前期比でプラスは1誌のみ…少年向けコミック誌の部数動向(2023年7~9月)
ジャンプ最強状態継続中…直近四半期の実情
専用の電子書籍・雑誌リーダーだけでなくパソコンやスマートフォン、タブレット型端末を用いたインターネット経由にて、漫画や文章を読む機会が多数得られるようになったことで、人々の読書欲はむしろ上昇の一途との解釈もある。一方で紙媒体による本は相対的な立ち位置の揺らぎを覚え、多分野でビジネスモデルの再定義・再構築を迫られる事態に陥っている。今回はその雑誌のうち、特にすき間時間のよき相棒といえる少年向けコミック誌について、日本雑誌協会が四半期ベースで発表している印刷証明付き部数(※)のうち、2023年11月に発表した、直近(四半)期分となる2023年7~9月分(2023年第3四半期、2023年Q3)を中心に実情を確認する。
まずは少年向けコミック誌の直近期、2023年7~9月の実情。「週刊少年ジャンプ」が群を抜いている状況は前期から変わらず。少年向けコミック誌の中ではかつて唯一のダブルミリオンセラー(200万部以上の実績)誌として君臨していた。しかし開示されている記録の限りでは2017年1~3月期にはじめてその大台を割り込み、今期でも挽回はならず、200万部割れが継続する形に。次いでやや年上向けの少年向けコミック誌「週刊少年マガジン」、さらには小学生までの低年齢層向け(主に男子向け)コミック誌「月刊コロコロコミック」。
かつては複数誌が100万部を超えていたが、「週刊少年マガジン」が2016年7~9月期に100万部を割り込んだことで、少年向けコミック誌で100万部超えの雑誌は「週刊少年ジャンプ」だけとなってしまった。恐らくはこの状態が今後も継続するのだろう。
他方、唯一の100万部超えの「週刊少年ジャンプ」だが、直近データで確認すると印刷証明付き部数は現在116万833部。雑誌では返本や在庫本(売れ残り)なども存在するので(返本率などは部数動向では非公開)、それを勘案すると最終消費者の手にわたっている冊数は、これよりも少なくなる。返本率4割で試算すると(上場している取次会社の決算資料の限りでは、雑誌の返本率はおおよそ4割)、実セールスは70万部ぐらいだろうか。「週刊少年ジャンプ」ならばもう少し返本率は低いかもしれないが、雑誌別の返本率は非開示であるため、その実情は分からない。
同誌はピーク時となる1995年では635万部の値を出していた記録を目にするに、その約2割にまで落ちてしまった現状は、時代の流れを感じさせる。「週刊少年マガジン」の100万部割れとともに、雑誌全体の歴史において一つの時代を刻んだ流れと考えれば、冷静に受け止めることもできるのだが。
コンビニなどでもよく見かけるメジャーな週刊コミック誌で、大規模かつ大胆な組織構造改革宣言を行った「週刊少年サンデー」の部数は、今期では15万3333部。容易に取得可能な最古のデータとなる2008年4~6月期における86万6667部からは約18%にまで部数を減らしている。
グラフの形状からも分かる通り、何度か大胆な改革により部数持ち直しの気配も見られたが、全体的な流れに逆らうまでには至っていない。今回の改革に関しても、現時点ではその成果は数字には表れていない。1年ほど前には底打ちし、反転を始めたようにも見えたが、すぐに再び失速してしまった。
他方、コミック誌は多分に電子化が進んでおり、電子雑誌版に流れた読者が原因で、「印刷」部数が上向きになっていないだけの可能性も否定できない。
プラスは1誌…前期比動向
続いて公開データを基に各誌の前・今期の間の販売数変移を独自に算出し、状況の精査を行う。コミック誌は季節でセールスの影響を受けやすいため、四半期の差異による精査は、コミック誌そのものの勢いとはズレが生じる可能性がある。一方でシンプルに直近の変化を見るのには、この単純四半期推移を見るのが一番。
なおデータが雑誌社側の事情や休刊などで非開示になったコミック誌、今回はじめてデータが公開されたコミック誌は、このグラフには登場しない。
今期で前期比によるプラスを示したのは「コロコロイチバン!」のみで、誤差領域(上下幅5%以内)超のプラス幅。プラスマイナスゼロが4誌、マイナスは10誌で、うち3誌が誤差領域超のマイナス幅。特に「少年サンデーS(スーパー)」のマイナス32.3%が大きな値となっている。
その「少年サンデーS(スーパー)」だが、部数動向は次の通り。
「少年サンデーS(スーパー)」は前期において、前期比プラス41.7%という大きな値を出している。これは同時期に公開された映画「名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)」に合わせて複数号で展開された映画関連の特集が効用を示したようだが、今期ではその反動が生じてしまったようだ。前々期比を試算するとマイナス4.1%にとどまっている。
