上海市でごみ出し条例が施行、ごみの分類に頭を悩ませる中国人たち
中国上海市で7月1日、「上海市生活ごみ管理条例」が施行され、上海市民の間に戸惑いが広がっている。
6月末、上海市を訪れたところ、出会ったほとんどすべての中国人から「ごみ処理問題」についてのグチを聞かされた。
「ごみが出ることを考えると、ちょっと買うものを考えちゃうわ」
「まったく面倒なことになったものだよ。突然やる、といわれたって、やり方がよくわからないんだよ!」
「ごみをチェックする係員がごみ置き場に常にいて監視しているんだよ!信じられる?」
中国では2018年から全国の主要46都市でごみの分類収集を試験的に開始していたが、条例が施行されたのは上海市が初めてだ。
掲示板やSNSでごみ出しの啓蒙活動
上海市では施行を前に、6月から本格的にごみの分類を開始し、集合住宅の掲示板や廊下、公共機関、企業などで、ごみの分類に関する掲示を行ったり、SNSでの情報提供、マニュアルの動画配信など啓蒙活動などを行ってきたが、その分類の細かさに、まだ市民が慣れていないので、動揺が広がっているのだ。
長年ごみ出しの経験を積んできた日本人から見れば、とくに難しい分類というわけではないのだが、これまで日常的にごみの分類をするという生活習慣が身についていない上海人にとって、しばらくの間「ごみ問題」は最重要課題のひとつになりそうだ。
上海市のごみ分類表を見てみよう。以下の図にあるように、4つに分けられている。
1、可回収物(資源・リサイクルできるごみ)、2、有害ごみ、3、湿ったごみ(生ごみ)、4、乾いたごみ(生ごみ以外の燃えるごみ)
日本人にはわざわざ内容を説明する必要はないが、人生で、ごみの分類をほとんど初めて行う中国人には説明が必要なので、ごみの具体的な内容(たとえば、新聞紙は1、電池は2、果物の皮は3など)が丁寧にイラストつきで紹介されている。さらに、「捨てる際には箱をつぶすこと、中をきちんと洗うこと、スプレー缶は中身を空にすること」などの「ごみ捨ての際のマナー」まで、こと細かく解説されている。
さらにおもしろいことに、ごみの分類のわかりやすい説明として、こんな表現も出回っている。
1、 売れて、豚が買えるのが資源ごみ
2、 豚が食べて死ぬものは有害ごみ
3、 豚が食べられるものは湿ったごみ(生ごみ)
4、 豚が食べられないものは乾いたごみ(生ごみ以外のごみ)
これを見ると、初めての人でも実践できそうに見えるが、人民網(中国の代表的なメディア)などによると、中国でも流行しているタピオカミルクティーのタピオカは生ごみ、カップはリサイクルごみに分け、しかも、カップは洗ってから捨てることとなっており、市民の間からは「タピオカミルクティーひとつ飲んだだけで、そんなに面倒なことになるのか!」という不満やグチが飛び出している。
いきなり日本よりも厳しいごみ出しのルール
日本では生ごみと一般ごみを明確に分けていないところも多く、日本に住んだことのある上海人は「これじゃあ、日本よりももっと厳しいじゃないか。いきなり始めたのに、ヨーグルトの容器をきれいに洗ってから捨てるなど、急には無理。ハードルが高すぎるんだよ」という不満の声も出ている。
とくに彼らが嫌がっているのが、集合住宅のごみ置き場にいる係員だ。住宅の居民委員会から派遣されたボランティアの係員だが、上海の友人によると「ごみの袋をあけて中身を一つひとつチェックするんです。生活のすべてが見透かされているようで、本当に嫌になりますよ」という。
こうしたごみ捨て作業に嫌気がさしてか、すぐにごみ捨て代行サービス業者も現れた。1回のごみ捨てに対して1元~数元(1元=約16円)で、本人に代わってごみの分類を行ってくれるというものだが、「ごみ袋の中身を見られるのが嫌だ」という理由で躊躇する人も。また、「ごみ捨てはお手伝いさんがやるので自分には関係ない」という人もいるが、外出先では避けて通れないだろう。
上海市政府は、7月から、ホテルや飲食店に使い捨て用品(割りばしや歯ブラシなど)の提供を停止するよう要請したため、外国人旅行者や出張者にとっても、今後、不便なことが起きそうだ。
もし、ごみ捨てルールを守らないと、個人の場合、最大で200元(約3200円)、企業の場合、最大で5万元(約80万円)の罰金が科せられる。上海市では年々ごみの量が増え続けており、環境保護の観点からも、この条例の施行は必至だ。
上海の街が今までよりもきれいになるという点でも期待が持てるが、こうした条例が中国全土で施行され、中国人がごみ出しを徹底できるまでには、まだ膨大な時間がかかる。上海の条例施行は、その第一歩といえそうだ。