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子宮頸がんを予防するHPVワクチンが、入手困難になるリスクが高まっています

堀向健太医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。
(写真:アフロ)

子宮頸がんの発症を予防するHPVワクチンの『積極的勧奨の再開』に関し、判断が延期されました。

5万人以上の方々の署名が提出された後でもあり[2]、期待が高まっているなか、残念に思う方は医療者だけではないでしょう。

前提条件として知っておいて良いことがあります。

HPVワクチンが『定期接種』であることは変わりなく続いていることです。

推奨年齢である小学校6年生~高校1年生(正確には高1の9月までに初回接種する)の女児であれば、公費で接種が可能です。逆に、それ以外の方は自費での接種となります。

HPVワクチンは、子宮頸がんや中咽頭がんを防ぐ

写真:アフロ

HPVワクチンは、子宮頸がんや中咽頭がんなどを防ぐことが期待されるワクチンです。

特に子宮頸がんの発症を予防することを決定づける研究結果は2020年に発表されています。

2006年から2017年までのスウェーデンの10~30歳の男女167万人に対する研究です。HPVワクチン接種とその後の子宮頸がんの発症リスクを評価しています。

すると、17歳以前にワクチンを接種した女性における子宮頸がんを10分の1近くまで減らしたという結果が得られています。そしてこの効果は、17~30歳でワクチンを接種した場合は効果が弱まることがわかっています[3]。

ですので、高校1年までに接種が推奨されているのですね。

しかし日本のHPVワクチンに関し、2013年6月に「積極的な勧奨」が中止されたまま現在に至っており、その他、さまざまな理由で接種率が下がっています。その前は一時、70%まで接種率が高まっていました。

その影響が実際にどれくらいあるのか、1994年から2007年までに生まれた女性に関して検討されています。

結果は大きなものでした。

2013年以降HPVワクチン接種率が約70%を維持ししていたと仮定した場合、2013年から2019年にかけてのHPVワクチン接種率低下により、子宮頸がんの発症を24600~27300人増やし、5000~5700人が亡くなると予想されたのです[4]。

この研究は2019年までの検討ですが、その後も長期化していますので、さらに大きな影響があると考えられます。

もちろん、一時報道にあった、さまざまな副反応に心配されておられる方も多いでしょう。これら懸念されていた副反応に関しても、多くの研究結果が発表され、HPVワクチンとの関連性が否定されています[5]。

一方、HPVワクチンに大きな問題が持ち上がってきています

写真:アフロ

現在、HPVワクチンに関して、世界的に大きな問題が持ち上がっています

それは、HPVワクチンのリスクに基づくものではありません。

HPVワクチンの有効性が明らかとなり、世界的な需要が急増したため、『HPVワクチンが不足』してきているのです。

高度な技術が必要なHPVワクチンの製造は、設備の増強が追いつかなくなっており、2022年にはワクチンの不足は32%にまで高まることが予想されています[6]。

そのため、供給不足のためにHPVワクチン接種の2回目を2~3年遅らせるという方法や、女児を優先させる…というような提案すらあるくらいです。

すなわち、コロナワクチンで多くの方々が危機を感じたように、『ワクチンは、入手したいときに入手できるとは限らない』のです。

今後、HPVワクチンの入手が困難になる可能性があります。

特に、今回の判断の延期で、日本では一部のワクチンを廃棄することになる可能性が高まっています。

世界的に不足しているワクチンを廃棄することになると、果たして多くの国からどのような眼差しを受けることになるのか、そして今後のワクチンの供給に影響しないのかが懸念されます。

もちろんコロナ禍の中で、政府の方々も含め、困難な戦いに直面しています。

そして、HPVワクチンの『積極的勧奨の再開』に向けて、多くの医療者の活動がありました。さらに、その活動を支えたのは、さらに多くの医療者以外の方々です。

多方面の戦いが難しいことはわかっています。

しかし、HPVワクチンの入手が困難になることで、より多くの悲しみが生まれないことを願っています。

(※2021年8月31日19時40分追記。男児への接種も推奨されるワクチンですが、それすら供給不足のために世界的に議論があることを書き加えました。)Papillomavirus Research 2020; 9.)

[1]子宮頸がんワクチン接種 「積極勧奨」の再開、議論へ

[2]HPVワクチン積極的勧奨再開求め署名提出

[3]Lei J, et al. HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer. N Engl J Med 2020; 383:1340-8.

[4]Simms KT, et al. Impact of HPV vaccine hesitancy on cervical cancer in Japan: a modelling study. Lancet Public Health 2020; 5:e223-e34.

[5]Bmj 2020; 370:m2930.

[6]Arie S. HPV: WHO calls for countries to suspend vaccination of boys. Bmj 2019; 367:l6765.

医学博士。大学講師。アレルギー学会・小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。大学講師。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療研究センターアレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5600人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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