アウベスも叱りつけた闘将。世界最高DFプジョルの騎士道
戦闘者の矜持
「闘うことでしか、自分を表現できない」
そう語ったカルレス・プジョルは、生涯をFCバルセロナの選手として過ごし(2014年に引退)、男としての胆力を感じさせる選手だった。
鍛え上げた体躯で、相手アタッカーを封じた。豪快なヘディングで攻撃を跳ね返し、粘り強く体を寄せ、あきらめないディフェンスでボールを奪い取り、隙あれば攻め上がって、その迫力はたじろぐほどだった。屈強さは、歴代のリーガエスパニョーラでも随一だ。
しかし男らしさは、強靭さだけを指すものではない。
2011-12シーズンの光景は象徴的だった。敵地でのラージョ・バジェカーノとの試合で、バルサは0-7と大勝を収めている。
77分、ダニエウ・アウベスからのパスをチアゴ・アルカンタラが決めた0-5の時点で、勝負ありだった。二人のブラジル人選手はゴールを祝福し、申し合わせたようにダンスを始める。コミカルな動きに、周りも笑顔だった。
しかし、キャプテンマークを巻いたプジョルは怒った顔で駆け寄った。二人に割って入って、すぐに踊りをやめさせた。
「敵には最大の敬意を」
それがプジョルの矜持である。
スペインで、0-5のスコアは屈辱感を表し、敗者は打ちのめされている。勝者だからと言って、侮辱する行動はしてはならない。それは非道な振る舞いなのだ。
たとえ仲間が無垢にゴールを喜んでいるのだとしても、そこには儀礼があってしかるべきで、剛直なプジョルは”苦笑いで許す”という半端なことはしなかった。
高潔さの塊
プジョルは、高潔さの塊のような男だった。だからこそ、敵味方を問わず、誰にも一目を置かれた。バルサひと筋で15年、600試合近くに出場し、6度のスペイン王者、3度の欧州王者など、数え切れないほどのタイトルを勝ち獲っている。スペイン代表としても、ユーロ2008、2010年南アフリカW杯で優勝。これだけの栄冠を勝ち獲ったディフェンダーがいるか――。
「自分は運があったんだと思う」
プジョルは決して自らを誇らないが、弁えた姿が底知れぬ威厳を伝える。
「私は、ラ・マシア(バルサの下部組織)に入れたのも運が良かった。そこからトップに上がれる選手も限られていて、カンプ・ノウに立つことは夢に近い。自分はその思いをずっと背負い、甘んじていないだけだよ。感動を忘れないことで、ユニフォームを着ると奮い立つし、自分の持っているもの以上の力を引き出せたんだ」
つまり、彼はバルサによって生かされていた、というのだ。
その謙虚な剛毅さが、彼を並外れた守備者にしたのかもしれない。
戦う男のルーツ
「カルレス(プジョル)は17歳でラ・マシアに入った時から、一番へたくそだった。でも練習生のころから、プレーするたび、わずかでも改善していた。たった数十分間であってもね」
当時、マルティネス・ビラセカというスカウトが、反対に遭いながらポテンシャルに期待して入団を許可したという。
アタッカーだったプジョルは、右サイドバックにコンバートされた。そして敵と対峙することで、その戦闘力は引き出されていった。苦しい状況であればあるほど、乗り越えて成長を遂げた。
例えば1997-98シーズン、プジョルは19歳の時、バルサBで宿敵レアル・マドリードのBチームと2部昇格プレーオフを戦っている。試合前、手の指を骨折した。「最悪、指が一生、曲がったままになる」と出場回避を勧められたが、断固として出場し、ゴールも叩き込んで昇格に貢献した。
戦いに及んで、鬼になる男だった。
2000年10月、カンプ・ノウでレアル・マドリードを迎えた時、“裏切り者”ルイス・フィーゴをマンマークする役目を与えられている。当時、無名の選手が超有名スターに挑む形だった。しかしプジョルは怯んでない。すさまじい集中力で、その技を封じ、歓声を受け、そのたびに動きは鋭さを増した。
堂々と戦うことで成長する
「対戦した選手たちとの”立ち合い”が、自分を成長させてくれたんだよ」
プジョルは静かに言っている。
「過去、自分が対戦した選手では、フィーゴが一番苦労した。少しでもスペースを与えると、間合いに入られる怖さがあった。『完封』と絶賛されたけど、いつやられてもおかしくなかったよ」
極限の勝負を生き抜いてきた。その戦いの一つひとつが、彼のプレーに重厚さを与えた。騎士道のような精神性だろう。騎士は正しい道を行く。そのためには勇ましくなければならない。勇ましさは心に余裕を与え、慈悲深さとなる。その優しさが礼や誠となって表出するのだ。
プジョルは、人間的な雄大さを感じさせるプレーヤーだった。
―あなたにとっての喜びとは?
かつてインタビューで、そう訊ねた時だった。
「自分にとって、お金はあまり問題ではない。人生には、それよりも大切なものがある。想像してほしい。僕は子供のころからバルサの選手になることを夢見て、あこがれていた。愛するチームでプレーできる。それだけで心が満たされると思わないか?」
闘将の詩だ。