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運動部の練習制限は何をもたらしたか。米カリフォルニア州の高校コミッショナーに聞く。

谷口輝世子スポーツライター
撮影 谷口輝世子撮影

 

 日本では、スポーツ庁が「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を策定した。

 活動時間の目安は次のようになっている。

 学期中は、週当たり2日以上の休養日を設ける。平日に1日、週末に1日。1日の活動時間は、長くとも平日では2時間程度、学校の休業日は3時間程度。

 これは中学生を対象にしたものだが、高校の運動部活動についても、このガイドラインを原則として適用するよう求めている。

 日本とスタイルはやや異なるが、米国も学校運動部の盛んな国で、中学校よりも、高校のほうが種目数、参加者数が多い。さらにカリフォルニア州は最もスポーツが盛んな州のひとつ。そのカリフォルニア州の高校運動部を管轄するCIF(California Interscholastic Federation)は、2014年から高校運動部の練習時間制限規則を導入した。

 CIFの規則は、9年生(中3)から12年生(高3)までを対象にしたもの。週の活動時間を18時間までと定めている。1日最大4時間まで。いずれも長期休暇や学校の授業のない日にも適用される。

 日本の中学生向けガイドラインは週11時間程度であり、それに比べるとかなりの活動時間が与えられている。米国では練習が週16時間を超えると、子どもの怪我が増えるという研究結果があり、18時間は長過ぎるかもしれない。ただし、週18時間には、公式戦、練習試合から座学ミーティング、ウエイトトレーニングまでが含まれることを強調している。(公式戦は1時間で終了するものから、3時間以上かかるものもあるが、1試合を3時間と数える)

 導入にあたって、混乱や反対意見はあったのだろうか。導入後はどのように変わったのか。CIFサンディエゴ地区のジェリー・シュニープコミッショナーに話を聞いた。

撮影 谷口輝世子
撮影 谷口輝世子

 -週18時間までの規則は、どのように決められたのですか。

 「子どもたちにとって運動部活動の量が多過ぎるという懸念が出ていました。この規則は、子どもたちが、子どもたちでいられるようにということを目的としています」

 ースポーツ科学を根拠に決められたのでしょうか。

 「スポーツ科学というよりも、どちらかといえば、何が生徒のウェル・ビーイング、心身の健康と幸福であるのかを考えてのことです。子どもたちが、子どもでいられるような時間を与え、学習する時間、他のことをする時間があるようにと考えました」

 -日曜日は活動は全くしないのですね。この規則が設けられる以前から、そうでしょうか。

 「日曜日はどのような活動もしません。この40年間、ずっとそうです」

 ー導入にあたり、コーチや監督から反対はありましたか。

 「十分な練習時間がないという意見はありました。特にシーズンのはじめですね。アメリカンフットボールでは十分にトレーニングし、安全にプレーする方法を学ばなければならないという意見がありました。また、その一方で、数は少ないですが、週に2回だけ練習している学校もあります。そういう学校の運動部にとっては、この規則が逆にプレッシャーになると聞きました。しかし、ほとんどのコーチからは、十分な活動時間であるとして、同意を得られました。(導入にあたって)それほど深刻な問題はありませんでした」

 -規則違反に対しては、練習時間を減らすというペナルティーを課すのですね。どのように違反を見つけているのですか。

 「私たちは自己モニタリングの組織です。学校も自己モニタリングしなければいけません。学校の(全運動部を管理する)アスレチックディレクターが、例えば゛野球部のコーチが違反していた“と報告をしてくることもありますし、保護者からの報告もあります。違反があったときには、残り期間と次の年度の練習計画や試合の予定を提出してもらいます。それで、自己モニターしてもらいます。違反になるときは、計画なしで練習をしているケースが多いのです。練習が良くなかったから、もっとやろうとして、長くなってしまうのです」

 -活動時間の規則違反はどのくらいですか。

 「少ないですよ。全ての種目を通じて、年間に3件ほどですね」

 

 -指導者の間で、効率のよい練習についての情報交換などはありますか。

 「もちろん、そのようなことはしています。効率の良い練習をすれば、多くの子どもは2時間ほどで疲れますし、子どもの持てる力を引き出せると思います」

 -米国は学校外でスポーツ活動をしている子どもが多いです。この規則が保護者の意識を変えるのにも役立っていると思いますか。

 「そのように思っています。私たちの社会は、子どもたちもスケジュールに縛られています。親が遊びの時間を決め、親が放課後の活動を決めています。子どもたちが自分のやりたいことをできる時間が必要です」

 ーエリートアスリートの子どもを持つ保護者は、この練習時間に不満があるのではないでしょうか。

 「このルールの目的を説明して、理解してもらうよう努めます。何が子どもの健康と幸福なのかを説明します。多くの保護者からは苦情はありません。我が子がエリートアスリートだと考えている保護者の一部は、不満があり、我々のやり方は間違っていると考えているでしょう。しかし、それは我々にとっては問題ではありません。近年、子どもたちのケガをたくさん見かけるようになっています。子どもたちは重圧を感じながら複数のスポーツ活動に参加しています。学校でも運動部でも子どもは重圧を感じているのです」

 ー子どもたちから、もっと練習時間が必要だという苦情はありませんか。

 「まだ、一度もありませんよ」

 

 活動時間が週18時間あるからこそ、規則違反が少ないのかもしれない。しかし、筆者にとっては、参考になるキーワードがいくつかあった。

 

 練習を計画することで、行き当たりばったりや感情的になって、練習を長引かせるのを防ぐことができる。決められた時間内に、子どもたちが持っている力を出し切れるような練習メニューを考える。そのような練習について学ぶ機会が提供され、情報交換できる環境があると良いのではないか。

 不満を持つ一部の保護者には、丁寧に説明をするが、その不満の声に規則がなし崩しにならないよう毅然とした姿勢を貫いている。

 導入から4年目、カリフォルニア州サンディエゴの高校生からは苦情はまだないという。コミッショナーが微笑みながら話した最後の言葉が全てを表しているのではないか、と感じた。

 

 

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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