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2021年なぜ校則議論は大きく進展したのか?そして来年の課題は?

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:アフロ)

2021年、大きく議論が進んだテーマの一つが、「校則議論」だ。

連日マスメディアで報道され、各学校現場、政府・地方自治体、国会など、様々な動きが展開された。

2021年の主な出来事

1月 日本若者協議会「学校内民主主義」に関する提言を文部科学省に提出(校則改正プロセス明文化、学校運営への生徒参加)

3月 熊本市教育委員会 学校管理規則の改正、ガイドライン策定

3月 斉藤ひでみ現職教員ら 制服を着ない自由について文部科学省に署名提出

5月 岐阜県教育委員会 校則改定プロセス明文化を通知

6月 文部科学省 理不尽な校則を見直すよう通知発出

10月 日本若者協議会「校則見直しガイドライン」発表

11月 カタリバ ルールメイキングプロジェクト「みんなのルールメイキング宣言」発表

なぜ2021年は校則議論が大きく進展したのか?

12月20日には、校則議論に大きく関わってきた内田良・名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授や、斉藤ひでみ・岐阜県高等学校教諭、現役の生徒会長をゲストに、2021年の校則議論を振り返りながら、来年を展望するイベントを開催した。

その中で、筆者がプレゼンした内容をベースに、なぜ2021年は校則議論が大きく進展したのか、考えていきたい。

「問題発見」から具体的な見直しのフェーズへ入った2021年

2017年の大阪黒染め強要裁判を大きなきっかけに、「ブラック校則」と呼ばれる理不尽な校則が注目されるようになった校則問題。

民間団体や弁護士などによる実態調査が進められ、2019年、2020年頃から徐々に先進的な学校や教育委員会で具体的な見直し方法の検討や実施が行われてきた。

そして2021年に、多くの学校で校則見直しの議論が進み、様々な「成功事例」も報道されるようになってきている。

NHKが調査したところ、2021年8月までに都道府県の4割が公立高校の校則の見直しを進めたという。

NHK「都道府県の4割が公立高校の校則の見直しを進める」
NHK「都道府県の4割が公立高校の校則の見直しを進める」

その結果、教育委員会として、

▼校則を「見直した」と回答したのは岐阜県や佐賀県など14、

▼「見直す予定」が5と、

都道府県の4割を占めました。

このほかにも、

▼「学校単位で見直しの動きがある」と答えたところが26と半数を超え、

全国的に見直しに向けた動きが広がっていることがわかりました。

そして、見直しのきっかけとしては、「世論の高まり」が最も多く、次に「文部科学省の通知」が来ているが、文科省による通知も、世論の高まりを受けて動いた背景があることから、世論が動かしてきたと言えよう。

見直しのきっかけを複数回答で聞いたところ、最も多かったのが、▼「世論の高まり」で18、

▼「文部科学省の通知」が13、

▼「生徒や保護者など現場からの要望」が11、

▼「大阪の府立高校の頭髪指導をめぐる裁判」が7、

などとなりました。

引用元:NHK「都道府県の4割が公立高校の校則の見直しを進める」

社会運動論から見た「校則議論」

では、なぜ世論喚起に成功したのか。

2021年に起きた特徴を、社会運動の観点から分析してみたい(他の事例にも活用しやすいように、なるべく簡易的に一般化している)。

今年起きた社会運動の特徴としては、大きく3つが挙げられる。

1.声を上げたアクターの多様さ

2.語られる文脈の多様さ

3.頻繁なイベント開催による世論喚起

1.声を上げたアクターの多様さ

まず一つ目は「声を上げたアクターの多様さ」。

具体的には、児童生徒、保護者、教師、学者、弁護士、市民団体、政治家といったほぼ全てのステークホルダーが声を上げた1年であった。

2019年頃までは、市民団体や弁護士が中心となって声を上げるケースが多かったのに対して、2021年は当事者である児童生徒教師が声を上げ、「生徒VS学校」という対立関係にならずに、全方面から課題解決に向けて議論が行われたのは、校則議論の前進に貢献したのではないかと思える。

日本若者協議会では、2021年1月に、2020年8月から議論し、800名近くの学生へのアンケート結果も踏まえて作成した「学校内民主主義」に関する提言を文部科学省に手交し、記者会見も行ったが、現役の高校生が顔出しで記者会見を行ったのは画期的な取り組みだったのではないだろうか。

