上、負の側面について全く関係がないと言えるだろうか。

厚生労働省「疾病・障害認定審査会」の審議結果資料(2024年8月22日現在)(筆者撮影)
厚生労働省「疾病・障害認定審査会」の審議結果資料(2024年8月22日現在)(筆者撮影)

ブロックは知る権利も阻害する

 河野氏は、「Xなどでブロックするのはいかがなものか?」という疑問について「基本的に誹謗中傷、いやがらせをする人はブロックしています」と従来の方針を述べる一方、「誹謗中傷もしていないのにブロックされたという声も時々聞きます。そのような方には申し訳なく思っています。もしそのような方がいれば、フォローしているどなたかを通じてでもお知らせいただければ解除いたします」とコメントした。「過剰ブロック」批判を意識したとみられる(河野氏の投稿)。

 だが、その後も、誹謗中傷をしていなくてもブロックされたという報告がいくつも見られる。

 河野氏は2021年の自民党総裁選に立候補した際、「見るに堪えない罵詈雑言を、みんなが楽しくやろうと思っているときに私のフォロワーに読ませる必要はない。私は堂々とブロックする」と発言し、波紋を呼んだ(日経新聞朝日新聞)。

 国民には、行政情報の発信だけでなく、要職にある政治家の言動・振る舞いについても知る権利がある。度を超えた侮辱等でなければ、議員や閣僚に意見を伝える自由もある。ブロックはそれらを妨げる行為だ。

 大半の国民が閲覧できる情報を、一部の国民にだけ閲覧させないことは、不当な差別的取扱いに当たる可能性もある。

 宍戸さんが語ったように、公権力者からブロックされた側が受ける精神的なショックも軽視できない。一般アカウントのブロックとはインパクトが異なる。

 そもそも、政府要職者のSNSアカウントはその政治家「個人」のものなのか。政治活動の自由との兼ね合いもあるが、在職中は行政の管理下に置くことも含め、議論が必要ではないか。

 誹謗中傷が繰り返されるのであれば「ミュート」機能や、不適切なリプライ投稿を「非表示」にする機能などを活用すればいい。

 河野氏の遠慮なくブロックする行為は、環境省職員が水俣病被害者の発言中にマイクの音を切った問題とも、通じるものがある。

 国民の知る権利の観点からも、民主主義の観点からも、看過してよい問題とは思えない。

 メディアはもっと問題意識をもつべきではないだろうか。

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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