中国から日本への団体旅行解禁へ それでももう「爆買い」は期待できないと感じる理由
中国から日本への団体旅行が10日にも解禁されることが日中政府関係筋の情報で明らかになった。日本の観光関係者の間では、ようやく「爆買い」復活か、と期待されているが、果たして本当に、かつてのような中国人の「爆買い」、インバウンドは戻ってくるのだろうか。
団体旅行は全体の3割以下
中国人の「爆買い」といえば2015年に大きな話題となった。同年末、日本のユーキャン流行語大賞も受賞するなど誰もが知る言葉となり、中国人=爆買い、といったイメージが脳裏に強く刷り込まれている人も多い。
だが、2019年末以降、新型コロナウイルスの流行で、中国人を含め訪日外国人観光客はパタリと途絶えた。
あれから3年、中国政府は今年1月にゼロコロナを終了して以降、海外への団体観光旅行を段階的に解禁したが、その中に日本は含まれず、「一体いつになったら日本に中国人観光客はやってくるのか」といった問い合わせを私も各方面から受けた。
しかし、メディアも含めて、多くの日本人が勘違いしているのは、訪日中国人観光客の大半が2019年の段階で「個人旅行」という形態での来日であり、「団体旅行」はすでに3割を切っていて“少数派”であることだ。
今回、解禁になるのはその「団体旅行」のことであり、そもそも中国人観光客全体に占める割合は多くない。
「爆買い」がほぼ毎日メディアを賑わせていた2015年ごろは「団体旅行」が7割で「個人旅行」は3割だったが、それはすぐに逆転し、個人で自由に好きなところを旅行したいという中国人が急速に増えた。そのため、2019年の時点で、中国人観光客=個人旅行が主流なのだ。
ブームだった当時に取材した際、多くの中国人は「団体旅行だと中国人ガイドや係員に騙されて嫌な思いをする。好きなところに行けない」と不満を語っていた。
中国人の海外旅行は日本より30年遅れて始まったが、そのため、逆にキャッチアップしたり成熟化したりするのも速く、お決まりの団体旅行では喜びを感じない(そして、他人に自慢することもできないと感じる)中国人が増えたのだ、と私は思った。
だが、不思議なことに、日本のメディアではいまだに「中国からの団体旅行が復活すれば、爆買いが復活するはずだ」といった論調が多い。
中国人の海外旅行は日本とは異なる
日本とは異なり、中国では自分で自由に「全部アテンドしてくれる団体旅行に参加しよう」「今回は夫婦2人だけなので、のんびりできる個人旅行にしよう」といった選択はできない。
今年の春節、なぜ中国人観光客はあまり日本に来ない?背景にある観光ビザの申請事情
上記のリンク先記事でも紹介した通り、所得によって取得できるビザが異なるからで、所得の低い人は、そもそも個人で日本旅行に来たくても、来ることができないのだ。
このように中国人の日本旅行は所得によって線引きされている。日本人の海外旅行とは根本的に大きな違いがあるので、団体旅行が解禁になっても、それは前述の通り、最大でも、全中国人観光旅行客の3割以下となる。
もちろん、その3割でも確実に日本に戻ってくるのであれば、各地の観光地は恩恵を受けるかもしれない。
団体で行動していれば目立ち、日本の旅行会社も関わっているので、メディアがその姿を撮影しやすく、「団体旅行が解禁になり、その第一陣が来日しました。果たして、爆買いは復活するのでしょうか」といった形で報道されることだろう。
何しろ、中国人観光客の消費額は2019年に約1兆7700億円で、訪日客全体の36・8%、1人当たりの買い物額も10万円を超えるなど、他国・地域を大きく引き離してトップだからだ。
もしかしたら、また「爆買い」ブームのときのように、中国人観光客にスーツケースを開けてもらい、「どれだけの買い物をしましたか」といった報道が日本で繰り返されるかもしれない。そうすると、日本では「中国人観光客=団体客」といった誤解がまた定着してしまうだろう。
日本にどれだけの恩恵があるか
だが、私は、このような日本メディアの報道に疑問を感じるし、かつてとまったく同じような「爆買い」は起こらないだろうと感じている。
その理由は、まずコロナ禍以降、彼らの考え方、嗜好は多様化し、外国人の目にはますますわかりにくくなっていることだ。
中国国内にいても同様のことが起きているのだが、「友だちが〇〇の薬を買ったから私も欲しい」といった単純な消費パターン、思考は減っている。SNSで出回る情報量が爆発的に増え、個人の関心の対象は、コロナ禍前には想像できないほど幅が広がった。
それに、日本メーカーの日用品は中国でも購入できるので、わざわざ日本で買う必要がない。それぞれ、欲しいもの、見たいものは違ってきているのだ。
また、中国人は中国人同士のネットワークを使い、彼らの間だけで商売や情報をシェアすることが増えているので、日本企業や日本の小売店、飲食店への恩恵は以前よりは減るだろうと感じている。
「爆買い」ブームの2015年でさえ、西日本にやってきたクルーズ船の観光客は、下船後に中国人ガイドのアテンドで「ラオックス」などの免税店を巡り、中国人の手引きで観光していて、日本にいるのに、そこに日本人は介在しない「日本人スルー」だった。
もちろん、日本料理店や日本の民芸品店など、日本人経営の店にお金を落とすことは一定程度あるだろう。ここは日本なのだから、それは当たり前だが、基本的に中国人の海外旅行や海外でのビジネスに深く関わるのは、その国の人ではなく、その国に住む中国人である、ということだ。
クルーズ船の取材をしたとき、「バスの運転手さん以外、日本側で受け入れているのは全員中国人で、日本人はいないじゃないか」と驚いたことがあった。
関与するのは在日中国人
あれから数年、今では京都の町家も、北海道のホテルも中国人に買収されるところが増えている。観光はあくまで「名目」で、日本の不動産を買い求めに来る人も多い。
中国で募集中の団体観光ツアーの中身を見てみると、「4泊5日で浅草、富士山、京都などを巡るツアー。中2日間は自由行動。9999元」といった、以前よりもフレキシブルな内容が増えているため、フリータイムに在日中国人が関与してくることは十分想定できる。以前と違い、1回きりの記念旅行とは彼らも思っていないため、中国人同士の単純なだまし合いは減るだろう。
日本人がただ首を長くして待っているだけでは、どんなによい観光地であっても、彼らのネットワーク、情報網に入っていない限り、来てくれない可能性もある。
前述のように、彼らの行動は多様化しており、どこに関心を持ち、どんな行動を取るか、素人の日本人が予測するのは非常に難しい。そんな中で、今回、団体旅行が解禁となる。
日本ではオーバー・ツーリズムや観光公害、サービス業の人手不足問題などもあり、中国人団体客を受け入れることに賛否両論あるだろう。
だが、そんな日本人の複雑な思いとは裏腹に、彼らはこの3年半でまったく違うステージに立っている。彼らの考え方、嗜好、行動は日本人が想像する以上に変化していると考えたほうがよい。