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「最初は別の日本人FWを狙っていた」豊田陽平のKリーグ移籍・韓国裏事情を現地記者が明かした

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
Kリーグ蔚山現代への期限付き移籍が決まった豊田陽平(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

サガン鳥栖の豊田陽平がKリーグの蔚山現代に移籍することが決まった。1月3日から12月31日までの期限付き移籍となるという。

豊田の移籍については、韓国メディアも、「蔚山現代、元日本代表の豊田陽平を獲得」(『聯合ニュース』)、「蔚山現代、Jリーグ得点王にもなったFW豊田陽平を獲得」(『イーデイリー』)などと報じている。

豊田のKリーグ進出は、実際は韓国でどう受け止められているのか。

現地メディアの本音を探るべく、韓国でもっとも有名なフリーのサッカージャーナリストとして知られるソ・ホジョン記者に話を聞いた。

当初はあの日本人選手が候補だった

「そもそも蔚山は、エースストライカーのイ・ジョンホを怪我で欠いています。FAカップの決勝戦第2戦で左足脛骨を骨折したイ・ジョンホは、来年4月以降にようやく復帰できる見込み。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)グループリーグにも出場できません。

そのため蔚山は、冬の移籍市場でストライカーに焦点を合わせ、イ・グノなど韓国人選手の獲得に乗り出しましたが、うまくいきませんでした。そこで狙いを定めたのが、アジア枠で獲得できる日本人FWだったのです」

もっとも、Kリーグで日本人選手がプレーすることは珍しいことではない。

2001年に海本幸治郎が城南一和(現・城南FC)に移籍して以来、多くの日本人選手がKリーグでプレーしており、アジア枠が導入された2009年からは、その数はさらに増えている。

(参考記事:“多国籍化”が進む韓国Kリーグに日本人選手はどれだけいるのか

そんな中で白羽の矢が立ったのが豊田だったというわけだが、もともとは別の日本人選手が候補に挙がっていたらしい。

「当初はヴィッセル神戸のハーフナー・マイクと交渉していましたが、本人のプライベートな問題で契約が見送られ、蔚山は豊田に方向転換したのです。ハーフナー・マイクも豊田も、日本人選手としては身体能力の高い選手。当たりやプレッシャーの強いKリーグのディフェンスにも負けないFWを探していたのでしょう。

実際に蔚山は、キム・ドフン監督が直接、電話で豊田を説得するほどの本気度を見せました。一方で豊田も、環境を変えて昨季の不振を挽回したいという思いがあり、移籍を決断したのではないでしょうか」

つまり、蔚山と豊田の思惑が合致したからこそ今回の移籍は成立したというわけだが、近年はKリーグの観客数も減り続けているだけに、豊田が蔚山でプレーすることは韓国サッカー界にとってもメリットが大きいという。

「個人的には、豊田ほどのネームバリューがある日本人選手がKリーグに来ることを歓迎したいです。豊田は、これまでKリーグでプレーした前園真聖、戸田和幸、高原直泰、エスクデロ競飛王、家長昭博、高萩洋次郎などに比肩するレベルの選手だと思いますから。

また、最近は韓国の良い選手たち、特にGKが数多くJリーグに渡っていますが、豊田が韓国にやってくることで、日韓の選手の交流もさらに深まるのではないでしょうか」

(参考記事:元アビスパ福岡イ・ボムヨンが韓国メディアに語った「韓国人GKのJリーグラッシュ」の是非

ロールモデルにするべき選手は高原と高萩

豊田に対する期待の高さがうかがえるが、日本と韓国では環境が大きく異なるのも事実だ。言語や生活習慣はもちろん、サッカースタイルも日本とは違う。

実際、2016年にKリーグチャレンジ(2部に相当)の釜山アイパークでプレーした渡邉大剛も、以前のインタビューで、「(Kリーグは)Jリーグとすべてがあまりにも違いすぎる」と語っていた。日本で評価されていたプレーが韓国では通用しないことも十分にあり得るわけだ。

(参考記事:日本人Kリーガー渡邉大剛が見て感じた“日韓サッカーの決定的な違い”)

ソ・ホジョン記者も、「豊田はKリーグにいち早く適応すべき」としながら、豊田がロールモデルにすべき選手として、2010年に水原三星でプレーし、在籍した6カ月間で12試合に出場して4ゴールを挙げた高原直泰を挙げる。

「Kリーグは、長くボールを持つFWに対して無慈悲です。ディフェンスはファウルを犯してでも相手選手を止めようとします。そのため豊田も、ボールを持っていない場面での動きや早いパス、そして強いフィジカルと精神力が求められるでしょう。

豊田は、水原三星で活躍した高原を参考にするといいかもしれません。高原はKリーグのサッカースタイルにすぐに適応し、短期間に強いインパクトを残しました」

一方で、ピッチの外での生活においては、2015年から2年間FCソウルでプレーした高萩洋次郎が成功例だという。

「Kリーグでは、サッカーがうまいだけでは不十分。チームメイトとの日常的なコミュニケーションがプレーにも大きく影響します。そのため、トレーニングを終えてそのまま帰るのではなく、チームメイトと過ごす時間を作り、互いを知っていく必要があるでしょう。その意味で高萩は、ピッチの外でもすばらしい選手であるという印象を与えました」

昨年ソウルで行った独占インタビューで、高萩自身も「みんな、僕のことを外国人選手と思っていないんじゃないですかね(笑)」と冗談交じりに話していたが、豊田が韓国で評価されるためには、それほどチームに溶け込む必要があるということだろう。

(参考記事:日本人Kリーガー高萩洋次郎が語る「韓国で選手生活を送るということ」

もっとも、蔚山には豊田がチームに馴染みやすい環境が整っているという。

「幸いにも昨年、キム・ドフン監督が就任して以降、チームのムードは上向きです。キム・ドフン監督は選手に全幅の信頼を寄せる指導者として知られていますし、蔚山は日本人選手がプレーしてきた下地もあります。家長昭博に増田誓志、昨年は阿部拓馬も在籍していましたよね。

それに、クラブでは津越智雄フィジカルコーチが通訳も務めていますし、事務局長のキム・ヒョニ氏も日本で幼少期を過ごしたので日本語が堪能ですから、言語の壁も乗り越えられるはずです。キム・チャンス、パク・チュホなどJリーグで数年プレーした選手も豊田を助けてくれるでしょう。

豊田はこれまで良いパフォーマンスを見せ続けてきた選手です。昨季こそ調子を落としましたが、必ずKリーグで復活すると期待していますよ」

韓国でも期待とともに受け止められている豊田のKリーグ進出。元日本代表FWが新天地でどのような活躍を見せるか注目だ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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