人が行き交う地下街の下にどうやって? 箱形トンネルの掘り進め方【福岡市地下鉄七隈線延伸をひもとく①
皆さんこんにちは。鉄道ジャーナリストの梅原淳(うめはらじゅん)です。ふだんは鉄道についての文章を書いているほか、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」で鉄道についての質問に答えています。番組に寄せられる質問で多いのは地下鉄に関係するものです。なかでも「地下鉄のトンネルはどうやって掘っているのか」という質問は多く、地下鉄は皆さんにとって興味深い乗り物なのだと感心します。
そのようななか、今年2023(令和5)年3月27日に福岡市の地下鉄七隈線(ななくません)の天神南駅(てんじんみなみえき)と博多駅(はかたえき)との間が開業しました。それまで七隈線は橋本駅と天神南駅との間の12.0kmがすでに2005(平成17)年2月3日に開業していまして、今回は福岡市の中心部の1.6km分が延びたことになります。
天神南駅と博多駅との間には櫛田神社前駅(くしだじんじゃまええき)が設けられました。この駅の位置は天神南駅から約1.0km、博多駅から約0.6kmです。今回開業した区間は少し頑張れば歩いて行けるほど短いのですが、ホームに行ってトンネルを見ますと、箱形、それから円形、馬のひづめのような馬蹄形(ばていけい)と3種類の形が見られます。実は今日(こんにち)の地下鉄をつくるうえで考えられるほぼすべての工事の方法がこの短い距離に採用されているのです。
距離は短くても天神南-博多間でトンネルを掘る工事はとても大変でした。工事は2013(平成25)年12月に始められ、開業までおよそ9年を要したことからもわかるでしょう。時間がかかったのは、大昔は海であった福岡市の土が硬かったり、軟らかかったりと複雑で、掘りづらかったという理由がまず挙げられます。そして、工事中の2016(平成28)年11月8日、博多駅付近でトンネル工事を行っている最中にトンネルの一部が崩れて地上の道路に大きな穴があいてしまい、復旧作業を行っていた点も挙げなくてはなりません。
このたび、工事を担当した福岡市交通局の皆さんに七隈線のトンネルをどのように掘ったのかお話を聞いてきました。箱形・円形・馬蹄形とトンネルの形ごとに3回に分けて解説します。鉄道にご興味のあるお子さんとぜひとも一緒にお読みください。
箱形のトンネルはどのようにして掘ったのか
まずは地上から穴を掘り、そして……
櫛田神社前駅の全部、そして博多駅の一部で櫛田神社前駅方面とは反対側では四角い箱のような形のトンネルが見られます。このようなトンネルは地上から穴を掘ってその後、地下でつくられました。決められた位置まで掘ったらコンクリートでトンネルを組み立て、最後に埋め戻して完成です。このようなトンネルの掘り方を開削工法(かいさくこうほう)と言います。
トンネルの一番低いところは櫛田神社前駅が地下約24m、博多駅が地下約27mです。土を崩さないよう、両側から逆ハの字型となるように斜めに掘ればよいのですが、これだけの深さとなると斜めに掘り進めるために必要な道路の幅はどうしても広くなってしまいます。一方で掘る作業に確保できる道路の幅は広くても20mくらいですから、真っすぐ掘り進めるほかありません。そこで頑丈な鋼鉄の板を道路から真下に打ち込み、この板で土を押さえてもらいながら、穴を掘ることとしました。
地下鉄の駅には線路やホームのある階のほか、きっぷ売り場や改札口のあるコンコース階が必要です。そして地下深いだけに地上とコンコースとの間の階ですとか、コンコースと線路やホームのある階との間の階もないと地下鉄を利用できません。この結果、箱形のトンネルはいくつか縦に重ねてつくられました。
櫛田神社前駅は地下1階がコンコース階、地下2階・3階が人が通っていく階、地下4階が線路やホームのある階と4段に箱が重ねられています。一方で博多駅は地下4階がコンコース階、地下5階が線路やホームのある階と、2段重ねです。
駅ビルや空港線のトンネルの下に七隈線のトンネルをつくった方法
「あれ? 七隈線の博多駅の地下1階から地下3階まではどこにあるの?」
はい、JR博多シティという巨大な駅ビルや福岡市の空港線という地下鉄に利用されています。そして、七隈線博多駅の箱形のトンネルは駅ビルの地下街の下や空港線の線路やホームの下につくられました。
トンネルの上に駅ビルの地下街や空港線のトンネルがありますから、地上から真下に穴を掘ってトンネルをつくることはできません。まずは駅ビルの地下街や空港線のトンネルのない場所から穴を下に掘り、今度は前に向かって穴を掘ってトンネルをつくったのです。
言葉にすると簡単なようですが、大変な苦労がありました。何しろ、駅ビルの地下街にしろ、空港線のトンネルにしろとても重いからです。真下に大きな穴を掘ったら、駅ビルの地下街や空港線のトンネルが傾いたり、沈むかもしれません。
まずは駅ビルの地下街や空港線のトンネルの下に小さな穴を掘り、そこに鋼鉄製の頑丈な杭(くい)を打って地下街やトンネルを支えることにしました。杭が支えている間に穴を前にそして下へと広げ、コンクリートのトンネルができたら杭を外してできあがりです。このような工事の方法をアンダーピニング工法と言います。
七隈線博多駅の箱形のトンネルをつくるために用いられた杭の数は約290本です。杭によって支えられた部分はアルファベットのJの字のような形をしていて、面積は約3800平方mにも達しました。もしも杭が支えた部分が正方形だとしますと約62m四方となり、大変な広さです。杭は工事が行われた約5年の間しっかりと支えてくれました。おかげで、駅ビルの地下街や空港線のトンネルはほとんど沈むことはなく、七隈線の博多駅の箱形のトンネルはこうした建築物から約1.2mと、すぐ下といってよい場所につくることができたのです。
今回は福岡市の地下鉄七隈線天神南-博多間で見られる箱形のトンネルについて説明しました。次回は円形のトンネルがどのようにして掘られたのかを紹介しましょう。どうぞお楽しみに。(取材協力:福岡市交通局)