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加藤厚労相、ワクチン健康被害の審査遅れ認める 心筋炎の頻度を比較したリーフレットは削除

楊井人文弁護士
衆議院厚生労働委員会で答弁する加藤勝信厚労相(11月2日、衆議院TVより)

 新型コロナワクチン接種に伴う健康被害の申請が大幅に増えていることに関連して、加藤勝信厚労相が審査が終了したのは受理件数の約25%にとどまり、迅速化が必要との認識を示した。11月2日、衆議院厚生労働委員会で阿部知子議員(立憲民主党)の質問に対して答弁した。

 加藤厚労相は、審査会の開催頻度を増やすなどして体制強化を図っていると説明している。しかし、実際は毎月、数百件の被害補償申請を受理する一方、審査結果が出ている案件は月平均80件程度。審査未了件数が増加の一途をたどっているのが現状だ。

 また、ワクチンの副反応とされる心筋炎の頻度が新型コロナに感染したときよりも少ないと説明した啓発用リーフレットを、厚労省が撤回していたことも判明した。比較の仕方がミスリードとの指摘が、筆者やファクトチェック団体などからなされていた。

 これらの事実について、主要メディアは報道していない。

(既報)

新型コロナワクチン健康被害の審査滞留か 申請4千人超で審査未了率75%に 被害認定は920人(2022/9/13)

厚生労働省「疾病・障害認定審査会」の資料に基づき、筆者作成(以下、同)
厚生労働省「疾病・障害認定審査会」の資料に基づき、筆者作成(以下、同)

 加藤厚労相は11月2日、健康被害救済制度に基づく審査状況について「これまでギランバレー症候群の疑いがあるケースを含めて、1096件について予防接種と因果関係が審査会において認定されているところであります」と答弁した。これは10月27日の審査会で公表されている数値で、死亡との因果関係が認定されたのは4件。受理件数は同日時点で4853件に達している。

 また、加藤厚労相は「(申請受理)件数が非常に増えてきておりますので、現在は審査会の開催頻度を3ヶ月に1回を毎月にする、事務的能力を拡充するといった対応をとらせていただいています。それでもなお進達受理件数が約5000件に対して処理できたのが1000件でありますから、さらに迅速な審査ができるよう努力をしていきたいと考えております」と述べ、体制を拡充しても追いついていない現状を事実上認めた。

 審査会は2021年8月以降、毎月1〜2回行われている(今年8月を除く)。だが、昨年11月〜今年1月の3ヶ月間は377件の審査結果を発表していたが、今年8〜10月は217件とむしろペースダウンしている。

 厚労省によると、これまで健康被害救済制度に基づくワクチン種別の認定件数で、最も多かったのはMMRワクチンの1041件。インフルエンザワクチンは191件(1977年〜2021年の累計)で、コロナワクチンの被害認定件数は群を抜いて多くなっている。

 筆者は健康被害審査の滞留問題を9月に報じたが、これまでのところこの問題を取り上げた主要メディアの報道は確認できていない。

新型コロナワクチン健康被害審査状況の最新データや内訳は、コロナ禍検証プロジェクトの随時更新ページ(筆者運営)を参照のこと。

リーフレットの心筋炎頻度の比較グラフに情報操作の疑い 半年以上たってから削除

 同日の厚生労働委員会では、厚労省が「新型コロナワクチン接種後の心筋炎・心膜炎について」と題した啓発リーフレットのグラフについて、「ワクチンを受けた場合」と「新型コロナにかかった場合」の心筋炎等の報告頻度を比較したグラフに問題があるとの指摘を受け、同省のサイトから削除したことを認めた。

 阿部議員の質問に対し、厚労省健康局長が「このリーフレットにつきましては色々ご指摘をいただきましたので、すでにホームページ等から削除しています」と答えた。

 問題のリーフレットは、昨年10月15日に公開された。「ワクチンを受けた場合」に比べて「新型コロナにかかった場合」の方が心筋炎等の報告頻度が圧倒的に多いようにみえるグラフを掲載していた(今年6月時点のアーカイブサイト)。

昨年10月から頒布されていた厚労省の啓発リーフレット(現在は削除)
昨年10月から頒布されていた厚労省の啓発リーフレット(現在は削除)

 しかし、「新型コロナにかかった場合」と記載されたデータの母数は、実際は「新型コロナで入院した患者数」だったことが判明していた。新型コロナの感染者のうち入院患者は一部にとどまるため、「感染した場合」の発生頻度がかなり過大に評価されていた疑いがある。そもそも、未接種の健常者が新型コロナに感染する確率も100%ではないため、「接種した場合」と「感染した場合」のリスクを単純比較すること自体にも疑問が生じていた。

 また、このリーフレットを公表した後から、ワクチンを受けた場合の心筋炎等の報告頻度が大きく上昇したが、リーフレットのデータは半年以上更新されなかった。

 このリーフレットの問題点は筆者が今年2月の検証記事で指摘したほか、調査報道などに取り組む非営利メディア「InFact」もファクトチェック記事でミスリードと検証していた。

 リーフレットは8月に第2版に更新され、問題が指摘されたグラフは削除された。新たに掲載されたグラフは、10代男性の心筋炎の報告頻度(モデルナ)が100万人あたり150人超であることが示されている(元データの資料は8月5日公表)。第1版では28.8人と記されており、かなり過小評価されていたことがわかる。

 一方、厚労省のQ&Aサイトでは、現在も「ワクチン接種後に心筋炎や心不全が疑われた報告の頻度やその重症度、突然死の報告頻度よりも、新型コロナウイルスに感染した場合のそれらの発症頻度は高く、重症です」と説明している。

 しかし、先ほどの委員会で、厚労省健康局長は、リーフレットのグラフで入院患者を母数にした報告頻度を掲載した問題について「感染後に心筋炎・心膜炎を発症した人を把握することが困難だったため」と答弁していた。いまも「感染した場合」の発症頻度のデータを持っていない可能性が高い。

 したがって、Q&Aサイトの説明も依然としてミスリードの疑いが残る。

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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