戦後77年 今年の戦没者追悼式での天皇の「おことば」はどのように変わったのか。
8月15日、政府主催の全国戦没者追悼式が行われた。この戦没者追悼式には天皇・皇后が出席し、天皇はそのなかで「おことば」を述べる。その文言は毎年、注目されている。今年はどのような「おことば」を述べたのだろうか。次に掲げる「おことば」が今年のものである。
この四段落構成は、新型コロナウイルス感染症の流行した2020年から変わっていない。第一段落・第二段落・第四段落は平成の天皇の「おことば」を基本的には踏襲し、それを耳で聞いてもすぐに頭に入りやすいような平易な言葉に直された他は変わっていない。戦後世代の天皇としても、戦争の記憶に向き合い、平和主義を希求する方向性をこの「おことば」で示している。
ただし、新型コロナウイルス感染症によって、変化が生まれた。第三段落が加わったのである。短い「おことば」のなかにこの問題を含めること自体、天皇の強い意思を見ることができるだろう。では、その後は文言は変化していないのだろうか。
そうではない。基本的な構成は変わっていないものの、少しずつ変化が見られる。2020年には「感染拡大により、新たな苦難に直面」であった部分が、2021年には「厳しい感染状況による新たな試練に直面」に変わり、さらに今年は「感染拡大による様々な困難に直面」へと変化している。「新たな苦難」→「新たな試練」→「様々な困難」という文言の変化。
それは、コロナの状況が3年続き、「新たな」とも言えなくなった状況もあるだろう。それだけでなく、「苦難」から「試練」、そして「困難」へと変えている。今回の新型コロナウイルス感染症の状況が、敗戦から戦後にかけての国民の「苦難」や決心を試されるような「試練」とも異なる「困難」に直面していると述べる。天皇は今年の「新年のビデオメッセージ」や全国植樹祭の「おことば」などでも「困難」という文言を使用しているが、感染状況だけではなく医療体制や経済状況など、この問題が様々な「困難」をもたらしているとして、多くの人々に寄り添ったためにこうした文言になったのではないか。
また、2020年に「私たち皆が手を共に携えて、この困難な状況を乗り越え」であった部分が、2021年には「私たち皆がなお一層心を一つにし、力を合わせてこの困難を乗り越え」に変わり、さらに今年は「私たち皆が心を一つにし、力を合わせてこの難しい状況を乗り越え」という表現に変化した。前段を「困難」にしたため、「難しい状況」に変えたのだろう。また、昨年求めた「なお一層心を一つにし」を「心を一つにし」と変化させている。
「なお一層」という文言があれば、すでにある「心を一つにする」動きをさらに高めようと天皇が求めたと読み取れる。しかし今年はそれがなくなった。とすると、今は「心を一つにする」動きが昨年よりはないと天皇が考えたのではないかとも想像できる。いずれにしても、そうすることを私たちに求める姿は変化していないように見える。
来年、私たちは新型コロナウイルス感染症を克服しているだろうか。そうすると、天皇はいかなる「おことば」を述べるのだろうか。そして、戦後80年に向けていかなる方向性を示していくだろうか。注目される。