文部科学省 鰐淵洋子政務官への提言手交
文部科学省 鰐淵洋子政務官への提言手交

学校内民主主義に関する記者会見
学校内民主主義に関する記者会見

3月に斉藤ひでみ現職教員らが「制服を着ない自由」について文科省に署名を提出した時にも、現役の生徒会長である高校生が出席し、その後も様々な媒体で取り上げられた。

「制服を着ない自由」について文科省に署名を提出
「制服を着ない自由」について文科省に署名を提出

2.語られる文脈の多様さ

二つ目は「語られる文脈の多様さ」。

これまでの議論は、主に「子どもの人権侵害」に焦点が当てられ、もちろん第一義的には子どもの人権をどう守るかが議論されるべきであるが、今年はそれに加え、下記のような文脈でも「校則」が語られ、様々な意味合いを持たせたことが世論喚起、議論促進につながったように思える。

・子どもの人権、自由

・主権者教育(学校内民主主義、若者の政治参加)

・コロナ対策(私服着用)

・多様性(LGBTQ等)

特に今年は、「ブラック校則」のマイナス面をなくすだけでなく、校則議論に生徒が参加することによって、主体性を育む、民主主義の理解につながる、社会参加につながる、といったプラス面が多く語られ、これまで以上に賛同者を集めることに成功した。

3.頻繁なイベント開催による世論喚起(メディアへのネタ提供)

また今年は、毎月何かしらの校則関連のイベントが開催され、12月20日に開催したイベントに登壇した内田良准教授・斉藤ひでみ教諭、日本若者協議会が主催したイベントだけでもこんなにある。

記者会見:

1月「学校内民主主義」提言

3月「制服の自由化」署名

イベント:

内田良・斉藤ひでみ主催

・「理不尽な校則 なぜ変わらないのか」(1/4)

・「#学校ゆるくていいじゃん」(1/11)

・「令和の校則」(1/31)

・「制服は安い?高い?」(2/13)

・「徹底解説!黒染強要訴訟」(2/17)

・「憲法より校則?」(3/28)

日本若者協議会主催

・「校則を変えてきた高校生と考える、これからの学校内のルールメイキング」(5/9)

・「学校の自由は失われつつあるのか?令和時代の学校のあり方を考える」(6/6)

・「校則見直しガイドライン」(7月〜9月、計5回開催)

そのほか、各政党、首長、教育委員会への提言等

このように、年間を通して様々な仕掛けを行った結果、メディアの関心、ひいては、世論の関心も途切れることなく、校則議論を加速させることに成功したと思える。

校則議論における今後の主要な観点

もちろん、まだ具体的な見直しが始まった段階であり、本番はこれからと言っても過言ではない。

今後、どのような観点で議論していくべきか。

その主要な観点は、日本若者協議会が10月に公表した「校則見直しガイドライン」にまとまっている。

目的:「校則は、児童生徒を縛るためではなく、学ぶ権利を含む児童生徒の自由や人権を保障するためにある」

1 校則の内容は、憲法、法律、子どもの権利条約の範囲を逸脱しない

2 校則の見直し・制定は、学校長、教職員、児童生徒、保護者等で構成される校則検討委員会や学校運営協議会等で決定する

3 すべての児童・生徒に「合理的配慮」を行い、少数の声に配慮する

4 校則はホームページに公開する

5 生徒手帳等に、憲法と子どもの権利条約を明記する

まず一つ目が、What、つまり、「校則の範囲・位置付け」をどうするべきかという議論だ。これまでは、「中学生らしさ」「合理的な範囲」といった抽象的な表現が多く、実態としては学校現場ごとに教師によって恣意的に判断されてきた(判例でも「部分社会」が認められてきた)。

「校則見直しガイドライン」では、海外と同様に、校則を、憲法、法律、子どもの権利条約の下に位置づけ、憲法で認められている人権は当然学校内でも認められる、「治外法権」をやめるようにすべきだと主張している。

次に、How、つまり、「どう見直していくか」という議論だ。現状は、「校則を変えるためのルール」がそもそも存在していない学校が非常に多く、これを明確化していく必要がある。

そしてその際は、「子どもの権利」の一般原則である「意見表明権」を確保するために、校則議論に生徒も参加できるようにしなければならない。

さらに、これらを実現するための周辺環境の整備として、校則をホームページに公開し、憲法と子どもの権利条約について学ぶ機会を積極的に作る必要がある。

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが2019年に全国の15歳から80代までの3万人を対象に実施した子どもの権利に関するアンケート調査結果によると、子どもの権利条約に関して、「内容までよく知っている」と回答した大人はたったの2.2%となっている(子どもは8.9%)。

9割以上が子どもの権利をきちんと知らない状況では、自分で権利を行使することも、互いに尊重することも到底できない。

またコロナ禍では、日本では法的根拠が曖昧な状態で、国民や飲食店等に「お願い」を出すケースが度々起こったが、こうした法治主義の欠如(最近では「ゆるふわ立憲主義」と呼ばれることもある)から脱却するために、義務教育課程で法規範を身につけるための環境づくりを進めていく必要もある。

