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都知事選劇場、小池百合子さんを応援する人の心理学

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
2016年東京都知事選挙 グリーンを基調とした小池氏、都内で街頭演説(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

7月31日に投開票の東京都知事選、調査によれば小池百合子さんが優勢だという(小池氏優勢、増田氏追う 鳥越氏苦戦 都知事選情勢調査『朝日新聞』)。選挙戦が始まったばかりの頃、「小池さんが追い上げると思う」というと、周囲の人は「まさか」と首をひねっていた。しかし、小池さんの「都知事選劇場」での演出はあまりにも華麗で見事である。つい小池さんを応援したくさせられるものがある。

例えば7月3日、出馬を表明したあと、東京都江東区で行われた参院選の自民党公認候補の街頭演説。

演説カーの横で約1時間、ほかの国会議員や都議らとともに、(小池さんは)立ったまま候補者の訴えを聞いた。安倍晋三首相や石原伸晃都連会長が訪れた際に、存在を示すことができる最前列に、陣取った。ただ、首相や石原氏は車を降りると、小池氏の前を素通り。小池氏は会釈したが、会話もあいさつも成立しなかった。それでも小池氏は、内田茂都連幹事長ら幹部を見つけて、頭を下げ続けた

出典:小池氏、都知事選出馬の非礼おわびも安倍首相素通り

見事である。都知事選に出馬をすると意思表示をしたら、自民党の「オジサン」たちに無視される。会釈しても、会話もあいさつも成立しない。そこで頭を下げ続ける小池さん。もうこれを見たら、私も「小池さん、頑張って!」という心理が刺激されてしまった。事実、インターネットには「酷い」「可哀想」という声があふれた。その一方で、その前後のメディアへの対応などを見ていると、計算されつくされたアピールであるというようにも、感じられた。

しかもさらに増田寛也さんを担いだ自民党は、所属する国会議員や地方議員に対し、党が推薦していない候補者を応援した場合に除名などの処分を科すとする文書を配布した。しかも議員だけではなく、「親族含む」人が非推薦の候補を応援した場合は除名等処分の対象とするというのである自民、増田氏以外の応援処分『毎日新聞』)。21世紀の時代に、親族までも監視し、除名処分にすると脅すとは驚きだ。しかしこれも、明らかに小池さんに利しただろう。「小池さんが可哀想すぎる!」。

自民党が擁立した増田さんは、古いタイプの自民党の王道を行く候補者だ。事実、立候補の直前まで東京電力の社外取締役だった。自民党がこうした官僚的な旧態依然とした候補者を担ぎだし、小池さんへの締め付けをすればするほど、小池さんが従来型の自民党政治を壊してくれる改革者のように感じられる。おりしも参議院選挙と時期的に重なり、自民党への何とも言えない不安が、共有はされている時だ。「自民党をぶっ壊す!」といって熱狂的に支持され、結果として自民党を躍進させた小泉純一郎元首相を思い出した。事実すぐに、小池さんも「議会の冒頭解散」を主張し、「都議会をぶっ壊す!」と報道されることになる(そんなことは実際には不可能だが)。そういえば、小池さんは小泉首相の近くで、小泉劇場をつぶさに見ていたのだっけ。

さらにいえば、小池さんは女性だ。小池さんに投票すれば、「初の女性都知事の誕生」というイベントに参加できたような気がする。「自分たちの一票で、何か新しいことを成し遂げるという達成感も感じられる。小池さんは、グリーンをテーマカラーにしている。ピンクのように女性らしさをことさらアピールするのでもなく、でもエコロジーとつながる「女性ならでは」といった爽やかさを演出する。ももクロのコンサートのように、推しメン(応援しているメンバー)のテーマカラーを身に着けて、小池さんを演説を聞き、応援するのはとても楽しいイベントだろう。小池さんを応援しない人が、おかしな人にすら思える。小池さんは本当に頭のいい人なのだと思う。

しかし、小池さんの主張内容は、決して「女性らしく」なんかない。過去には在特会で講演をしたこともあるし(在日特権を許さない市民の会HP)、「日本会議」との関係も指摘されている(例えば小池さんの日本会議への声)。小池さんは「軍事上、外交上の判断において、核武装の選択肢は十分ありうるのです」と言い、それ受けて、鼎談相手は「東京に核ミサイルを」と主張している(「日本有事3つのシナリオ」小池さんのHP)。消費税よりも重要な議論は憲法改正だといい、軍備を主張する(「主体性のある国家へ -国権・国益・国民の財産と生命をどう守るか」小池さんのHP)。ある意味で、男性よりもさらに「男らしい」。候補者のなかでは、一番の「タカ派」だろう

他方で子育てなどにはあまり関心はなく、選挙戦での保育園訪問アピールの割に、今まで保育政策に冷淡だったことを批判されている。待機児童に関しては、産み育てやすい社会にするために、他の候補が保育所、保育士の処遇改善を訴えるなか、「意識改革」を主張してテレビの視聴者を驚かせたようだが(都知事選の論点 全国最低の出生率 産み育てやすい社会は?)、そもそも公約では、規制緩和を推進して子どもを詰め込むことによる解決を主張している。今の基準ですら問題があるというのに、実行されたらとても安心して子どもを預けられないだろう。

日本会議は男女共同参画にも大反対である。女性の権利に反対する団体の要職にいた女性の都知事が、誕生するのだろうか(日本会議国会議員懇談会の副幹事長や副会長を歴任)。そういえばイギリスで、福祉を切り捨て、格差を進行させた首相は、「鉄の女」と呼ばれたマーガレット・サッチャー。女性だった。ときに女性の政治家は、男性にもできないような極右的な政策を可能にする。それは、おそらくフェミニズムとは呼ばれないだろう。

そもそも不思議なのは自民党である。小池さんを応援すれば除名処分にするというのに、党に逆らった小池さん本人は、まだ除名もされず、自民党員のままだ。自民党は、どうして除名しないのだろうか。謎である。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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