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その夜おやつ、ちょっと待った! 寝る前の不摂生は、翌日の仕事の効率を下げる?最新研究の結果

市川衛医療の「翻訳家」
寝る前のスナックやお菓子は、翌日の仕事の効率を下げる?(写真:アフロ)

寝る前の至福のダラダラタイム、動画を見ながらふと「小腹がすいた…」。脳裏に浮かぶのは、戸棚の中のスナックやお菓子。手に取るか、どうか?

そんな迷いを感じた経験のある全ての人に、必読の研究結果が発表されました(1)。

発表したのは、米ノースカロライナ州立大学の心理学部のSeonghee Cho博士らを中心とした研究チームです。調べたのは「夜の不摂生が、次の日の仕事のパフォーマンスに影響を与えるか、どうか」

企業に勤務する97人に、10日間にわたって、前夜の食事内容と、体調や仕事のパフォーマンスに関して聞きました。そして「夕食を食べ過ぎた」や「寝る前にジャンクフードを食べた」と回答した場合などを「不健康な食事をした日」と判定しました。

夜に不健康な食事をすると、次の日の仕事の効率が下がる?

その結果、夜に「不健康な食事をした」次の日の朝、頭痛や腹痛などの不調を訴えるケースが多いことが分かりました。

この研究がユニークなのは、体調だけでなく、「仕事のパフォーマンスへの影響」を調査したことです。とくに「援助行動」と「離脱行動」という2つの行動の多さについて調べました。

「援助行動」とは、例えば同僚が困っているのを見かけたり、スラック上でヘルプを求めていたりする時に、自分の時間を割いて手助けしてあげようとする行動です。

直接的に自分の仕事上の評価に繋がらないかもしれませんが、チームワークを向上させたり、組織全体のパフォーマンスを高めたりするうえで役立つ行動とされています。

「離脱行動」とは、簡単にいえば仕事を怠けてしまうことです。通常より早い時間に切り上げたり、ランチの時間を通常より長くとったり、居眠りしてしまったり。個人のパフォーマンスは下がりますし、職場全体にとっても有難い行動とは言えませんね。

研究の結果、夜に「不健康な食事」を行った人の場合、次の日の「援助行動」が減り、「離脱行動」が増える傾向があることが分かりました。しかもその影響は午後にまで続いていました。

夜遅くの食事は、次の日の「離脱行動」を増やすかも
夜遅くの食事は、次の日の「離脱行動」を増やすかも写真:IngramPublishing/イメージマート

「罪悪感」が仕事のパフォーマンスに影響を与える?

なぜ、不健康な食事が仕事のパフォーマンスに影響を与えるのか、研究チームは論文の考察のなかで、複数の可能性に触れています。

まず、食べ過ぎによる翌朝の頭痛や腹痛などの体調悪化が直接的に影響している可能性。夜の食べ過ぎは消化器官に負荷をかけます。そのことが、次の日の体調に影響を与え、仕事のパフォーマンスを落としていたのかもしれません。

そしてもう一つの可能性として挙げているのが、精神状態の影響。不健康な食事をした次の朝には、罪悪感などマイナスの感情を覚える人が多いことが分かりました。

筆者自身にも経験がありますが、夜に飲みすぎ・食べ過ぎをしてしまった次の朝、「また、やってしまった…」と自己嫌悪に陥ることってありますよね。そうした精神的な落ち込みが、知らず知らずのうちに援助行動の低下や、離脱行動の増加につながっている可能性があるということです。

こう書いてくると、「全部、当たり前のことじゃないか」という気がしてきますよね。でも何となく感じてきたことでも、研究結果として示されると説得感があります。筆者は個人的な印象として、「次の日の仕事が詰まっているのに、寝る前についつい脳裏にスナックやお菓子が浮かんだとき、この研究を思い出してみよう」と感じました。

なお言うまでもありませんが、余りにも仕事のストレスが強くて「お菓子を食べなければやってられない!」といった場合は、意志の弱さではなく職場環境のほうに問題の根源があると考えられます。この記事を読んで、自責感を覚えられませんよう切にお願い致します。

なお最近では健康経営の文脈から、従業員の食生活について企業側が取り組みを行うケースも増えています。この研究は、そうした動きの後押しにつながるかもしれません。研究を行ったCho博士は、ノースカロライナ州立大学のプレスリリース(2)の中で次のように述べています。

「睡眠や運動などが仕事に影響することは比較的よく知られています。しかし、不健康な食事が短期的に仕事のパフォーマンスに与える影響については、これまで調べられてきませんでした」

「企業は、従業員の食生活のニーズや好みにもっと注意を払ったほうがいいかもしれません。例えば社員食堂のメニューに気を配ったりすることによって、健康的な食生活に貢献することができます。それによって、従業員の心身の健康だけでなく、仕事上のパフォーマンスをも高められるかもしれないのです。」

(1)Does a healthy lifestyle matter? A daily diary study of unhealthy eating at home and behavioral outcomes at work.  Cho Seonghee, Kim Sooyeol 

Journal of Applied Psychology, Mar 25 , 2021

(2)Study Finds Those Late-Night Snacks May Be Hurting You at Work

2021年4月7日 ノースカロライナ大学プレスリリース

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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