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ワクチンパスポート発行開始から1ヶ月。海外出張帰国後14日間の自主待機緩和を求める日本企業の声高まる

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
自治体で発行される海外渡航向けのワクチンパスポート(一部画像処理をしております)

 新型コロナウイルスのワクチン接種を日本国内で2回終えた人を対象に、日本政府は7月26日に海外渡航用「ワクチンパスポート」の発行を開始した。実際の発行は住民票のある自治体の市役所・区役所・町役場などに申請する形となっており、自治体によってはその場で発行してくれる場合と一定の日数を要する自治体に分かれる。そして現在ではスマートフォンのアプリに組む込むことはできず、紙での発行のみとなっている。

ワクチンパスポートは住民票のある自治体で発行

 筆者も7月下旬に2回目のワクチン接種を終え、8月上旬に住民票のある自治体の窓口に「ワクチンパスポート」の申請を行い、その場で交付してもらえた。発行された紙については、住民票などと同じ用紙が使われており、コピー機でコピーした場合には複製されていることがわかる紙になっていた。紙に記載されているタイトルは「新型コロナウイルス感染症 予防接種証明書」、英語では「Vaccination Certificate of COVID-19」となっている。これが日本で発行される「ワクチンパスポート」である。

筆者が実際に取得した「ワクチンパスポート」。発行者の署名(サイン)はなく、住民票と同じ紙で印刷されていた(一部画像処理をしております)
筆者が実際に取得した「ワクチンパスポート」。発行者の署名(サイン)はなく、住民票と同じ紙で印刷されていた(一部画像処理をしております)

日本語・英語で書かれているが、発行者の署名(サイン)がないなど、海外で正当な証明書として使えるのかの不安も

 そして主に記載されている内容としては、ワクチンの種類・メーカー・製品名・製造番号・接種日・接種国などが日本語・英語の両方で書かれている。そして申請者の生年月日やパスポート番号なども記載されている。正直、受け取った時の感想としては、この「ワクチンパスポート」が海外で証明書として認められるか?という不安を持った。

 その理由の1つは、証明書の発行者は、自治体の市長(もしくは区長・町長)及び日本国厚生労働大臣が連名で印字されているが、特に名前も書いておらず、署名(サイン)もなく、証明書としての効力に不安を持つ人が多い。発行責任者のサインは最低限必要であると共に、仮に悪意を持って偽造しても現地でも正当な書類であるのか、偽造書類であるのかを見分けるのは不可能だろう。

現状は住民票と同じ紙を使用しているケースが多い。専用台紙での発行を求める声も

 例えば、ハワイへ入国する際に必要なPCR検査の陰性証明書(取得することで現地到着後の10日間隔離が免除される)は、ハワイ州が認めた日本国内の医療機関でのPCR検査をした場合のみ発行され、専用の台紙に記入した上で医師の名前及び署名(サイン)も入っている。少し厚めの紙を使っているなどの工夫もあり、証明書としてしっかりしたものになっていた。

 最低限、日本政府主導での「ワクチンパスポート」を発行する以上、住民票と同じ偽造防止の紙ではなく、専用の台紙を用意すべきである。ハワイ州のPCR陰性証明書は、台紙代として検査料とは別に別途500円が徴収されるが、海外へ出かける人に対しては、ワクチンパスポートの台紙代を徴収してもいいと考える。

ハワイ州指定の陰性証明書(一部画像処理をしております)
ハワイ州指定の陰性証明書(一部画像処理をしております)

ワクチンパスポートの適用国は25の国・地域。ヨーロッパが多い

 8月25日現在、出発前のPCR検査なしに「ワクチンパスポート」があれば、入国できる国は、25の国・地域(国によっては一部エリアに限定の場合もある)になっている。ヨーロッパの国が多く、日本人が多く訪れる国なかでは、ドイツ、フランス、イタリア、オーストリアなどが入っている。適用国に入国する際に、PCR陰性証明書に代わるもので、メリットとしては出発直前にPCR検査を受ける必要がないことに加えて、2万円~4万円が相場となっている海外渡航向けのPCR検査の費用が不要になるメリットがある。

