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進行期の皮膚がんに挑む!分子標的薬の種類と治療成績

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【悪性黒色腫に革新をもたらす免疫チェックポイント阻害薬】

悪性黒色腫は、皮膚がんの中でも特に悪性度が高く、転移しやすい特徴があります。しかし近年、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の登場により、悪性黒色腫の治療に大きな進歩がもたらされています。

ICIは、がん細胞が免疫システムから逃れるために利用する"免疫チェックポイント"を阻害する薬剤です。代表的なものとして、PD-1、PD-L1、CTLA-4を標的とする薬剤があります。これらのICIを使うことで、免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすくなります。

悪性黒色腫に対するICIの治療成績は目覚ましく、転移した悪性黒色腫患者の5年生存率は、ニボルマブとイピリムマブの併用療法で52%、ニボルマブ単独療法で44%に達しています。一方で、ICIには肺炎、肝炎、心筋炎など、重篤な副作用のリスクもあるため、慎重な経過観察が必要です。

【光免疫療法(PDT)によって皮膚がんに新たな光】

皮膚がんの治療法として、最近注目を集めているのが光免疫療法(PDT)です。PDTは、光感受性物質を投与した後に病変部に光を照射することで、活性酸素を発生させ、がん細胞を死滅させる治療法です。

PDTの大きな利点は、正常組織への影響が少なく、外来で繰り返し治療できる点にあります。日光角化症、ボーエン病、表在型基底細胞がんなどが、PDTの適応疾患として挙げられています。

ただし、PDTの効果は病変の深さに依存するため、浸潤癌や転移癌への効果は限定的です。したがって、PDTは早期の皮膚がんに対して、手術療法や放射線療法と併用する形で用いられることが多いのが実情です。

【分子標的薬が切り拓く皮膚がんの個別化治療】

皮膚がんの治療において、もう一つの重要な柱となっているのが分子標的薬です。分子標的薬は、がん細胞の増殖や生存に関わる特定の分子を狙い撃ちにする薬剤で、正常細胞への影響が少ないのが特長です。

悪性黒色腫では、BRAF遺伝子変異を標的としたBRAF阻害薬や、MEK阻害薬が使用されています。BRAF遺伝子変異は悪性黒色腫の約50%で認められ、変異型BRAF阻害薬のベムラフェニブは、変異型BRAFを有する転移性悪性黒色腫患者の無増悪生存期間を有意に延長することが示されています。

また、血管内皮増殖因子(VEGF)を標的とした血管新生阻害薬も、皮膚がんの治療に海外で用いられています。VEGFは腫瘍血管の新生を促進する因子で、これを阻害することで腫瘍の成長を抑えることができます。

分子標的薬は、皮膚がんの特定の遺伝子変異や分子を調べることで、その患者に最適な治療を選択できる"個別化治療"を可能にしてくれます。皮膚がん治療の新時代を切り拓く切り札として、今後さらなる進歩が期待されています。

参考文献:

Larkin J, et al. Five-year survival with combined nivolumab and ipilimumab in advanced melanoma. N Engl J Med. 2019;381(16):1535-1546.

Chapman PB, et al. Improved survival with vemurafenib in melanoma with BRAF V600E mutation. N Engl J Med. 2011;364(26):2507-16.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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