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藤井聡太挑戦者(19)相掛かりの序盤で新時代の新手法を見せる 渡辺明王将(37)は長考

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月9日9時。静岡県掛川市・掛川城二の丸茶室において第71期ALSOK杯王将戦七番勝負第1局▲藤井聡太挑戦者(19歳)-△渡辺明王将(37歳)戦、1日目の対局が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 戦型は相掛かり。互いに飛車先の歩を交換したあと、藤井挑戦者は攻めの銀を中段に押し上げていきます。渡辺王将は角を交換し、慎重に藤井挑戦者の攻めに備えました。

 比較的穏やかに昼食休憩に入るか・・・。そう思われたところで、41手目。藤井挑戦者は8筋の歩を突きます。これは見慣れない筋・・・! 相手が攻めて来ることが見えている飛車先は、歩は三段目に控えて受けておくのがセオリーです。それをみずから四段目に突き上げるのはどういう意図なのか・・・? 藤井挑戦者の消費時間がわずか11分であったことから、事前研究であることは、ほぼ間違いありません。

 部分的な類例としては▲斎藤慎太郎八段-△永瀬拓矢王座戦(2021年11月、A級順位戦)で斎藤八段が同様に、8筋の歩を突いて、観戦者を驚かせたことはあります。本局はその応用なのか。あるいは新時代の新手法、というべきなのでしょうか。

 いまから10年前の2012年1月。やはり掛川城でおこなわれた王将戦七番勝負第1局▲佐藤康光九段-△久保利明王将戦。佐藤挑戦者は相手の中飛車に対して序盤早々、5筋三段目に玉を上がる驚きの手を見せました。結果は佐藤挑戦者の勝ち。もし本局、藤井挑戦者の勝ちとなれば、観戦者に与えるインパクトとしては、それぐらいのレベルになるのかもしれません。

 渡辺王将の手番で12時30分、昼食休憩に入りました。

 13時30分、対局再開。サービス精神旺盛な渡辺王将は、すぐに指せるのであれば、対局室に観戦者や報道陣がいる中で、すぐに指したかったのかもしれません。しかしここはすでに、そう簡単に指せる局面ではなかったようです。

 考えること1時間31分。渡辺王将はじっと遠く1筋の端歩を突きました。これもまた難しい一手です。この先もスローペースとなるのでしょうか。

 王将戦七番勝負は2日制。1日目は18時を迎えた時点で手番の側が「封じ手」をおこないます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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