2017年の金ETF市場を検証する
2017年の金上場投資信託(ETF)市場は、前年比で198トンの投資残高増加になった。16年の547トンからは64%の大幅な減少になったものの、2年連続で金ETFは投資残高を拡大することに成功している。
金ETFは金投資需要を喚起する目的で2003年に初めて設定され、ピークとなる2009年には年間645トンもの投資需要を創出している。同年の金鉱山生産量は2,589トンであり、新産金の四分の一が金ETF市場に吸収され、金需給の引き締めに寄与していた。
しかし、米国で金融緩和縮小の議論が活発化し始めた13年には912トンの投資残高減少となり、その後は14年が184トン減少、15年が125トン減少と、金投資需要環境の悪化が金ETF残高の減少を招き、それが金需給の緩和から更に金相場を押し下げる悪循環に陥っていた。
だが、イギリスの欧州連合(EU)離脱問題が浮上した16年には547トン増と4年ぶりに投資残高が増加し、その流れが勢いこそ鈍化したものの、17年にも引き継がれたことが確認できる。
■金ETF購入の主役は欧州勢
地域別では、北米が63トン増(17年は226トン増)、欧州が149トン増(同281トン増)、アジアが13トン減(同35トン増)、その他が1トン減(同5トン増)になっている。北米と欧州は二年連続で投資残高を増やしているが、その規模は大幅に縮小している。前年比では北米が72%減、欧州が47%減となっており、特に北米地区の減少率が大きくなっている。
金ETF需要拡大に占める欧州の比率は、16年の51%から17年は75%まで上昇しており、欧州の機関投資家が金ETF市場の主役になっていることは明らかである。
では、なぜ欧州の機関投資家は金ETFを購入しているのだろうか。この点に関しては、欧州地区の政治リスクが強く影響した可能性が高い。移民問題、更には債務危機をきっかけに欧州にはこれまでの求心力が遠心力に転換しており、政治的な不満の高まりから投資環境の不確実性が増している。昨年の場合だとブレグジットが大きなテーマになったが、今年もフランス大統領選、ドイツ議会選挙などの政治リスクが、欧州機関投資家に対して金ETF購入を促したことが強く窺える。
そして欧州政治リスクの危機レベルとしては、金ETF購入量が47%もの大幅な減少になったことからは、「ブレグジット>フランス大統領選」だったことが窺える。欧州政治リスクへの退避ニーズは維持されたものの、18年の政治リスクは17年のブレグジット時ほどのレベルではないというのが、欧州の機関投資家による投資評価だった模様だ。
18年も3月にイタリア総選挙、更にはブレグジットの実行手続きが本格化するなど幾つかの政治リスクを抱えているが、改めて金ETF買いが膨らむか否かは金価格動向を考える際のみならず、欧州政治リスクを計る上での指標としても注目しておく必要がありそうだ。
■意外と動かなかった米投資家
一方、米国ではトランプ大統領の政治リスクが連日のように報じられていたが、米国の機関投資家は大きな動きを見せなかった。すなわち、トランプ米大統領に起因する政治リスクに関しては、必ずしも真剣に捉えられていなかったことが窺える。これは昨年の株価高騰とも整合性が取れる動きである。
二年連続の投資残高増加となったことからは、株高局面でもヘッジとして金ETFを購入しておきたいというトレンドは形成されていたことが確認できる。ただ、その規模としては前年比で72%の減少であり、ブレグジットと比べると大きな問題ではないとの評価が優勢だった模様だ。
唯一の例外とも言えるのが、8~9月にかけての投資残高急増である。8月は31トン増、9月は59トン増となっており、年間需要の大部分がこの時期に集中している。北朝鮮の核・ミサイル開発を巡って朝鮮半島有事、更には北朝鮮による米本土攻撃が警戒された時期であり、北朝鮮情勢は米国の機関投資家に強い危機感をもたらしたと言えよう。
ただ、その後の10~12月期は12トンの減少に転じており、この問題はピークを脱したと評価した向きが多かった模様だ。