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覚醒剤購入の警察官逮捕 なぜ覚醒剤取締法より罪が軽い麻薬特例法違反か?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 広島県警の警察官が密売人から覚醒剤を購入したとして逮捕された。しかし、適用されたのは覚醒剤取締法ではなく、より罪が軽い麻薬特例法の譲受け罪だった。なぜか――。

どのような事案?

 報道によれば、次のような事案だ。

「密売人から2回にわたり覚醒剤を譲り受けたとして、広島県警は13日夜、県警機動捜査隊東部分駐隊の巡査長…を麻薬特例法違反(譲り受け)容疑で逮捕」「自ら使用した可能性もあるとみて調べる方針」

「逮捕容疑は、昨年12月27日と今年3月3日、それぞれ尾道、福山市内の駐車場で密売人から覚醒剤を譲り受けた疑い」「いずれの日も…容疑者は非番」「代金を支払った上で譲り受けていた」

「県警は今年3月、この密売人を覚醒剤取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕。その後の捜査で…容疑者の容疑が浮上」

中国新聞デジタル

 「譲り受けた」という言い回しだと無料でもらったかのようなイメージを抱く人もいるだろうが、代金を支払ったか否かにかかわらず、法律上は同じ譲受け罪となる。

現物の有無が重要

 もっとも、覚醒剤取締法の譲受け罪に問うためには、購入した物が間違いなく覚醒剤だったという客観的な立証を要する。使い果たされていて現物が残っていなければ鑑定できず、立証は困難だ。

 それでも、規制薬物の蔓延を阻止する必要性は高い。そこで、麻薬特例法には、覚醒剤取締法よりも要件を緩和した特別な譲受け罪などが設けられている。

 覚醒剤の所持といった薬物犯罪を行う意思をもって「薬物その他の物品」を規制薬物として譲り受けるなどすれば、それだけで処罰されるというものだ。

 「その他の物品」には覚醒剤か否か不明な場合のほか、全くのニセモノも含まれる。本人が中身を本物の規制薬物だと認識していさえすればよいからだ。

刑罰は格段に軽い

 もともとは税関検査などで覚醒剤が発見された際、塩や砂とすり替えて配達させ、受け取った者を検挙する「泳がせ捜査」のために設けられた規定だ。今では覚醒剤か否か確定できないような事案を立件するためにも使われている。

 ただし、現物がなく、覚醒剤を譲り受けたとは断言できないので、覚醒剤取締法の譲受け罪が懲役10年以下であるのに比べると、懲役2年以下と格段に軽くされている。

 今回の警察官も、覚醒剤の様なものを覚醒剤として譲り受けたということで、この規定で逮捕されたというわけだ。もし自宅などの捜索で覚醒剤が発見されていれば、こうした譲受け罪ではなく、より立証が容易な所持罪で逮捕されていたはずだ。

 逮捕時の尿検査が陽性だと、今後、使用罪でも立件されることだろう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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