 注意が必要なのは、25の国・地域全てにおいて、隔離が不要になるのではなく、あくまでもPCRの陰性証明書の代わりになるということだ(国によっては隔離期間が短くなる場合もある)。ドイツ、フランス、イタリア、オーストリアなどヨーロッパの国の多くは、8月26日現在、「ワクチンパスポート」もしくはPCR検査の陰性証明書があれば、現地到着後の隔離なしですぐに行動できる運用になっている。最新の適用国・条件については、厚生労働省の特設サイトで掲載されている。

アメリカではワクチンパスポートは入国には使えないが、持っているメリットも

 筆者は8月9日から1週間、ハワイ州のホノルル、カリフォルニア州のロサンゼルスの2都市を取材で訪れた。アメリカはグアムを除いて、日本の「ワクチンパスポート」は入国要件として認められておらず、PCR検査の陰性証明書などが必要になるが、出発前に取得した「ワクチンパスポート」を持参してアメリカへ向かった。

 ハワイでは全く活用する機会はなかったが、ロサンゼルスでは企業のオフィスに入るにあたり、カリフォルニア州以外からの来訪者については、ワクチン接種を終えていない人の立ち入りを制限しているとのことで、現状では自己申告で認めているケースも多いとのことだが、将来的には証明書の提示を求められることになる可能性が高く、入国の際の書類としては認められていない国でも、ビジネス渡航の際に唯一の英語でワクチン接種を確認できる「ワクチンパスポート」が活用できる可能性が高く、「ワクチンパスポート」適用国以外へ渡航する際も取得しておくといいだろう。

多くのアメリカ人観光客で賑わうロサンゼルスのサンタモニカ(2021年8月、筆者撮影)
多くのアメリカ人観光客で賑わうロサンゼルスのサンタモニカ(2021年8月、筆者撮影)

ロサンゼルスのダウンタウン(2021年8月、筆者撮影)
ロサンゼルスのダウンタウン(2021年8月、筆者撮影)

ロサンゼルス国際空港の国際線が多く到着するトムブラッドレー国際ターミナルの到着ロビーでは、1回のみの接種で済むジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンが予約なしで接種可能だった(2021年8月、筆者撮影)
ロサンゼルス国際空港の国際線が多く到着するトムブラッドレー国際ターミナルの到着ロビーでは、1回のみの接種で済むジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンが予約なしで接種可能だった(2021年8月、筆者撮影)

年内を目処にワクチンパスポートがデジタル化する予定

 特にビジネス渡航においては、持っているだけでも実際に使わなくても、ワクチン接種の有無を問われた際に活用できる可能性が高いことを実感した。現在、年内を目処にワクチンパスポートのデジタル化を目指す方針が日本政府から示されているが、早くデジタル化をして、スマートフォンにワクチンパスポートを組み込み、世界的に通用する統一基準でのデジタル化を望む声が大きい。

 国際基準で偽造防止対策を施したうえで、世界の多くの国で活用できる形でのデジタル化を早急に実現して欲しいところだ。

日本国内でワクチン2回接種者した人の帰国時14日間自主待機の緩和の声が企業を中心に上がっている

 そして、日本では企業を中心に「ワクチンパスポート」を現行では原則全ての日本入国者に対して求められている日本帰国時の14日間自主待機(自宅やホテルなど)の緩和に活用するべきではないかという声が出始めている。日本ではファイザー、モデルナが中心で、最近ではアストラゼネカのワクチン接種も開始されているが、2回接種を終えて2週間以上経過した人に対しても、帰国後の14日間隔離が必要なのかという声が企業関係者を中心に増えている。

帰国の際には、唾液による抗原検査で陰性を確認した上で入国審査へ進む(2021年8月、羽田空港にて筆者撮影)
帰国の際には、唾液による抗原検査で陰性を確認した上で入国審査へ進む(2021年8月、羽田空港にて筆者撮影)

