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圧倒的な「知識」で、人を動かす話し方

横山信弘経営コラムニスト
第1から第3までの知識の量が、話し手の自信を芽生えさせます。

「第1の知識」から「第3の知識」まで一挙紹介

人を動かすためには、圧倒的な知識量があると容易になります。上司が部下を動かす、親が子供を動かす、営業がお客さまを動かす……。いろいろなケースで応用ができます。それでは本題に入る前に、ここで解説する「知識」について、わかりやすく分解していきましょう。

知識とは、大きく3つに区分できます。

1)第1の知識 (一般的に知れ渡っている情報)

2)第2の知識 (体験から来る理解)

3)第3の知識 (言語表現しづらい技能)

第1の知識と第2の知識は、「宣言的知識(形式知)」、第3の知識は「手続き知識(暗黙知)」とも言われます。ひとえに「知識」といっても教科書やインターネット上に載っているテキストを指すだけではなく、体験を通じて理解した事柄や、何かを達成しようとして生み出した知恵や工夫も含みます。連続した行動によって体で覚えた技能なども知識なのです。(手続き知識)

話し手がこれらすべての知識を手にしていると、トーク技術をそれほど磨かなくとも、聞き手を説得し誘導できる可能性が高まります。しかもその知識の量が圧倒的であれば、聞き手は反論する力を喪失するどころか話し手の知識量に感動し、快く動いてくれることでしょう。

それではどのような知識に威力があるのでしょうか。話し手が話す「内容」「態度」の視点で解説していきましょう。

調査によって獲得する情報にはディテールが必要

まず話す「内容」に関して解説します。話し手が「言葉」として変換できる「知識」は、第1の知識(一般的に知れ渡っている情報)と第2の知識(体験から来る理解)です。

最初は「第1の知識(一般的に知れ渡っている情報)」について。調査することによって知り得る情報は、人を動かすうえでとても有用です。これは誰もが想像できることでしょう。抽象的で曖昧なものではなく、聞き手が驚くほど豊富な情報を手にしていると聞き手に対してインパクトを与えることができます。ここで表現している情報を「マクロ情報」「ミクロ情報」の2つに分けて紹介しましょう。

なぜこれをすべきなのか、なぜ実践するとうまくいきやすいのか、過去や他事との比較など、比較データ、統計データ等があれば「選好の逆転」「社会証明の原理」といった心理効果も働き、聞き手の信頼を勝ち取ることがより簡単にできます。こちらが前者の「マクロ情報」。

もう一方の「ミクロ情報」とは、普通の人なら注意を向けないほどの細かい情報のことを言います。その商品はどのような素材でできているのか。その素材の産地は? 生産者はどのような心持ちでその素材を作り上げているのか。一見、必要がないような微細な情報まで提供することで、聞き手は臨場感を覚えます。人間は体験することで、理解力が高まります。体験は「五感」で構成されているわけですから、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚……これらの詳しいディテールに触れることで、聞き手は疑似体験をした気分となるのです。

表層的な知識だけでは相手を説得できないことも

しかし、所詮、調べた情報は表面的な知識です。「うわっ面のデータ」であることに変わりないのです。話し手にその体験がなければ、他者や本からの受け売り、などと受け取られてしまい、説得力に厚みをつけられません。たとえば旅行代理店の販売スタッフが、来店したお客さまにあるツアーをお勧めしているとします。いろいろな情報を盛り込んで力説します。しかしご本人が一度もそのツアーに参加したことがなければ、言葉に力が宿りません。反対に、スタッフ本人が過去に何度も参加した体験があれば、聞き手の関心度合いは急にアップすることでしょう。

「私も正直なところ、全然期待していなかった。危険そうな場所だし、参加するまでは不安だった」「パンフレットに書いてあるよりも現地は雑草が生い茂っていて、とても私なんかでは登れないと怖気づいた」「でも現地ガイドが思いのほか優しい。なぜかというと、その土地の民族は昔から外来者には礼儀正しく接するようで……」「崖を登りきったあと目にした絶景といったら、もう此の世のものとは思えなかった」「ガイドブックには天候が変わりやすいと書いてあるけれど、意外とそんなことなくて、私は過去5回参加したけど1度も曇りの日はなかった」などなど――。

体験した者でないと味わうことのできない知識が、強いインパクトを相手に与えます。これが「第2の知識(体験から来る理解)」。この知識にとりわけ「一般常識を覆す内容」が盛り込まれると、聞き手に驚きと感動を与えます。体験した者でしか味わうことのできない知識が提供されますから、前述した疑似体験のレベルがいっそう高くなります。話し手の体験談が聞き手に役立つかどうかはあまり関係がありません。なぜなら、人間と言うのは、それほど経済合理性に基づいて物事を判断しているわけではないからです。話し手が実際に体験していると、自然に心が篭るし情熱も注入されます。話し手の感情は相手を動かすうえでとても大きな材料になります。

