ネット不正送金が急増 銀行「デジタル化」の不安要素になるか
多くの銀行がスマホの利用を促すなど「デジタルシフト」を進める中で、それに伴う手数料の引き上げやATMの営業時間短縮が話題になっています。
一方、ネットバンキングを利用した不正送金は増加。ゴールデンウィークには複数の銀行が即時振込を停止する事態に陥るなど、デジタル化における不安要素になるかもしれません。
GW期間中「振込停止」相次ぐ
三菱UFJ銀行は店頭窓口やATMからの振込手数料を値上げ、ATMの24時間営業も終了するなど「デジタル化」に伴う施策を発表し、話題となっています。
三井住友銀行が3月に始めた個人向け口座「Olive」も、スマホアプリの利用を前提としたデジタルシフトを打ち出しています。
そこに共通する背景は、誰もがスマホを持っていることを前提に、銀行のビジネスモデルを見直していくという動きです。
スマホのアプリが支店の役割を果たすようになり、キャッシュレス化やコンビニATMの普及が進むことで、銀行の店舗やATMの必要性は下がっています。
しかし、そこで問題となるのがセキュリティ面の不安です。ネット銀行を中心に、GW期間中には他行宛てなどの即時振込を停止する銀行が相次ぎ、利用者の間で不安の声が広がっています。
・楽天銀行(4月13日発表)
2023年5月2日(火)~5月8日(月)の他行への振込・他行からの振込に関するメンテナンスのお知らせ
・auじぶん銀行(5月1日発表)
インターネットバンキングでの他行宛ての振込実施日の一時変更、振込限度額の変更(引下げ)について
・PayPay銀行(5月2日発表)
各銀行は夜間や休日でも振込ができるシステムに接続していますが、GW期間中に受け付けたものについては、連休明けとなる5月8日の振込になるというものです。
大型連休を利用してメンテナンスを実施する銀行はありますが、今回はそれとは事情が異なり、各銀行が「不正送金」への対策を理由に挙げていることが特徴となっています。
たとえばauじぶん銀行のQ&Aによれば、「当行名を騙る偽メールや偽SMSで不審なウェブサイトに誘導し、個人情報を入力させる等の手口により不正送金される事案が発生している」とのこと。
「現状の不正送金等の手口を踏まえ、お客さまの被害抑制を図るために急遽一時的な対応として実施させていただいた」と説明しています。
大手ネット銀行の中では、住信SBIネット銀行はGW期間中も振込が可能です。しかし4月3日にはセキュリティ対策として、アプリ認証を設定している場合の振込を「スマホから」に限定。パソコンからの振込はできない状態が続いています。
こうした不正送金はフィッシングによるもので、被害者は本物によく似た偽サイトに誘導され、IDやパスワード、追加の認証情報などを入力させられていると考えられます。
その被害件数や金額は2022年後半から増加傾向にあり、2023年3月に再び急増。4月24日には警察庁と金融庁が注意喚起を出す事態になっています。
ネットに慣れている人にとってはありきたりな問題に感じるかもしれませんが、ネットに慣れない人にとっては不安が高まるばかりです。よく知らないネットより、店舗やATMが安全だと考えても不思議はないでしょう。
お金を払って安心を買えるなら、それもひとつの解決策ではありますが、銀行は店舗の閉鎖や統合を進めており、行きつけの店舗がなくなってしまう可能性もあります。
このように、利用者はあの手この手でデジタル化を促される一方、ネット上では不正送金が横行しているという、なんとも不都合な状況が生まれつつあるわけです。
大型連休、アプリの設定などを見直す機会に
利用者ができる対策としては、SMSやメールで送られてきたURLは信用せず、あらかじめ登録しておいたブックマークや公式アプリを利用するのが基本といえます。
偽サイトは精巧に作られているものもあり、本物かどうか見分けるのは困難です。見分けようとするのではなく、常に安全な方法に頼るほうがよいでしょう。
また、振込の際にカード裏面の認証番号やワンタイムパスワードなどを求める銀行はあるものの、被害者は本物のサイトと思い込んでいるのでそれも入力してしまい、被害が拡大しているようです。
より強力な対策として、スマホのアプリと連携した認証機能があります。住信SBIネット銀行では「スマート認証NEO」、auじぶん銀行では「スマホ認証サービス」という名称で提供しています。
利点としては、取引の実行前にアプリで内容を確認することができます。万が一、IDやパスワードを奪取されたとしても、この画面で承認しなければ不正送金を防げるというわけです。
もし不正送金の被害に遭った場合、住信SBIネット銀行は払い戻しの案内をしているものの、過失があったとみなされると対象外になる場合があると説明されています。
大型連休を利用して家族でネットバンキングの使い方を見直すなど、各自でリテラシーを高める工夫が求められているのが現状といえます。