ロシアが海外企業の商標権を無視するとどうなるのか?
”Russian News Says Trademark Loopholes Could Be Used to Reopen McDonald's”(「ロシアの報道機関、商標法の抜け穴を使ったマクドナルドの再開に言及」)というニュース(英文)がありました。記事はNewsweekによるものですが、元情報はタス通信なのでロシア側の牽制という可能性もありますが、一応信憑性ありという前提で話を進めます。<追記>やはりタス通信の元報道は不正確だったようです。特定の特許権に対してロシア政府が無償でライセンスを設定できる(それでも十分ひどいですが)というお話のようです。本記事末にリンクがあるJETROのレポートをご参照下さい。
ロシアへの経済制裁措置および自社経営判断の一環として、マクドナルド、アップル、ハイネケン、トヨタ、フォード、ナイキ、ネットフリックス、イケア、ザラ、(そして、ユニクロ)等のグローバル企業がロシアから事業撤退する予定であることは既報かと思います。これに対して、ロシアは撤退した企業の国有化を検討していることも既報と思います。
もし、国有化ということになれば店舗等の物理的資産はロシア政府の管理下になります。加えて、海外企業が所有する特許権や商標権などの知財も無視してよいとする措置を行う可能性を冒頭の記事は伝えています。特許権も問題ですが、商標権の方が短期的インパクトが大きいと思います。
仮にロシア国内では海外企業の商標権を無視してもよいということになる(あくまで「仮に」です)と、国有化されたマクドナルドの店舗を使用して、マクドナルド米国本社と全然関係ない人が、マクドナルドの看板やロゴを使ってビジネスを継続しても、マクドナルド米国本社は何も言えない状態になります。アップルやトヨタであれば、実際の製品が輸入されなければビジネス継続は難しいと思いますが、マクドナルドであればロシア国内の素材だけで何とかなるかもしれません(マクドナルドのノウハウや特許も勝手に使えます)。ロシアの庶民は、ちょっと味やメニューが変わったなと思いつつ、マクドナルドが全然別の会社になったことに気が付かないかもしれません。
国をまたがった知財の保護に関してはパリ条約(工業所有権の保護に関するパリ条約)という1883年に制定された由緒正しい国際条約があり、ロシアを含む、ほぼすべての国が加盟しています(北朝鮮ですら加盟しています)。このパリ条約には内国民待遇(工業所有権について外国民への保護を自国民と同一にしなければならない)の規定がありますが、それに完全に違反することになります。まあ、条約違反上等、あるいは、パリ条約脱退も念頭に置いているのでしょうが、何ともカオスなことです。こういう状況を考えると、商標制度の重要性が理解しやすいのではないかと思います。単に、ライセンス料が入らなくて収益が減るといっただけでは済まないのです。
<追記>
本件についてJETROからレポートが出ていました。法律的な建て付けとしては、特許権が無効になるわけではなく、ロシア政府が権利者に対して特許権の強制ライセンスを命じた場合、非友好国の権利者に対してはライセンスのロイヤリティ料率を売上の0%にするというものでした。「もちろん対価はお払いする、ゼロ円という対価を」ということですね。差止めもできず、無料で使われても文句が言えないということで、無効になるのと実質同じですので、ひどい話です。なお、レポートでは特許権に付いてしか言及されていないので商標権にも適用されるものかどうかははっきりしません。
<追記^2>
質問が出るかもしれないので先に書いておきます。仮に上記のような状況になり、ロシア国内で非友好国の特許権や商標権を無視した商品を生産してロシア国外に輸出したとします。この場合、生産については手出しはできないですが、輸出入の時点で輸入した側の国の特許権や商標権が効いてきますので、たとえば、税関で差し押えることが可能です。