Yahoo!ニュース

メイウェザーを本気にさせられるか 那須川天心の挑戦

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
メイウェザー(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ボクシングの5階級制覇王者フロイド・メイウェザー(米国)と“神童”と呼ばれるキックボクサー那須川天心が12月31日に開催する総合格闘技イベント「RIZIN.14」で対戦する。試合は3分3ラウンドのエキシビションマッチとなり、蹴りなしのボクシングルールで行われる予定だ。キックボクサー那須川天心のパンチはボクシングで百戦錬磨のメイウェザーにはたして当たるのだろうか。

ボクシングとキックボクシングの違い

 ボクシングとキックボクシングの大きな違いは蹴りがあるかないかだ。互いのルールが異なるので戦い方も大きく変わってくる。ハッキリ言ってボクサーは蹴られたら弱い。ローキックなど蹴られ慣れてないので、もらったら対応できない。足はフットワークとして使うのみなので、その生命線を攻撃されたら崩れていく。またキックボクシングもKOの多くはパンチで決まるが、それは蹴りという要素が加わることで防御の対応が変わってくるからだ。パンチだけでなく蹴りもあるので、どうしても意識が分散される。攻撃手段が多彩になればなるほどKOも生まれやすい。キックボクサーでパンチでKOしている選手でも、ボクシングルールになると通じなくなるケースも多い。蹴りがあるという前提でのパンチの使い方とパンチだけしかない中でのパンチの使い方は大きく異なるからだ。

ボクサーとしての那須川天心

 那須川天心という選手はキックボクサーではあるがボクサーとしての能力も高い。そのファイトスタイルから非常に引き出しが多く攻撃のバリエーションが多彩な選手だ。私も現役時代に実戦練習のスパーリングをした経験がある。その当時私は日本チャンピオンだったが、彼はまだ高校に進学したばかりだったと思う。非常に距離感が優れていて自分のパンチが当たる距離と相手のパンチが当たらない距離を熟知していた。その時で既にボクサーと対等に戦える技術を兼ね備えていて驚いたものだ。相手がそれなりのボクサーでも面白い戦いが見られると思うが、今回は相手がパウンド・フォー・パウンドNo.1(全階級通じてNo.1)と呼ばれるメイウェザーとなるので分が悪い。トップクラスのボクサーでも、メイウェザーを捕まえるのは至難の業だ。メイウェザーは非常に目が良くてディフェンス能力に優れ、なかなかパンチを当てさせないボクサーだからだ。

独自のタイミングで打てばチャンスがある

 チャンスがあるとしたらキックボクシングをベースとした独自のタイミングで戦う事だ。実はボクサー同士というのはタイミングが読みやすい。1ラウンド戦えば大体相手のタイミングやパンチの軌道が読めてくる。しかし、他の競技の選手や素人に近い選手と手を合わせると非常にパンチの軌道が読みにくい。ボクサーならこのタイミングでこうくるというセオリーが、まったく通じないのだ。天心もボクサーとは違ったタイミングや軌道でパンチが打てると思う。なのでボクサーが持っていない独自のタイミングでパンチを打てばメイウェザーに当てるチャンスはあるだろう。

短いラウンドの方が有利

 世界戦を経験しているボクサーは長いラウンドの戦いに慣れている。3分12ラウンドの戦いの中で、前半、中盤、後半の戦略を決めて戦う。長い方が疲れると思われがちだが、必ずしもそうとも言い切れない。3分3ラウンドだと非常に密度が濃い戦いになる。前半からかなり速いペースで試合が進み12ラウンドを想定した戦いとは大きく異なる。メイウェザーの試合を見ると特に1,2ラウンドは無理をしないで距離感やタイミングを計るケースが多い。中盤から後半にかけてペースをつかみ盤石の戦いに持ち込んでいく。必ずしも前半が強いわけではない。逆に天心は5ラウンド以下の短いラウンドに慣れていると思うし、その中での戦い方に熟知しているという点では有利だ。また、メイウェザーは実戦から遠ざかっているのも大きなハンデとなる。練習と本番は違う。観客が見ている雰囲気や一発勝負の独特の緊張感は試合にしかない。どんな練習をしても本番は再現できない。前回の試合から一年以上もリングに立っていない影響は少なからず出るだろう。

体重差を埋めるルールの制定がポイントになる

 メイウェザーに不利な要素をあげてみたが、それでもかなり厳しい戦いになるだろう。やはり体重差がありすぎる。天心は前回の試合では57キロ級で試合をしていた。ボクシングでいうとフェザー級 / 126ポンド(57.15キログラム)以下に該当する。対するメイウェザーはスーパー・ウェルター級 / 154ポンド(69.85キログラム)以下を主戦場として戦っていた。10キロ以上体重が離れていたら、いいタイミングでパンチが入っても効かせることは難しいのではないだろうか。私も経験があるが下の階級の選手のパンチはそこまで効かない。それほどボクシングは体重差が大きなハンデとなる。せめてグローブの大きさを変えるなりグローブハンデだけでもあったほうがいい。相手のグローブが大きくなればその分ダメージは少なくなる。エキシビションとはいえ体重差があるのならせめてもその差を埋めるルール制定が必要だ。個人的には日本でメイウェザーを見られるのは楽しみだが、どうせなら本気のメイウェザーが見たい。試合はどちらが勝つか分からないからこそハラハラドキドキする。そのためにも公平なルールであってほしいところだ。平成最後の大晦日に那須川天心がメイウェザーを本気にさせる姿が見たいものだ!

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

木村悠の最近の記事