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サンウルブズは秩父宮で初勝利を挙げられるか? その課題と可能性を検証する!

永田洋光スポーツライター
チーターズ戦ではマン・オブ・ザ・マッチにも選ばれた江見翔太。急成長中の今が旬!(写真:Haruhiko Otsuka/アフロ)

トップリーグのレベルの高さを示したサンウルブズの若手たち!

サンウルブズの長く厳しい最初の遠征が、25日のストーマーズ戦(@シンガポール)で終了した。

サンウルブズは、今季初めて前半を24―20とリードし、後半立ち上がり2分にもCTBデレック・カーペンターがこの試合2つめのトライを挙げ、SO小倉順平のコンバージョンで31―20と点差を広げて、喉から手が出るほど欲しい初勝利に近づいた。

試合時間が残り10分となった時点でも、スコアは31―34だ。

しかし、勝利への渇望は、ストーマーズにラスト10分で2トライを奪われるという残酷な結末(最終スコアは31―44)に終わって満たされず、初勝利は休養週(バイウィーク)を挟んだ4月8日のブルズ戦(@秩父宮ラグビー場)に持ち越されることになった。

この遠征での試合すべてに言えることだが、サンウルブズは若い選手たちの頑張りで着実にトライを奪い、相手を追い詰めながらも、勝利という果実を得られなかった。前キャプテンの堀江翔太、昨季までハイランダーズでプレーしていた田中史朗が、4日のキングズ戦終了後コンディション調整のために帰国するなど、若いメンバーを中心に戦わざるを得なかったので、この結果はある程度予想されたが、そうした苦しい状況でも選手たちが頑張ったからこそ「惜敗」という結果が続いたのだ。

サンウルブズのフィロ・ティアティア ヘッドコーチ(HC)は遠征を総括して、「メンバーは期待値をはるかに超えてくれた。成長過程に関して、嬉しく思う」とコメントしたが、確かにそれは日本でテレビを見ながら応援していたファンの気持ちに通じるものだ。

2月25日のハリケーンズとの開幕戦に途中出場してスーパーラグビーにデビューした江見翔太が、所属するサントリーサンゴリアスでも未経験のFBでここまで成長するとは――17日(日本時間18日未明)のチーターズ戦では、福岡堅樹のスーパートライをアシストしたことが評価されてマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた!――予想できなかったし、途中からチームに加わり、ストーマーズ戦に先発して接戦を演出した小倉のパフォーマンスも、大方の予想を上回るものだった。

あるいは、キヤノンイーグルスから加わったHO庭井祐輔が、得意のスクラムだけではなく、ボールキャリーやタックルといった一般プレーで素晴らしい働きをしたことも強く印象に残った。

トップリーグのレベルが着実に上がっていることを、彼らは、スーパーラグビーという世界最高峰リーグで証明してくれたのである。

ではなぜ、勝てなかったのか?

けれども、結果として残った数字は開幕から5連敗。しかも、5試合で獲得した勝ち点は1ポイントにとどまった。

選手たちのレベルアップと結果の乖離(かいり)は何を意味するのか。

月並みだが、ラグビーに対する理解度の差。そこに、結果が出ない原因がある。

たとえば、ストーマーズ戦の前半15分過ぎにこんな場面があった。

自陣深く攻め込まれたサンウルブズがボールを奪って逆襲に転じた。

ゴールラインを背負った状況とはいえ、左サイドでは人数が余り、一番外側にはこれまで4トライを挙げてランキング4位タイの福岡が待ち構えている。福岡に渡ればビッグチャンスが見込める場面だ。サンウルブズも当然左にボールを回す。そして、福岡の手前でパスを受けたFBジェイミー・ジェリー・タウランギがキックを蹴って福岡を走らせた。

「ああ、蹴っちゃった!」と、落胆したのは私だけだろうか。

確かに場所が自陣22メートルラインの中だから、ここでキックを蹴るのは「アリ」だ。

しかし、これまでの試合で、サンウルブズはキックを蹴ってからの反応が遅く、しばしば相手にカウンターアタックからの大きなゲインを許している。それを考えれば、ここはキックを我慢して福岡にボールを託し、福岡にディフェンスが迫ったところで初めてキックを使うのが正解だろう。