このように、校則議論は、民主主義や憲法の尊重といった「近代国家」として日本を成熟させる取り組みでもある。

2022年の課題

これらの観点から、来年、校則議論で注目したい動きとしては下記が挙げられる。

・2022年3月 文部科学省 生徒指導提要改訂

・各教育委員会のガイドライン策定(年1回は見直すようルーティーン構築)

・各学校における校則見直し

 ・議論の参加者(多様な生徒や教師の参加)

 ・教師の人権・憲法の学び直し(生徒の自由の基準を見直す)

 ・教師の働き方改革につながる事例共有

・法的根拠による全校での実施(日本版タイトルナイン法案=学校内民主主義法案)

2022年3月 文部科学省 生徒指導提要改訂

一つ目の「文部科学省 生徒指導提要改訂」は、教師用の生徒指導に関するガイドブックにあたる「生徒指導提要」(平成22年3月作成)が約10年ぶりに改訂されることになっており、「校則」に関する文言がどのように変わるかが注目される。

中でも、曖昧な表現を減らし、「子どもの人権」を尊重することなどが明確に書かれるか、生徒参加が明確に位置づけられるかが要注目だ。

各教育委員会のガイドライン策定

二つ目の「各教育委員会のガイドライン策定」。

すでに熊本市教育委員会などでは生徒指導に関するガイドラインを策定し、年一回は校則を見直すこと、その際児童生徒の意見も踏まえることなどが謳われているが、こうしたガイドラインを作っている教育委員会はまだ少数であり、全ての教育委員会で作成されるのが望ましい(もしくはスウェーデンなどのように文科省で作成)。

関連記事:「校則の改定プロセス明文化」がなぜ重要なのか?岐阜県教育委員会が明文化を通知(室橋祐貴)

各学校における校則見直し

三つ目は「各学校における校則見直し」。

すでに多くの学校で見直しの議論が進んでいることは紹介した通りだが、その際のポイントとして、「議論の参加者(多様な生徒や教師の参加)」がどうなるかに加え、最終的な変更権限、議論の場づくりの決定権を持っている、校長や教師がきちんと人権・憲法を学び直し、生徒の「自由」の基準を見直す必要がある。

校則見直しの「成功事例」として、着用可能な靴下の色が一色増えた事例などが取り上げられることも珍しくはないが、本来的には服装を強要していることが問題なのであって、生徒の自己決定の範囲を広げていかなければならない。

また校則議論が進まない理由として、教師の多忙さが(教師側から)よく挙げられる。一方、実際に校則見直しを進めた学校の教師によると、校則指導を減らしたことで教師の負担軽減にもつながったという声も少なくない。

そのため、二の足を踏んでいる教師も見直しを進めやすいように、教師の働き方改革につながった事例を共有していくことが重要である。

法的根拠による全校での実施(日本版タイトルナイン法案=学校内民主主義法案)

そして最後が、「法的根拠による全校での実施(日本版タイトルナイン法案=学校内民主主義法案)」である。

「ブラック校則」が蔓延してきた最大の背景が、学校内では「治外法権」になり、「部分社会」が判例によって支持されてきたことにある。

関連記事:「人権無視生む憲法より校則」のままで良いのだろうか?(室橋祐貴)

本来的には子どもの人権を守るために、もっと裁判所が積極的な判断をしていくべきだが、日本ではいまだに「司法消極主義」が根強く、期待することは難しい。

司法消極主義とは:司法府(裁判所)が立法府や行政府の判断を尊重し、違憲性が明白でない限り違憲審査を行わないこと

これを変えていくためには、立法府サイドが、法的に子どもの人権を保護していく必要がある。

そのために今年夏頃から、前衆議院議員の菅野志桜里氏(当時は衆議院議員)と準備してきたのが、学校内民主主義法案である。

衆院法制局も参加したこの法案は、上述の「校則ガイドライン」を法律にしたものと言ってもあまり相違ない。

「学校内でも憲法で認められている基本的人権が当然保障されること」、「学校は民主的な運営を行い、生徒も校則議論に参加すること」、「校則は公表すること」を法的に定めている。

国連子どもの権利委員会が勧告しているように、多くの国で、こうした学校運営への生徒参加は法的に定められている。

110.意思決定過程への着実な子どもの参加が、生徒会や学校理事会の生徒代表により、成長と学校の政策と校則の実施について自由に意見を述べる中で、実現されなければならない。これらの権利は、これを実施する当局や学校側の善意に頼るのでなく、法制化される必要がある

引用元:Convention on the Rights of the Child GENERAL COMMENT No. 12 (2009) The right of the child to be heard

日本では、これまでこうした法的な議論はあまり行われてこなかったが、判例を乗り越えていくためには、立法府サイドの役割は大きく、来年の大きなテーマになることは間違いない。

関連記事:「ブラック校則」を解決しようとしている政党はどこか?「学校政策」の公約比較【衆院選2021】(室橋祐貴)

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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