理由は渋滞回避! 巨大シールドマシンで円形トンネル掘削の裏側【福岡市地下鉄七隈線延伸をひもとく②】
今年2023(令和5)年3月27日に福岡市の地下鉄七隈線(ななくません)の天神南駅(てんじんみなみえき)と博多駅(はかたえき)との間が開業しました。それまで七隈線は橋本駅と天神南駅との間の12.0kmがすでに2005(平成17)年2月3日に開業していまして、今回は福岡市の中心部の1.6km分延びたことになります。
このたび、工事を担当した福岡市交通局の皆さんに七隈線のトンネルをどのように掘ったのかお話を聞いてきました。箱形・円形・馬のひづめのような形をした馬蹄形(ばていけい)と、トンネルの形ごとに3回に分けて解説することにします。前回の「人が行き交う地下街の下にどうやって? 箱形トンネルの掘り進め方【福岡市地下鉄七隈線延伸をひもとく①】」に続いて今回は円形のトンネルをどのようにして掘ったのか説明しましょう。鉄道にご興味のあるお子さんとぜひとも一緒にお読みください。
ここでおわびがあります。前回、箱形のトンネルの寸法を説明していませんでした。
櫛田神社前駅の4段重ねのトンネルは幅約14.6m、高さ約20.2m、長さは最大約144.5mで、地上からトンネルの一番上までは約4.8m離れています。箱1段分の高さは平均約5.0mです。
博多駅の2段重ねのトンネルは幅約38.0m、高さ約11.3m、長さは最大83.7mで、地上からトンネルの一番上までは約17.0m離れています。箱1段分の高さは平均約5.7mです。なお、地上とトンネルの一番上までの約17.0mの間にJR博多シティの地下街や同じ福岡市地下鉄空港線の博多駅があるのは説明したとおりです。
円形のトンネルはどのようにして掘ったのか
シールドマシンが多くの作業をこなす
福岡市地下鉄七隈線の天神南駅のホームを出てから櫛田神社前駅のホーム手前までの間、それから櫛田神社前駅のホームを出てから博多駅の少し手前までの間のトンネルは円形となっています。七隈線の線路は複線といって2本の線路が敷かれていて、直径約5.3mのトンネルが1本の線路につき1本ずつ、2本並行して掘られました。
円形のトンネルを掘ったのはシールドマシンと呼ばれる筒のような巨大な機械です。櫛田神社前-博多間を担当したシールドマシンの直径は5.44m、奥行きは7.4m、重さは240トンありました。シールドマシンの一番前はたくさんの刃を取り付けたカッターとなっていて、この部分が回転して土を掘り、同時に前に進んで行きます。カッターの刃だけでは穴を掘りづらいときもあり、泥が混じった水を強い力で噴射(ふんしゃ)しながら掘るようにしました。
シールドマシンはただ穴を掘るだけではありません。掘った穴が崩れないように強い力で押さえることもできます。そしてその間に、組み合わせると輪の形となるコンクリート製のセグメントを穴に張り付けてトンネルを仕上げます。このように、シールドマシンを用いてトンネルを掘る方法をシールド工法、そしてシールドマシンで掘ったトンネルをシールドトンネルと呼んでいます。
今回開業した区間の多くの土には砂がたくさん混じっていて軟らかく、トンネルを掘るのは大変でした。でも、掘った穴をしっかり押さえてくれるシールドマシンのおかげで工事は順調だったそうです。福岡市交通局の人によると、最も掘るスピードが速かった天神南-櫛田神社前間では570mの長さのトンネルを3カ月で掘り終えたとのことですから、1日平均約6.3m進んだことになります。
用いられたシールドマシンの数は
今回開業した七隈線天神南-博多間には、天神南-櫛田神社前間に博多駅方面と天神南駅方面との2本、櫛田神社前-博多間には博多駅方面と櫛田神社前駅方面との同じく2本と、合わせて4本のシールドトンネルがあります。それではシールドマシンはいくつ用いられたでしょうか。
答えは3基です。3基とも地上で組み立てられ、前回紹介した開削工法(かいさくこうほう)で掘られた箱形のトンネルをもつ櫛田神社前駅で地上から地下へと降ろされました。そして2基は天神南駅方面、残る1基は博多駅方面を目指して穴を掘り進んでいったのです。
櫛田神社前-博多間には2本のトンネルがありますから、シールドマシンはもう1基必要に思えます。博多駅まで達したシールドマシンはすでに掘ってあったトンネル内の広い場所でUターンして掘る位置をずらし、今度は櫛田神社前駅を目指してトンネルを掘り始めたのです。
実を言いますと、天神南-櫛田神社前間も本来は1基のシールドマシンで2本のトンネルを掘る予定となっていました。天神南駅に着いたシールドマシンは一度分解されて地上に戻り、もう一度組み立てられて櫛田神社前駅から地下に降ろされた後、掘る位置をずらして再び天神南駅に向けてもう1本のトンネルを掘る計画が立てられていたのです。でも、シールドマシンを分解したり組み立てたりするには案外時間がかかることがわかり、工事を早く終えるためにもう1基新たにシールドマシンを用意することにしたそうです。
仕事を終えた3基のシールドマシンはどうなったと思いますか。一部の部品が取り外されて地上に戻り、そうでない部分はトンネルの一部となったのだそうです。
シールドマシンを地上から地下に降ろしたり、博多駅ではUターンさせたりとか、なぜこんなに手間をかけるのかと疑問に思いませんか。実際にはシールドトンネルの区間のほとんどは、地上から穴をあける開削工法でも掘ることができます。
でも、地下30m近い深い穴を約1kmの道のりに掘っていくのは大変です。それに、道路に穴をあけているので、自動車や歩行者が通れなくなったり、道幅が狭くなったりと渋滞が起きてしまいます。福岡市交通局の人の話では、「道路の渋滞を解決するために地下鉄を整備するのに、その地下鉄をつくるときに渋滞を起こしては……」と語ってくれました。
それから、天神南-櫛田神社前間には那珂川(なかがわ)、博多川と七隈線のトンネルは2つの川をくぐるので、この部分のトンネルを開削工法で掘ることはできません。さらに言いますと、2つの川とも川底を支えるために土の中に長い杭が打ち込まれていて、その杭を避けるために七隈線のトンネルは地下30m近くと深くなりました。こうした条件で地下にトンネルを掘るにはシールド工法が最も向いていたのです。
円形のシールドトンネルは七隈線天神南-博多間で最もよく見られます。でも、ほとんどは駅と駅との間にあり、電車が走っている間しか見ることができません。七隈線の電車に乗ったら、周りの人の迷惑にならないように気をつけて、電車の外に注目してください。
次回は馬のひづめの形をした馬蹄形(ばていけい)のトンネルがどのようにして掘られたのかを探っていきましょう。(取材協力:福岡市交通局)