107人が死亡した雷、中国共産党に怒ってなだれ込む群衆 感情に訴えるフェイクを1分で見破る方法
インパクトのある写真を反射的にシェアしてしまったり、「マスメディアに流れない事実」を見つけてリツイートしたり。そうやってあなたが拡散した情報は、世界中で何度も繰り返し現れるデマやフェイク情報かもしれない。
実例と、そういった情報に騙されないための具体的な方法を紹介する。
何度も拡散する「インドの雷神」画像
2020年6月25日、インドで落雷によって107人が死亡したというニュースが流れた。その際に、ある匿名アカウントがツイートした画像が、冒頭に掲げたものだ。
信じがたい量の雷が降り注ぐ画像は1.2万回以上リツイートされ、「これが本当の『万雷』か」「逃げ場なし」などの反応を生んだ。
結論から言うと、この画像は2つの意味で現実のものではない。
一つは、雷が落ちている写真を何枚も合成して作った写真だということ。もう一つは、2017年4月に撮影されたものであるということ。
つまり、2020年6月25日のインドの雷として紹介するのは明らかな誤りだ。
この画像が誤って拡散する事例は今回が初めてではない。2017年8月には「浜松市内に落ちた雷」として2万7000回以上リツイートされた。この際はBuzzFeed Japanがファクトチェックして、画像は浜松のものではないと検証している。
誤った画像や情報は何度でも拡散される。最初にツイートしたり、ネットにアップしたりする人だけでなく、リツイートやシェアをする人たちも誤った情報の拡散に何度でも協力してしまう可能性がある。
画像検索ツールで1分で検証できる
なので、怪しい画像を簡単に見極める方法を紹介する。使うのは「RevEye Reverse Image Search」というツールだ。Googleのchromeウェブストアで無料で入手できる。
Googleクロームの拡張機能で、これをダウンロードしておけば、あとは画像にカーソルをあわせて右クリックをし、「Reverse image search」→「All search engines」を選ぶだけだ。
Google、Bing、TinEyeなど複数の検索エンジンで、似た画像を探し出してくれる。この画像は各国でいろんな形で紹介されているために、多数の検索結果が出てくる。
このうち、最も古くアップされた画像をTinEyeで確かめると、2017年4月にアップされたものがあることがわかる。
この時点ですでに2020年の画像でないことはわかる。ここまで1分もかからない。
ここからさらに調べていくと、元画像は2017年4月5日にJan Wellmanという人物によってInstagramに投稿されていたものであり、「Gurgaon, Haryana」という位置情報とともに「ニューデリーの雷神(89画像のレイヤー加工、4月5日の1時間以上にわたり撮影)」という説明もあることがわかる。
動画も簡単に検証できる
動画を検証する便利なツールもある。「InVID」という名前で、これもGoogleのchromeウェブストアで無料で入手できる。このツールを使ってネット上の動画を検証してみる。
「中国共産党に怒って国境に集まったインドの民衆。凄い急斜を駆け下りています」という文言とともにTwitterで1万4000回以上RTされた動画。そのツイート自体はすでに削除されているため、さらにその元ネタとなったインドのアカウントからのツイート動画を検証してみる。
6月15日にインドと中国の国境地帯で両軍が衝突し、インド兵が20人死亡、中国側も非公表だが死傷者を出すという事件があった。この6月19日のツイートを翻訳すると次のように書いている。
「鉄砲水か?いや、怒ったインド人が #インド と #中国共産党 の国境になだれ込んでいる!中国共産党の無許可工事を防ぐのだ。勇敢なインド人よ!!」
この動画は本当に「怒ったインド人」なのか。URLをInVIDの「Keyframes」に入れてみると、動画から複数の画像を切り出してくれる。
画像を右クリックして「RevEye」で検索すれば、YandexというサーチエンジンでYouTubeにアップされた動画が見つかる。動画にはTikTok経由でアップされたことがわかるマークとそのアカウント名も記されているので、3月25日にアップされた元動画にたどり着ける。
この段階で、この動画は6月のインドと中国の国境紛争とは関係ないことがわかる。さらにコメント欄などをたどっていくと、最終的にはこれが中国やインドとは何の関係もなく、ミャンマーのヒスイ採掘場の動画である可能性が高いこともわかる。
感情に訴えるフェイクにツールで対抗する
雷の画像はそのインパクトから、後者の動画は反中感情から拡散していったことが、Twitter上のコメントから見て取れる。誤った情報を広げていくのは、そういった感情的な動きだ。
ツールを用いれば、簡単に検証できるものも多い。感情に流されず、ツールを用いて冷静に情報を検証する「ファクトチェッカー」が増えることが、誤情報の拡散防止につながる。
(情報開示)
筆者は日本でファクトチェックを普及させる活動をしているファクトチェック・イニシアティブの理事で、国内事案を担当するエディトリアル・ディレクターの任についています。
今回のファクトチェックには、FIJリサーチャーの武藤珠代さん、藤本結月さんの協力を得ています。