ペット業界が求める「規制緩和」の中身 犬の飼育頭数減少は動愛法改正のせい?
前回、ペット関連の業界団体が動物愛護法の規制緩和を求めるために唱える「ホビーブリーダーが大幅に減った」という主張は、根拠があいまいなものだ――という記事を書いた。今回は続編として、昨年12月22日に行われた一般社団法人「ペットフード協会」の石山恒会長による記者会見とその際の質疑応答の内容を紹介してみたい。
ペットフード協会は、ペットフードの製造・販売会社など85社(2018年4月1日現在)が会員となっている業界団体で、会員企業によるペットフード市場の占有率は90%以上という。その会長を務めているのが、マース ジャパン リミテッド副社長である石山氏だ。
年末年始の前後に行われるペットフード協会の記者会見は、犬猫の推計飼育頭数を発表するために毎年恒例化しているもの。この日は、2017年の犬猫推計飼育頭数の発表に続き、石山会長が「犬飼育頭数の減少と課題」と題するプレゼンテーションを行った。
石山会長は冒頭、「(犬の飼育頭数が減少する問題の)原因がわかりましたので、問題の解決にあたれるのではないかと思います。これから原因についてお話をさせていただきたい」などとあいさつ。そのうえで、
▽ブリーダーの数が2回の(動物愛護法の)法改正で72%減った。特にホビーブリーダーが大幅に減った
▽(商業ブリーダーの登録条件が)日本ほど厳しい国はどこにもない
▽犬猫を繁殖させるのに、なかなか許可がおりない。特に農地なんかは絶対に許可がおりない。簡単に施設を増設できない
▽厳しい項目でチェックした犬しか(繁殖用の)母犬になれない
▽ヨーロッパでは87%の犬をホビーブリーダーが供給している。プロは5%しかいない
などといったことを、協会の独自調査をもとに説明。
そして、「日本では、法律改正がホビーブリーダーをほとんど、駆逐したというと怒られるかもしれませんが、市場から撤退するようにしてしまった。結果として、ヨーロッパと全く逆の状況が作り出されてしまった」、「供給側の問題は、法律とその解釈が唯一最大の問題」、「日本は世界レベルに比べると、犬も猫も飼育率が低い。そういうこともありまして、我々のほうとしては供給側の問題をいま一生懸命解決しようとしております」などと主張した。
会見の最後には質疑応答の時間が設けられ、私も質問の機会を得た。以下が、その際のやりとりをまとめたものだ。なお、( )内の文言は、読者にわかりやすいよう、私が補った。
私(以下、太田):(犬の推計飼育頭数が)相対的に減ってはいるわけですけれども、そもそも絶対的に見てこの(飼育頭数の)水準というのがどういうものであるというふうに理解されているのか。つまり石山会長が配布されている、この資料の26ページを見ますと、1987年には686万頭だった犬の飼育頭数が2014年に1030万頭になっていて、日本(国内の飼育頭数)は急増しています(左の写真参照)。この間、バブル経済などの要因で過剰な消費が行われた時期もありますし、犬についていえば大型犬ブーム、チワワブームとあったわけで、見方によっては適正な飼育頭数に収斂して行っているプロセスではないかというふうにも見受けられるんですが、この絶対的なこの(飼育頭数の)水準について、どういうふうにご見解としてあるのか、まずお聞きしたいと思います。
石山恒会長(以下、石山):何が適当な数字かというのは僕が決めるんではなくてですね、国民の方が決めることだろうと私は思いますけど。ですからペットフード協会が何が一番正しいということをですね、我々が答えられないというのが正しいご回答になるというふうに思います。
太田:わかりました。1987年から2014年にかけて急増している、これはどのように分析されていらっしゃるんですか。
石山:80何年ですか?
太田:石山会長の配布資料の26ページのほうに、1987年の飼育頭数が686万頭で、2014年が1030万頭とあるんですが。
石山:いや、これは、もう需要の関数っていろいろあってですね、一つで答えられない。例えば一戸建てが増えたりですね、あるいは子どもがいる家庭が増えたり、あるいは世帯が増えたり、まあいろんな関数が、要素があってですね、一つで需要の関数ってくくれないと思いますけど。ですから、それはそれでまた研究をしてみないとわからないと思いますけれども、一つ、サプライのほうはですね、明らかにこれが原因だということがわかったんですが、まあ需要のほうはですね、需要を作り上げる変数というのはものすごくあってですね、個人個人によって違うので、一つの変数で世の中の社会現象を答えるというのは、極めて難しいと。社会学でもですね、相関係数が0コンマ6だとかと言ったら、とんでもない素晴らしいデータなので、なかなか難しいと私は思いますけれども。
太田:つまりは、今回(の石山氏によるプレゼンテーションでは、犬の飼育頭数)減少の理由が、原因が判明したとおっしゃって、ここに「ホビーブリーダーが大幅に減った」ということが書かれていますが、必ずしもこれだけがすべての理由ではないという理解で大丈夫でしょうか。
石山:いや、あとは、これ以外にはですね、やっぱり需要というのは値段の関数でもあると思うので、値段が3倍になればですね、一般的にはですね、その需要曲線の価格弾性値によるんでしょうけれども、需要が減るというのは一般的な話で、価格が上がったから需要が増えたというのは、なかなか無い現象じゃないかと私は思います。
