Yahoo!ニュース

リオ五輪男子7人制4強の日本代表キャプテン、桑水流裕策を表す4つの証言。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
膨れ上がった「ぎょうざ耳」をテーピングで保護。(写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ)

実直であろうとしている。

誠実さや生真面目さが貴しとされるラグビー界にあって、この人もまたその流れを汲んでいるようだ。

桑水流裕策。身長188センチ、体重98キロの30歳。リオデジャネイロ五輪で初の正式種目となった7人制ラグビー男子の部で4位に躍り出た、日本代表のキャプテンである。

昨季、年間世界一を競うサーキットであるセブンズワールドシリーズに常時出場できるコアチームから降格。それでも今度の大舞台では、予選プール初戦に金メダル候補のニュージーランド代表を撃破した。進んだ決勝トーナメントでもフランス代表を下し、あと1歩でメダルの位置にまで躍り出た。いくつもの番狂わせと、競技認知度の向上を果たした。

鹿児島県出身の桑水流は、全国的な実績の薄い福岡大学にいながら、跳躍力、スピードを注視されてきた。瀬川智広ヘッドコーチが着任する2012年よりも以前から、7人制代表に選ばれていた。

15人制の日本代表には、2012年に加わった。昨秋のワールドカップイングランド大会で歴史的な3勝を挙げるまで指揮を執ったエディー・ジョーンズ前ヘッドコーチが、就任1年目の時だった。桑水流は一時、両種目でトップランナーになろうとしていた。しかし、まもなく7人制のスペシャリストへの道を歩む。

以下、自分なりの成功を目指してきたリーダーの4つの証言を回顧。人物像やチーム強化の過程を見る。

競争のさなか

7人制代表では、明らかな役割を与えられていた。キックオフで蹴り上げられたボールを競り合うジャンパーである。15人制と違い、7人制ではトライを奪った側がキックオフを得られる。キックオフさえ制すことができれば理論上はずっと攻め続けることも可能とあって、桑水流の役割は小さくない。

瀬川ヘッドコーチは、幾度も「桑水流の後継者」をメンバーに入れてきた。フィールド上にジャンパーを増やして戦法を豊かにしたり、桑水流が不動となっていた位置(フォワードの一角)の競争を激化させることを目指したためだ。

自分と同じ役割の選手が加わることを、どう感じていたのか。2013年春、当の本人はこんな風に語っていた。

「いい緊張感のなかで合宿ができた。皆、うまかったです。それを見て、プレッシャーを感じました。ジャンパーがたくさんいるというのは、心強いですね。蹴る方も蹴りやすいと言ってざさいますし」

――とはいえ、最後は自分が一番になる。

「そうですね、オリンピックまで」

信頼される人

瀬川ヘッドコーチ率いる日本代表は、ここ4年間で戦い方にマイナーチェンジを加えてきている。

就任当初は15人制に親しむこの国の特性を踏まえて「ブレイクダウン(人と人とがぶつかり合う接点)をいっぱい作る」ことを志向。もっとも、その戦いでは「ブレイクダウン」を作っている間に相手の守備列が揃ってしまうと見るや、一転、「ブレイクダウン」を作らずスペースにパスを繋いでゆくスタイルにシフトチェンジを図ったのだ。

また、その変化の過程における桑水流の言葉からは、瀬川がそれまで積み重ねたブレイクダウンを作る意識を否定せず、新スタイルへ緩やかな移行を図っていたことが窺い知れる。

「それまではブレイクダウンをたくさん作るようにしていた。今年もそれは変えないのですが、よりスマートな判断をする。ブレイクダウンを作るのが本当に正しいのか。別のところにボールを運んだ方がいいのではないか…と。それまではボールを持ったら(ブレイクダウンを)作ろう、作ろうとしていたんですが、いまはスペースを見たり、周りの声を聞くように意識するようになりました」

ボスの意図を理解し、ただただ実直に遂行する。密集戦での泥臭いプレーでも重宝されている桑水流は、チームのスタイルが変わったなかでも代表の軸であり続けた。

葛藤

現所属先のコカ・コーラは九州有数の15人制のチームを持ち、昨季の日本最高峰トップリーグに参戦中。クラブ側は桑水流の7人制日本代表への招集に積極的に応じてきたと同時に、桑水流を自軍の主力に据えた。

グラウンドの大きさが同じなのにプレーする人数が倍以上も違う15人制と7人制は、同じルールでおこなう異なる競技とも言われている。

桑水流は昨年11月、7人制のリオ五輪アジア予選が終った直後に15人制の日本最高峰トップリーグへ参戦している。その難しさを語る当時の証言は、両競技の両立を目指す選手の生き字引かもしれなかった。

「初戦では、トップリーグに集中しきれなかったということは、正直ありました。(1人ひとりが守るスペースが広い)セブンズでは、相手が仕掛けたところへタックルに行く、という風に、すこし『見る』ところがある。ただ、(人数の分だけ肉体接触が多い)15人制でそれをしていたら、弾かれてしまう。そのタックルのシーンだけは、積極的に自分から行こうという切り替えが大事です」

グラウンドの姿こそすべて

以前、BS朝日の『ラグビーウィークリー』という情報番組の「ワイルドな奴」というドキュメント企画で取り上げられたことがある。放送回のスタジオゲストは、同い年で同じ九州地区出身の五郎丸歩だった。コメントを求められ、「彼は夜もワイルドです」と冗談を言われていた。

様子を伝え聞いた桑水流は、どうにか端正な返事をする。

「それは…。余計なことを…。私にもいまは家庭がありますので」

リオ五輪でのニュージーランド代表戦。7点リードの前半、自陣から攻め上がる相手ランナーへ桑水流が噛みつく。相手が倒れてできた「ブレイクダウン」のなかのボールへ腕を絡め、球を手離せない反則を誘ったのだ。「言葉」だけでは伝わらない、ラグビー選手としての真骨頂がそこにはあった。

「夜」の姿がどうであれ、この人、芝の上では実直な職人である。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事