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国民を絶望させた、北朝鮮軍「瘦せこけた少佐たち」

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(デイリーNK)

ウクライナ戦争に派兵された北朝鮮の兵士たちが脱北(逃亡や意識的な投降)するのか、しないのかに、一部で関心が集まっている。彼らがどのような状況に置かれるかで変わってくるのだろうが、脱北する素地は大いにあると言えるだろう。

北朝鮮軍の将校や兵士たちが置かれた理不尽な現実は、外の世界からはなかなか想像の及ばないものだ。特に、家族からの仕送りがなければ栄養失調で死んでしまいかねないとされる「飢え」は、極限レベルに達している。

ひとつのエピソードを紹介しよう。新型コロナ流入防止のため、北朝鮮が国境を封鎖していた2021年の夏、両江道(リャンガンド)の三水(サムス)郡と金正淑(キムジョンスク)郡の中朝国境では、軍の部隊が脱北防止対策に取り組んでいた。

といっても、地元に多く生えているカラマツやクヌギの木を切ってX字型に組んだ障害物に空き缶と空き瓶を紐でぶら下げ、人が接近すると音がするという原始的な仕掛けを作っていただけだ。

このような作業に当たるのは、通常なら末端の兵士だが、この工事は地元に駐屯する第10軍団の少佐以上の軍官(将校)が行っていた。その意図についてデイリーNKの現地情報筋は、「末端兵士の脱北防止のため」だと説明した。

(参考記事:「気絶、失禁する人が続出」北朝鮮、軍人虐殺の生々しい場面

「軍人に対する食糧供給は年を追うごとにひどくなった。栄養失調問題が深刻で、国境付近での作業途中に脱北が発生しかねない点を考慮して、家族のいる軍官を作業に当たらせている」(情報筋)

実際、国境警備のために増派された朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の第7軍団、第11軍団(暴風軍団)の中からも脱北者が続出する事態となっていた。暴風軍団は今回、ウクライナ派兵のためロシアに送られたとされる部隊だ。

しかし、まともな食事にありつけない北朝鮮から、国境の川さえ渡れば、普通に食べ物がある中国だ。我慢しろという方が無理な話である。結局、家族と言う名の「人質」がいる軍官に、工事を任せることになったということだ。

その軍官すらも、栄養状態は決して良好とは言えない。そんな彼らを目の当たりにした現地住民らは「あんなのでも軍隊かと思うほど情けない」と口々に語っていたという。

「動員された少佐、中佐らはいずれも栄養失調状態でやせこけており、彼らのやつれようを見ると、一般の兵士の状態はもっとひどいだろう」と噂されていたとのことだ。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

ロシアに送られた暴風軍団はエリート部隊であり、これよりはマシな待遇を受けていたかもしれない。しかし、彼らも他の部隊がどのような状態であるかについて無知ではないはずだ。

ウクライナやロシアの戦場で極限状態に置かれたとき、彼らはどんな選択をするのだろうか。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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