太田:価格上昇要因があったと。その上でちょっとお聞きしたいんですが、ここに「ホビーブリーダーが大幅に減った」ということが書かれておりまして、たぶんホビーであるかプロであるかということは、このまさにQA(動物愛護論研究会編著『改正動物愛護管理法Q&A』)の中に出てくる営利性に関わってくると思うんですけれども、つまり趣味でやっていれば、まあ営利性がなくてもいいわけであって、プロであるかどうかという話が重要になってくると思うんですが、過日ですね、超党派議連(2017年5月22日に開催された「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」動愛法改正プロジェクトチームの会合)の中で、JKCさん(一般社団法人「ジャパンケネルクラブ」)のほうがご説明されていたのが、確かに頭数ごとの統計は取っているんだけれども、その人たちがホビーであるか、プロであるかということは、まず定義としてしていないと。定義としてしていないということで、このデータというのは「ホビーブリーダーが大幅に減った」というデータではなくて、「10頭以下の繁殖をする繁殖屋さんが減った」というデータであるというふうにお聞きしたんですが、石山会長はここにホビーブリーダーと書かれていらっしゃるのは、何かジャパンケンネルクラブさんのほうから特段のデータ等をもらって書かれていらっしゃるんでしょうか。
石山:いや、特段、JKCのデータをもらったりして、書いたわけではなくてですね、2015年の12月に出された欧州議会のリポートでもですね、彼らはこういうふうに定義しているんですね。「繁殖によって生活をしている人たちはプロ」と、それで「生活にほとんど関係なく犬を育てている人たちをホビー」と、「その中間形」というのと分けておりまして、ホビーブリーダーというのは87%、プロのブリーダー、それで生計を立てている人が5%、残りがですね、まあ正業も持ちながらも繁殖によってある程度生活の収入を得ていると、そういう定義で。まあ10頭ではですね、生活はまずできないので、高い犬を繁殖している人でも60頭以上繁殖しない限りですね、生活は成り立たないということで、10頭ぐらいの人は当然私はホビーだと思っております。
司会者:すみません、あと一つだけにしてください。もう時間がちょっと迫っていまして。
太田:わかりました。では、最後ですけれども、先程の質問にも関連するんですが、「日本の法律改正がホビーブリーダーを市場から駆逐した」というふうに石山会長は(プレゼンテーションの中で)おっしゃったわけですが、前回、2012年の動物愛護法改正の際にはですね、越村(義雄)会長(当時)のもとだったと思うんですけれども、動物取扱業の規制強化に対してですね、ペットフード協会さんとして反対という声明を出され、また政治家、行政等に働きかけをされたかと思うんですが(上の写真参照)、今回、来年(2018年)、動物愛護法改正が予定されていますけれども、ペットフード協会さんとしては、今回も規制強化に反対されるのか、または先程来のお話を聞いていると、むしろ規制緩和のほうに働きかけをしていくのか、ということと、あと関連して、先程(のプレゼンテーションの中で)農地法に言及をされていたかと思うんですが、農地法等の解釈についての働きかけもされるのか(中略)以上の点についてお答えください。
石山:太田さん、いろいろご質問、ありがとうございます。しかしながら今、太田さんが質問されたことはですね、何かペットフード協会の範疇を超えた質問ではないかと私は思うので。
太田:いやいや、ペットフード協会として、まさに来年(2018年)法改正が迫ってくる中で、業界団体としてどのような活動をされていくのかという話で、ペットフード協会としてのご認識をおうかがいしているんですが。
石山:我々はですね、動物福祉向上のためにいろんなガイドラインを作ったりですね、ガイドラインを実際に実施する上での手順書を作ったりですね、それから最終的にはですね、捨て犬、捨て猫というのは飼い主の問題でありますので、最終的には僕ら、やっぱり一般の人のマナー、あるいは教育というのが必要だと思いますけれども。法が云々というよりもですね、我々が正しいことを社会に対して訴えて行きたいと、こういうふうに思っております。
太田:質問にお答えいただけていないので、もう一度重ねて申し上げますけども、2012年の法改正の段階ではペットフード協会さんは動物取扱業者に対する規制の強化に対して反対をするということで働きかけをされましたが、来年度(2018年度)に予定されている動物愛護法改正については同様の姿勢で臨まれるのでしょうか。
石山:規制はしてもいいとは思うんですけれども、世の中にはですね、あまり急激にやるとですね、システムがすべてじゃないので、やはり緩和する、あるいは移行期間というのは僕は必要だろうと思うんです。先程ちょっと説明させていただきましたけれども、イギリスでは1822年、ドイツでは1833年に動物の法律ができてですね、日本よりも150年早く、やっと1900年代の終わりごろにですね、規制が入ったということで、しかもその規制もですね、日本よりも相当ゆるいということを見合わすとですね、やはり急激にやるとまず問題が起こるのと、このままで行きますと、私は世の中から犬とか猫、まあ猫は供給があまり法律によって制限を受けないということで、問題は犬よりも後から来るとは思いますけど、動物愛護法が標榜する、「動物との共生社会を目指す」と書いてありますけれども、そういうことが本当にできなくなって、先進国で犬とか猫の飼育頭数及び世帯数が最低になるのではないかというふうに思います。
司会者:すみません、お時間がこれ以上できませんので、こちらで記者発表会、終了させていただきます。お時間になりましたので、終わらせていただきます。どうもありがとうございました。よろしくお願いいたします。
長くなったが、ペット関連の業界団体の姿勢や考え方がよくあらわれている記者会見、質疑応答だったと思うので、前回に続いてこのような形で紹介させていただいた。
今年は5年に1度の動物愛護法の見直し年にあたる。超党派の「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」を中心に、ブリーダー(繁殖業者)やペットショップ(生体の流通・小売業者)に対する規制強化に向けた議論が進んでいる一方で、ペット関連の業界団体や自民党の一部議員らはこうした動きに強く反対している。法改正を巡る本格的な「攻防」は秋の臨時国会を舞台に行われることになりそうだが、その行方を注視していく必要がありそうだ。