マウナロア火山噴火で、64年続く温室効果ガス観測に危機
38年ぶりの大噴火に、観光客が押し寄せています。
11月27日に世界最大の活火山、ハワイ島のマウナロアが噴火しました。真っ赤に燃える溶岩がなだらかな山の斜面を流れ落ち、恐ろしくも美しい絶景を作り出しています。
この光景を一目見ようと、世界各国から大勢の観光客が訪れているようです。周辺道路は大渋滞が起き、交通規制も行われているほか、上空から火山を見下ろすヘリコプターツアーも大人気で、予約が取れないといいます。
しかし盛り上がりとは裏腹に、懸念されていることがあります。
道路の閉鎖
まず、主要道路が寸断されるおそれがあることです。
島の東西を結ぶ、通称「サドルロード」には、溶岩流があと3キロの距離に迫っています。溶岩流の移動速度は時速約20メートルとのことですから、このまま同方向に動き続ければ、来週にも達してしまう可能性もあります。
この道がふさがると、島の東部に位置するヒロと、西にあるカイルア・コナを車で行き来するにはぐるっと遠回りせざるを得ず、余計に時間がかかってしまいます。
健康被害「ヴォッグ」と「ペレーの毛」
次に心配されるのが、健康被害です。
その原因の1つがヴォッグです。
ヴォッグ(Vog)とは、霧を意味するフォッグ(Fog)と、火山を意味するボルケーノ(Volcano)の造語で、噴火によって出た二酸化硫黄などが、酸素や太陽光で化学反応を起こし発生する有害な大気汚染物質のことをさします。目や喉の痛み、頭痛、息切れ、気管支炎などを発症させることがあります。
2つ目の原因が「ペレーの毛」と呼ばれる物質です。
ペレーとは火山の女神のこと。噴火により吹き飛ばされたマグマの一部が急速冷却されて、極細の繊維状の物質になります。見た目は神の髪の毛のようですが、実際は糸状のガラス片なので、けがをしたり、吸い込めば肺などが損傷したりするおそれがあります。
温暖化データの欠損
こうした交通障害や健康被害が懸念されているうえに、残念なことに、いま重要な大気のデータが計測できない状態にあります。
マウナロア山の標高3400メートル付近に建つ観測所では、1958年から大気中の二酸化炭素濃度をほぼ途切れることなく(※)観測してきました。ところが観測所につながる道路が溶岩流で通行不能になり、停電も起きて、その計測が行えない状態になっているようなのです。
上がマウナロア観測所で観測されてきた、大気中の二酸化炭素濃度の推移です。
横軸が年、縦軸がCO2濃度です。季節的な変動があるものの、右肩上がりにCO2濃度が上昇しているのがわかります。これは「キーリング曲線」と呼ばれるもので、温暖化の進行度合いを示す世界的に重要な指標です。
今年春には、CO2濃度が421ppmに上昇し、”人類史上未踏の領域”に達したようです。
地球の今を知るための貴重なデータが得られなくなっています。観測所の研究者は、データの欠測部分は補完できないことはないが、長期になればなるほど正確性が失われてしまうと危機感を募らせています。
観測所への道が寸断されている今、アメリカ気象局はヘリコプターで観測所に発電機を送ろうと模索しているようです。