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内山高志、間もなくV12戦のゴング

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
明日、12人目の挑戦者を迎えるチャンピオン、内山(写真:アフロスポーツ)

「試合前日に、緊張して眠れなかったってことは無いです。対戦相手のビデオを見て、作戦を考え過ぎちゃって興奮したことはあります。なので、試合の前夜に相手のビデオを見ることはしません」

明日、12度目の防衛戦を迎える内山高志。

内山とボクシングの出会いは、彼が中学2年生の時だ。当時はサッカー部に所属していた。

「たまたまTVをつけたらボクシングをやっていたんですよ。辰吉さんの試合でした。面白いなぁと惹かれて。それで好きになって、TVのボクシング中継は必ず見るようになりました。

ボクシング部のある高校ということで、花咲徳栄を選んだんです。でも、向いてるなと思ったことは無かったです。同じスタートで始めた同級生にもやられちゃうし。新人戦も同級生に負けたし。まぁ当時は、顧問の先生に言われたことを何となくやっていたのですが…」

サッカー選手だった中学時代は、「今のミスは俺の責任じゃないだろう」などと感じたこともあったが、1対1の個人競技における敗北は言葉に表せないほど、自身を打ちのめした。

「こんなに悔しいのかと」

内山がボクサーとして一皮剥けたのは、拓殖大1年時である。

「1年次のリーグ戦、5~7月は荷物持ちでした。しかも同級生のです。悔しかったですね、本当に。大学の練習は月から土までで、日曜日が休みなんですね。僕は、日曜日は母校の高校に行って練習しました。夏休みも大学は1ヶ月半くらいオフですから、皆、帰省して練習もしない。でも僕は、その間、高校やプロのジムで練習したんです。『皆、もっと休め、休め』って思いながら(笑)」

同年11月の全日本選手権に、埼玉県代表として出場した内山は、福岡県代表の拓大で2学年上だった先輩に勝利し、レギュラーの座を奪う。

「練習すれば強くなるんだな」ということを学びました。それで楽しくなっていったんです。楽しくなると伸びますよね。僕、世界チャンピオンになったから、30歳以降も伸びているのかもしれないです。こうやって世界タイトルを防衛していけば、楽しさも大きくなるし、モチベーションも上がります。欲が出て来るんですよ。最初は、『世界チャンピオンになれたらいいな』で、いざなってみると、『初防衛戦で負けたら格好悪いな。2回は防衛したいな』っていう感じで、どんどん変わってきました」

そして今、日本人世界王者最多防衛記録更新が近付いている。そんな場所まで上りながらも内山は言う。

「応援して下さる方もどんどん多くなってきましたが、サインを求められる度に思うんですよ。『俺のサインなんているの?』って」

そんな自然体な姿が、内山高志の魅力でもある。

間もなく12度目の防衛戦のゴングが鳴る。今回は、どんなファイトを見せてくれるか?

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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