話題の新型コロナ対策サイト誕生のきっかけは東日本大震災 9年で進化した行政とテクノロジーのコラボ
東京都が公開した新型コロナウイルスに関する情報まとめサイトがわかりやすく、しかも、外部との連携にもオープンで使いやすいと評判です。台湾のIT担当大臣が機能向上に協力したことも話題になりました。
テクノロジーを活用して誰でも協力できるこういった取り組みは、突然始まったわけではありません。きっかけは、2011年3月11日でした。
「オープンガバメント」を体現したサイト
政府や地方自治体など様々な機関が持つデータを外部にも使える形で公開する「オープンデータ」、そうやって開かれた政府や行政をつくっていく「オープンガバメント」。
東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトは、そういった考えを体現したサイトと言えます。
(新型コロナウイルス感染症対策サイトより)
コロナウイルスの陽性患者数の変化やその属性などをオープンデータへのリンクとともにまとめる。しかも、わかりやすくチャートで表示するそのソースコードはGitHubというプラットフォームで公開されることで世界中の開発者が改善に協力できるだけでなく、地方自治体なども自分たちの情報発信に活用できます。
国内外のエンジニアが協力した「シビックテック」
12歳からプログラミングを独自に学び、19歳で起業。35歳で台湾のIT担当大臣に抜擢されたことで日本でも話題になったオードリー・タン氏もGitHubを通じて、サイトの表示改善に貢献していました。もちろん、彼女だけではなく、東京都庁で勤務しているわけではない国内のエンジニアたちもこのプロジェクトに協力しています。
民間のエンジニアたちが自分の技術力を活かして公的機関の情報発信や災害対応など公共分野のサービス向上に貢献する。そういう活動を「シビックテック」と呼びます。「シビック」は直訳で「市民」。シビックテックは、公共の空間で共に暮らす仲間が、その公共圏をテクノロジーの力で改善していくものです。
オープンデータ、オープンガバメント、シビックテック。日本ではまだ一般的ではないこれらの言葉が、この国でも広がり始めたきっかけが、東日本大震災でした。
震災きっかけに立ち上がったエンジニアたち
震災の大混乱の中で、私たちは公的機関に頼るだけではなく、自分たちにできることはないかを考えました。募金やボランティア。そして、エンジニアたちが活かせるものが、自分たちの技術力でした。
その一人が関治之さん。震災に関する情報を地図上に落とし込んで可視化するsinsai.infoというサービスの立ち上げに参画しました。
その後、関さんはエンジニアやデザイナーらの仲間たちとともに一般社団法人「Code for Japan」を2013年に設立します。アメリカで2009年に設立されたCode for Americaを参考に、オープンガバメントやシビックテックを広げる活動に取り組むためです。
行政側にも問題意識はありました。膨大なデータを抱え込んでいるけれど、その多くはオープンデータ化していない。独自に情報発信をしようにもテクノロジーの活用は進まず、いまだにサイトでPDFで発信するような状況が続いている。
Code for Japanに代表されるシビックテックと行政側でオープンガバメントを進める担当者たちは震災後、何年もかけて少しずつ事例を積み重ねてきました。海外との交流や知見の共有を進める中で、台湾のシビックテックの中核にいるオードリー・タン氏とのつながりも生まれました。今回の協力はたんなる偶然ではありません。
9年間で社会は前進した
私は2013年、Code for Japanが設立される当初の議論を取材していました。エンジニアたち、政府や自治体の担当者たちがテクノロジーとオープンデータの力でよりよい社会と行政をつくっていこうと、予算もない中で夢を語っていました。
東日本大震災という災害をきっかけに広がり始めた小さな議論が、新型ウイルスと闘う2020年の新サイトにつながる。9年間で、私たちの社会は確実に前進をしました。
(訂正)当初「shinsai.info」と表記しましたが「sinsai.info」の誤りでした。訂正しました。