全国に広がるごみ屋敷問題、どのように解決するか
全国で増加するごみ屋敷問題
ごみ屋敷とは、家屋の内外にさまざまな物が堆積し、居住民のみならず周辺環境に悪影響を及ぼす住居のことを指します。これにより環境美化の問題をはじめ、堆積物や樹木が敷地外に溢れ出る、悪臭がする、虫やネズミが繁殖する、火事が心配だといった声が寄せられています。
総務省は8月28日、全国181事例のごみ屋敷の調査結果を発表し、居住者の7割が健康や経済面で課題を抱えていたことが明らかになりました。
新聞やテレビでごみ屋敷に関するニュースが報道されるようになったのは2005年頃からで、それ以降全国でごみ屋敷問題は広がり続けています。
環境省が令和5年に発表した実態調査によると、過去5年間に確認されたごみ屋敷件数は全国自治体で5224件にのぼります。最も多いのは東京都で880件で、次いで、愛知県538件、千葉県341件などが続きます。このうち行政の介入など何らかの形で改善されたものは約半数の49.5%で、残りの約2600件は未解決状態という報告でした。
ただし、この件数は自治体が認識している件数であり、おそらく実際のごみ屋敷の数はこの数倍以上であろうと思われます。
ごみ屋敷の背景にあるもの
ごみ屋敷が発生する原因はさまざまですが、なかでも孤立、困窮した高齢者のセルフネグレクトによる場合が多いとの調査結果があります。
内閣府経済社会総合研究所による民生委員・地域包括支援センターを通じた調査によると、セルフネグレクト状態にある高齢者の庭及び歩道、家の外の状態は3割が「ほとんどメンテナンスされていない、みすぼらしい、ゴミやガラクタがある」状態であると回答しています。(「セルフネグレクト状態にある高齢者に関する調査」(平成23年))
また、孤立高齢者のみならず、他の要因でごみ屋敷化する場合もあります。家族や地域からの孤立、統合失調症やうつ病などの精神疾患、経済的困窮、判断力の低下、認知症、身体能力の低下、身体障害、身体疾患など、これらが原因、もしくは複合的な要因が重なった結果、ごみ屋敷化をもたらしたという調査結果もあります。(上智大学法学部教授 北村喜宜/日本都市センター研究員 釼持麻衣「都市自治体における「住居荒廃」問題の現状と対応状況」)
ごみ屋敷問題、解決に向けた対応策
このように見ていくと、ごみ屋敷問題を解決するためには、単純にごみを撤去すれば事足りるというのではなく、ごみが捨てられなくなった原因も取り除かねば根本的解決につながらないことがわかります。
一般的な自治体のごみ対策セクションは、環境衛生部門ですが、これに加えて高齢者福祉や障害者福祉、生活保護部門などが、相互に連携して解決にあたる、いわゆる包括的な支援体制が必要とされます。しかし実際には長年の縦割り行政の弊害もあり、こうした仕組みがうまく機能している自治体は少ないのではないでしょうか。
ごみ屋敷対策条例の制定
現在、ごみ屋敷問題に対応する国の法律は存在していません。また、自治体にもごみ屋敷に対する立ち入り調査や撤去の権限はありません。そのため撤去に関する同意が得られず、そのままになっているケースがあるほか、一旦撤去しても再び元に戻る場合も多いと言われます。
自治体が本気でごみ屋敷問題に向き合うためには、罰則や強制代執行を可能とする条例の制定が必要となります。10年ほど前から条例を制定する自治体が少しずつ増えてきていますが、先ほどの環境省調査によると、現在ごみ屋敷事案に対応することを目的とする条例を制定している自治体は101市区町村で、全市区町村のわずか5.8%にとどまっています。多くの自治体は、従来型のやり方で問題解決を図ろうとしているが、根本的な問題解決にはほど遠いといえます。
より積極的に国が関与していくべきではないかという意見もあります。2023年5月29日読売新聞社説では、「国は、ごみ屋敷に関する明確な対処方針を示す必要がある。廃棄物処理法などを改正し、近隣住民の生活を脅かす悪質な事例に対して実効性のある措置をとれるようにしてもらいたい」と述べています。ごみ屋敷対策の所管省庁は一義的には環境省でしょうが、根本原因を除去するためには、厚生労働省、総務省など他省庁との連携が必要とされます。