帰国時の空港で陰性確認後に紙が渡され、紙の提示で入国審査が受けられ、入国後は公共交通機関での移動は不可。自家用車、ハイヤー、出迎えの車などで自宅やホテルなどに移動し、14日間自主待機となる(筆者撮影)
帰国時の空港で陰性確認後に紙が渡され、紙の提示で入国審査が受けられ、入国後は公共交通機関での移動は不可。自家用車、ハイヤー、出迎えの車などで自宅やホテルなどに移動し、14日間自主待機となる(筆者撮影)

リモート会議の限界、1年半近く海外出張できずに海外ビジネスへの影響も出始めている

 海外とのビジネスにあたり、ある企業の関係者は「対面でのミーティングが必須であり、ワクチン接種済みの人から経済を回していかなければ、国際競争力においても出遅れることでライバルの海外企業に負けてしまう」という声があり、これ以上は待てないという声だ。

 その根拠としては、ワクチン接種をすることで企業活動の再開が進んでいくという当初の政府方針がある。海外では既にアメリカやヨーロッパの多くの国で隔離なしでの入国が認められるなかで、日本では新型コロナウイルスの感染者が拡大しているが、2回接種者の重症化リスクは非常に少なく、何よりも企業においては昨年3月以降、約1年半に渡って海外出張がほとんど止まっている。リモートでの会議が進んだが、どうしても実際に現地に訪れなければならない案件が増えているという切実な事情で、限界が来ている企業も多い。14日間自主待機がなくなれば、海外出張を解禁したいと考えている企業もある。

 何よりも新規事業について進めることができないケースも増えており、アメリカやヨーロッパの主要国は、一定条件で隔離なしでの入国が認められるなかで、まずはワクチン2回接種済みの日本人渡航者の帰国時における14日間隔離だけでも緩和されることで、海外とのビジネス往来が部分再開され、経済の活性化にも繋がることになる。

帰国便の出発72時間以内に検査したPCR検査の陰性証明書が必要(写真はロサンゼルス国際空港内のPCR検査が可能な施設)
帰国便の出発72時間以内に検査したPCR検査の陰性証明書が必要(写真はロサンゼルス国際空港内のPCR検査が可能な施設)

ロサンゼルス国際空港内で検査したPCR検査の陰性証明書。日本帰国時にあたり、日本政府が指定した検査方法での陰性証明書でないと、日本行きの便のチェックイン手続きができない(一部画像処理をしております)
ロサンゼルス国際空港内で検査したPCR検査の陰性証明書。日本帰国時にあたり、日本政府が指定した検査方法での陰性証明書でないと、日本行きの便のチェックイン手続きができない(一部画像処理をしております)

まずは2回接種者に対しての自主待機期間14日間を3日間もしくは5日間程度に短縮すべきの声も

 一案ではあるが、日本で2回のワクチン接種後に発行された「ワクチンパスポート」を帰国時に提示することで、現行の14日間自主待機期間を感染者拡大地域からの帰国を除いて、まずは3日間もしくは5日間程度に短縮し、待機明けの段階でPCR検査を必須にした上で、陰性を確認した上で日常生活に戻ることも可能だろう。その場合には日常生活に戻る場合に、帰国後14日間は外食の禁止や移動は最低限に留めるなどのルール厳守を求めることを条件にして、違反者への罰則も作ることも必要だろう。

 3日間もしくは5日間程度に短縮されるだけでも、海外出張の再開へ向けて大きく動き出すことになる。実現すれば、訪問国の感染状況や入国条件などにもよるが、ビジネス渡航に加えて、海外旅行復活へ向けても動き出すだろう。最終的には自主待機期間なしになって欲しい声も多いが、まずは日数短縮から動き出すのが現時点では現実的だろう。

 日本国内での感染者が増えている状況で、帰国時の14日間の自主待機緩和に反対の声も多くあるが、ワクチン接種者の重症化リスクが少ないことが明らかになりつつある今、経済を回していくにあたり「ワクチンパスポート」所持者の自主待機期間緩和を本格的に議論すべき時期に来ているだろう。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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