3種類の「体験による理解」

「体験による理解」には大きく分けて3種類あります。

1)スタートする前の葛藤

2)スタートした後に(続けていくうえで)現れた想定外の問題、そしてそれを乗り越えた工夫

3)終わった後の(何かを達成した後の)幸福感

誰かにダイエットを勧める場合、話し手も過去に同様の体験があれば、相手に強い共感を持ってもらえるでしょう。ダイエットを始める前にどのような葛藤を覚えたのか、いざスタートしてみたら、どのような問題に直面したか、それをどのように克服したのか、目標が達成したときにどんな素晴らしい気分を味わえたか、どれほどの人が自分の努力を称えてくれたか……。そういった一つ一つの「知識」が、相手の心を動かし、大きな決断をさせるのです。

世の中には、上記の葛藤やストレスを味わうことのない人がいます。何をするにしてもストレスを感じることなくスタートでき、簡単に続けることができ、そして一般の人では成し遂げられないようなことも平然と達成してしまうような人が。しかし、残念ながらそういう(天才型の?)人は、一般的な感覚の人との共感性が乏しくなります。したがって人を動かすことが難しくなり、組織のリーダーとして不適合であることが多いのです。

自分でやれば結果が出るのに、部下にやらせようとすると全然行動を変えないし、結果も出せない。なぜなのか理解できず、強い心理ストレスを覚えてしまうこともあります。順風満帆だった人が組織のリーダーになった途端に潰れてしまうケースが多々あるのは、こういう理由からなのです。成績がいい人が必ずしも結果を残せるリーダーになるとは限らないのです。

話し手の「態度」は最もインパクトがある

続いて、話す「態度」について解説します。話し手がどのような知識を話の中に盛り込むべきかについて、これまで簡単に触れました。これからは、圧倒的な知識の量が話し手の「態度」にどのような影響を与えるかについて考えてみます。相手を動かすうえで、話し手の「態度」はとても重要な要素です。前にも述べましたが、人は経済合理性にもとづいて何事も判断しているわけではありません。論理的には正しくないことでも、人間は「認知バイアス」がかかることで自己肯定してしまうことが多々あります。

聞き手は話し手が語っている内容をすべてフィルターをかけずに受け入れることはありません。したがって、堂々とした「態度」で語っている話し手を目の当たりにすることで、聞き手は相手に対するラポール(信頼)を感じてしまうものなのです。話し手は、マクロ/ミクロの情報を仔細に調べ、手にしています。そして膨大な過去の体験から得た知識も豊富に取り揃えています。それらの知識が裏づけとなり、自信のある態度を作り上げてくれるのです。

試行錯誤を繰り返し、苦難を乗り越えながら何かを達成した過去のある人は、何をやらせてもうまくいく人以上に、多くの知識(第2の知識:体験による理解)を得ています。その歴史が強い自信を作り出し、聞き手にインパクトを与えるのです。

最も重要な知識はやはり「●●」によって得られる……

最後に、最も効果の高い知識をお伝えします。それは第3の知識(言語表現しづらい技能)です。反復によって体得した「手続き知識」は、何事にも変えられない価値を持っています。本を読んでも、ネットで検索しても手に入りません。諦めずに繰り返してこそ得られる知識だからです。

第1の知識、第2の知識はいずれも「宣言的知識」ですから言語表現できます。テキスト入力してパソコンに打ち込み、データ変換して持ち歩くことができます。形式知化して、誰かに配布することもできます。しかし「手続き知識」は言語表現できない、体で覚えた記憶ですから容易に普及させることはできません。ひとりひとりが習慣として身に着けなければならないことです。人前で緊張せずに話す、自信を持って話す、というのは天性のものがない限り普通は「場数」が不可欠。この場数によって体得した技巧、スキルもまた「知識」なのです。

第1の知識から第3の知識まで紹介しました。これらの3つの知識は独立しているものではなく、相互に関連しています。調査によって知り得た情報、体験によって理解を深めたこと、独自に創意工夫をしたこと、それらを緊張することなく堂々と話す技能、スキル……。これらの知識がうまく作用して、「この人が言っていることは間違いなさそうだ」「信じられる」と聞き手に感じてもらえるのだと思います。

圧倒的な知識量がバックボーンとしてあれば、堂々とした態度で話すことができます。そうすることでさらに成功体験を積みやすくなり、「手続き知識」が増え続けることになります。知識の種類を理解したうえで、おびただしい量の知識を蓄積していきましょう。知識が増えれば増えるほど、あなたの吸引力は高まり、周りの人は動かされていくことになるはずです。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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