これは結果論では断じてない。

福岡がボールを持てば、ストーマーズのカバーディフェンスは彼を警戒せざるを得ず、前方に出てくる。つまり、その裏に大きなスペースができるのだ。そこでキックを使えば、たとえストーマーズの戻りの防御が先に追いついたとしても、カウンターアタックを仕掛けるのが難しくなる。福岡が前進する分、地域もストーマーズのゴールラインに近くなるからだ。

しかし、タウランギが蹴った時点では、まだストーマーズのバックスに戻ってからカウンターアタックを仕掛ける余裕があった。

その結果、福岡の懸命の追走にもかかわらず、ストーマーズFBディリン・レイズにカウンターアタックを仕掛けられ、最後はCTBのEW・フィルヨンにトライを奪われた。

自陣で耐えてつかんだチャンスが、たった1本のキックで暗転し、失点という最悪の形で終わったのである。

キックに対する意識の向上が躍進のカギ!

現代ラグビーでキックは非常に大切なスキルだ。

日本代表を率いるジェイミー・ジョセフHCも、アタックの過程で積極的に相手防御の背後を狙うキックを使うように指示している。サンウルブズもまた同じようなコンセプトで戦っているのだが、皮肉なことにキックを多用した最初の2試合はまったくいい形を作れず、パスによるアタックを使い始めた3戦めのチーターズ戦からスコアが拮抗するようになった。

これは何を意味するのか。

考えられるのは、キックについての技術的な未熟さと、なぜキックを使うかという意図に対する理解の浅さ、という2つの要因だ。

キックは、自分たちが保持しているボールを手放す行為だ。である以上、キックを使う場合には、一度手放したボールをどう再獲得するかについての緻密な戦略が求められる。

キックを蹴って、そのボールをふたたび獲得できれば大成功だし、捕った相手をその場で倒し、ボールをもぎ取ってさらにアタックに転じられれば万々歳だ。そこまでいかなくこても、相手がタッチラインに蹴り出して、次のプレーがマイボールラインアウトとなれば十分に成功と言えるし、最悪でも相手がアタックする地域を後退させることが求められる。

そのためには、味方が追いつける地点に正確なキックを蹴る精度と、ボールが蹴られたらチーム全員が歯を食いしばって前へ走り、相手の反撃を全力で封じることが求められる。

ところがサンウルブズは、ここでしばしば防御が破綻し、カウンターアタックからの大きなゲインを許している。キックの拙さから相手に簡単にボールを渡したり、1対1でのタックルをミスしたり、追走する選手が防御の位置取りを間違えたりと、課題山積なのである。

サンウルブズは今、ボールを継続した場合のアタックの精度がかなり上がり、セットプレーの獲得率も昨季より大幅に向上した。

だからこそ、「善戦」を「勝利」の2文字に置き換えるために、キックに対しての意識を研ぎ澄ませて欲しいのだ。

意図が不明確なキックは相手にボールを渡すだけの結果に終わり、意図が明確でも反応が遅れれば、同じように相手にチャンスを与えるだけに終わる。若い遠征メンバーが、海外に出て学んだのは、そうしたキックに関する「肝」の部分だった。

月が明けて4月になれば、久しぶりの秩父宮で、おそらくこれまでメンバーから外れていた主力メンバーがサンウルブズに戻り、この「肝」をどうすればいいかを示してくれるだろう。

もちろん、ファンの誰もがベストメンバーでの勝利を待望し、それを実現することがチームのミッションでもある。

そのとき、試合に出る出ないにかかわらず、今回の遠征で悔しい思いを続けた選手たちは、キックに対する反応をもう一度真剣に学んで欲しい。19年に日本で開催されるW杯で代表に選ばれたいと熱望するのならば、それがもっとも大切な「レッスン1」になる。

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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