未来の食卓はどう変わる?「食政策を市民が変えるには」北欧式・自分の声で社会を変えるためのアドバイス
ノルウェーで開催されたオスロ・ベジタルフェスティバルでは、政治家や食品業界で働く人々が集まり、国内の課題や食生活のこれからについて意見交換がされていた。
驚いたのは、ほぼ全ての対話の時間で、
- 「では、市民は変化を起こすにはどうしたらいいのか」
- 「どうしたら自治体や国を動かすことができるのか」
- 「政治家に声を届けるにはどうしたらいいのか」
「影響力を行使する方法」を討論者たちが話していたことだ。
日本に暮らしていた私が北欧社会の特長を挙げるとすれば、「自分の影響力の使い方」がさまざまな場所で繰り返し共有されていることだろう。
その影響力とは「世論を動かし、政治を変え、社会の課題を解決し、変化を促すレベルでの影響力」のことだ。
今から紹介するセリフはフェス参加者の言葉だが、他の場所でもよく聞くアドバイスだ。
私は日本で大学を卒業するまでの間、「政治家に連絡するといい」「新聞に寄稿してみるといい」という助言は受けた記憶がない。このようなアドバイスを繰り返してくれる社会だと、市民意識がだいぶ変わりそうだ。
店に直接フィードバックするのが近道
まず、「未来の食生活」というテーマではこのような意見が壇上で挙がった。
- 私たちは地球を救わなければいけない
- 食品の気候表示など政府はもっと責任をもつべき
- プラントベースのプロテインをもっと国内生産するべき
- 肉がなくなることはないけれど、プラントベースの食品はさらに増える市場としてさらに今後拡大するのは発酵食品
- 肉を売る側として肉は残ってほしいが、生産量は今後激減する
- 若い世代に大きな可能性を見出している。高齢世代よりも新しいテクノロジーや室内栽培される植物に肯定的
提案された影響力の発揮の仕方
- お店で店員に直接こう言ってください。「どうしてこういう商品はないのですか?」。商品を仕入れる担当者にダイレクトに影響が及ぶ方法です
公共行事のメニューには市民は意見を言う権利がある
別のテーマでは、オスロ市議会の環境政策を率いるシーリン・スターヴ環境局長(緑の環境党)はこう述べていた。
- 「自治体の行事に参加した時、もし食事に満足できなかったら直接意見を言ってください。変化は起きます」
- 「自分の声を届けてください。SNSで拡散、政治家にメール、自治体に連絡、主催者に意見する」
- 「課題が自治体レベルなら自治体、国レベルなら国へ。だれの課題か、責任者を知りましょう」
- 「オスロ市も中学・高校で野菜中心の給食を出すと決めてから、成功と失敗を繰り返して取り組んでいます。いいこともたくさん置きますが、時には困難なことも起こります」
- 「新しい変化は怖いものです。理解や知識が不足して反対が来ることもあります。それでも変化は着実に起きます」
魚のストレスを減らすために
ノルウェーの養殖サーモン業界が魚の福祉に及ぼす悪影響と課題についても紹介されていた。国の産業として良い収入源にはなっているが、魚に与えているストレスが大きいことなどをプレゼンした。
現在のノルウェーの養殖サーモン業界では、魚の皮などに寄生する「シラミ」を除去するようにと国の規制がある。よって業界は必死にシラミを除去しようとするのだが、魚にとって別のストレス問題が発生している。動物愛護団体ディーレヴァーンアリアンセンが政治家に求めている対策はこうだ。
掃除魚の全廃
養殖サーモンのシラミを食べる魚がいて、この種類は掃除魚と呼ばれている。シラミ対策として投入されているが、死ぬまでに大量のストレスを感じる環境下におかれる。生活環境として適さないサーモンの養殖網に空腹状態で投げ込まれ、強制的にシラミを食べさせられているので虐待
お湯によるシラミ除去
シラミ除去のために高温で養殖サーモンを洗う。シラミは殺菌されるが、サーモンも死ぬことがある。人間がいつもより2倍熱い温度でシャワーを浴びせられているのと同じ状況。免疫機能も壊れ、サーモンはパニック状態になる
「じゃあ、どうしたらいいのか?」。戸惑う市民に団体はこう提案した。
- プラントベースの魚肉のスタートアップなど、他の産業を応援・支援する
- メディアに寄稿する、抗議活動をするなど、その課題を注目させる
- SNSで拡散
- 政治家に連絡する。返事がなくとも既読されていることが多い
- 社会市民としてのあなたの重要な1票・声を自覚して使う
食フェスで共有される「食政策の変え方」
ノルウェーに住んでいると、とにかく色々な場所で「あなたにはあなたが思っている以上に社会を変える力がある」というメッセージが発信されている。
このような言葉をずっと聞いて育っていたら、日本社会で育つのとは異なるマインドセットになるだろうなと思った。
食の祭典でこのような知識の共有がされていることも北欧らしいし、話を聞いた後に小さな行動を起こした人もいるかもしれない。
この国の人々の政治意識がどうして高いのか、そのヒントが見える風景だった。