しゃっくりを止める最新の治療法とは? これまでの民間療法は効くのか
しゃっくりに特効薬はあるのか
68年もの間、しゃっくりが続いた人をご存知でしょうか。チャールズ・オズボーンというアメリカ人男性は、96歳になるまでの間しゃっくりが続いたことでギネス記録に載っています。驚くべきことに、彼はその生涯で結婚をして子供をもうけています。一度も途切れることなく68年間続いたのか定かではありません。
しゃっくりのことを医学用語で「吃逆(きつぎゃく)」と呼びます。小難しく書くと、「横隔膜が自分の意志とは関係なく反射性に収縮を繰り返す現象」のことを指します。難治性のしゃっくりで紹介される診療科は、呼吸器内科です。しゃっくりを止めるために様々な薬剤が使われます。
「吃逆」に対する治療が保険診療上認められているのは、クロルプロマジン(商品名コントミン)という薬剤だけなのですが、これはもともとしゃっくりを止めるために開発されたわけではありませんし、個人的にもそこまで劇的に効いた記憶がないです。その他、制吐剤、制酸剤、抗痙攣薬、筋弛緩薬、漢方薬、柿のヘタ(柿蒂湯[していとう])などいろいろためされますが、「すごく効く!」と証明された薬剤はないのが現状です(1,2)。
実際処方している立場ですが、自然にしゃっくりがおさまったのか、薬が効いたのか、よく分からないことが多いのも事実です。
開発された最新の「しゃっくり治療ツール」
2021年、JAMA Network Openという医学誌に興味深い報告がありました(3)。「FISST(forced inspiratory suction and swallow tool)」いう、大きめのストローのようなチューブが、しゃっくり治療ツールになるというのです(図)。
水に浸してこれを吸えば、なんと2~3吸引でしゃっくりが止まるというのです。「いくらなんでも誇大広告ちゃいますか」と思ったのですが、論文を見る限りそうではなさそうです。私たちが使っている通常のストローとは違い、吸い込む力はかなり必要になるため、水を飲み込むのは結構大変です。
この研究では、FISSTを使用した249人の回答が検証されました。登録者の平均年齢は31歳で、参加者のうち69.5%は、少なくとも月に1回しゃっくりを報告するような集団です。
解析の結果、FISSTは92%でしゃっくりを止めることに成功しました。ほぼ全員に効果があったということです。効果については5点満点中平均4.58点を獲得しましたので、このツールが素晴らしいと判断した人が多かったことを示しています。
この吸い込む作業によって、横隔神経と迷走神経の両方が刺激され、しゃっくりが止まるというメカニズムになっています。とても期待できる治療ツールなのですが、残念ながらまだ日本では正式に市販されていません。
息こらえも有効
コップの上に箸を置いて飲んだり、ワっと驚かすなどの民間療法は、基本的に科学的根拠がありません。ただ、飲水は息を止めて迷走神経を刺激し冷水で鼻咽頭が刺激されることから、理にかなった方法と思われます(表)(2,4)。
個人的には、しゃっくりが出た瞬間、できるだけすみやかに息をこらえることが効果的だと思っています(迷走神経刺激に加えて、呼吸による肺の動きも制限されるため)。息こらえというのは、息の出し入れを止めた状態で、強く胸・腹に力を入れることを指します。
2・3発目のヒックが出てしまうと、もはや息こらえだけではおさまりません。ファースト・ヒックの時点で息こらえを開始することが肝要です。FISSTのようなデバイスが手元にあれば鬼に金棒です。
都市伝説的な「コップの飲む側と反対側の縁に口をつけて冷水を飲む」という手法(写真)は、前かがみになり・息を止めて・冷水を飲むという効果的とされる上記の行為をすべて含んでいることから、案外理にかなった民間療法なのかもしれません。もちろん、水もこぼれますし、誤嚥のリスクになりかねない姿勢ですから、医学的に諸手を挙げてすすめられるわけではありません。
ただのしゃっくりではないことも
長引くしゃっくりを相談されたとき、医師はただのしゃっくり以外にも、横隔膜近くに腫瘍がないか、胃の病気がないか、神経疾患はないか、などいろいろな原因を想起しなければいけません。
いつもより長い期間しゃっくりが続くようなら、一度呼吸器科や脳神経内科を受診するようお願いします。
(参考)
(1) 竹本毅. 綜合臨牀. 2009;58:1618-20.
(2) Hiccups. UpToDate.(2021年12月14日閲覧)(URL:https://www.uptodate.com/contents/hiccups)
(3) Alvarez J, et al. JAMA Network Open. 2021;4(6):e2113933.
(4) Petroianu GA. J Hist Neurosci. 2015;24(2):123-36.