前期比で1割強の下げ幅を示した「別冊少年マガジン」だが、部数動向は次の通り。
「別冊少年マガジン」は長期連載作品「進撃の巨人」完結(【「別冊少年マガジン」5月号、重版が緊急決定!!(週刊少年マガジン)】)後は部数低迷の状態が続いている。節目の2万部も割りこみ、危機的な状態にすらあるが、2期前では2万部を超える状態にまで部数が回復した。該当期に発売された「別冊少年マガジン」を見るに、「進撃の巨人」が表紙を飾りテレビアニメの情報が掲載された2023年3月号が大いに売れたようだ。今期は前期に続き勢いは続かず失速、低迷が続く形となった。
「ウルトラジャンプ」は前期比でマイナス22.5%と、大きなマイナス幅を示している。
部数動向をグラフ化すると、2期前における部数増加の勢いがよく分かる形となっている。これはウルトラジャンプの編集部から【ウルトラジャンプ2023年3月特大号重版および応募者全員サービス締切延長のお知らせ】のプレスリリースが出ていることからも分かるように、荒木飛呂彦先生のジョジョシリーズ最新作「ジョジョの奇妙な冒険 Part9 ザ・ジョジョランズ」の連載が始まったからに他ならない。2023年2月17日に発売された新連載開始の「ウルトラジャンプ3月特大号」は重版がかかるほどのセールスぶりとなっている。しかしその勢いは続かず、前期に続き今期でも、2期前と比べれば部数を落とす形となった。しかしそれでも、連載開始直前と比べれば部数を積み上げていることに変わりはない。
季節動向を考慮し前年同期比で検証
続いて季節変動を考慮しなくて済む、前年同期比を算出してグラフ化する。今回は2023年7~9月分に関する検証であることから、その1年前にあたる2022年7~9月分の数字との比較となる。年ベースと少々間が空いた期間の比較となるが、雑誌の印刷実績で季節変動を除外し、より厳密に知ることができる。
前年同期比でプラスを示した少年向けコミック誌は2誌「ウルトラジャンプ」「最強ジャンプ」で、両誌とも誤差領域を超えたプラス幅を示している。他方、プラスマイナスゼロは1誌、マイナスを示したのは12誌で、誤差領域を超えたマイナス幅は10誌。10%以上のマイナス幅は8誌。「ウルトラジャンプ」が大きなプラス幅を示している理由は、上記の通り、新連載「ジョジョの奇妙な冒険 Part9 ザ・ジョジョランズ」の余韻的部数底上げによるもの。
水曜発売の週刊誌として相並び紹介されることが多い、そしてかつて100万部割れで注目を集めた「週刊少年マガジン」と、その宿命的ライバルな存在の「週刊少年サンデー」の部数動向は次の通り。
「週刊少年マガジン」の方が2倍以上も部数は多いが、部数の減少の仕方もやや急。両誌ともに部数減少ではなく増加の中での競り合いを見せてほしいものだが。
もっとも両誌とも電子版を展開中で、その利用者数は少なくないと考えられる(実数は非公開なので実情は不明)。紙媒体の部数のみをカウントした今値の動向は両誌の勢いではなく、単純に紙媒体版のセールス動向を記しているに過ぎないことを注意しておく必要がある。
現在は電子本、ウェブ漫画が普及する中で、小規模書店の閉店、コンビニでのコミック誌のシュリンク化・棚からの撤去が続き、紙媒体を手に取る機会が減少している。漫画を提供し、市場を支えていくための仕組みも選択肢が増え、領域が広がり、これまでとは異なる発想が求められつつある。そして新型コロナウイルスの流行は、紙媒体を手に取る機会の減少を加速化させた感はある。
なお今件の各値はあくまでも印刷証明付き部数で、紙媒体としての展開動向。コミック誌の内容が電子化されて対価が支払われた上でダウンロード販売された場合、その値は反映されない。そして電子雑誌の利用も確実に増えている。そのため、印刷証明部数が減少を続けても、各誌そのものの需要がそれと連動する形で減少しているとは限らないのには注意しなければならない。
■関連記事:
【電子書籍リーダーの利用率は9.7%、タブレット型端末は41.1%】
※印刷証明付き部数
該当四半期に発刊された雑誌の、1号あたりの平均印刷部数。「この部数だけ確かに刷りました」といった印刷証明付きのものであり、雑誌社側の公称部数や公表販売部数ではない。売れ残り、返本されたものも含む。
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(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。
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