「おかあさん」ばかりの絵本や育児書、チーム育児を阻む 父の早め帰宅で「母が休める時間」作って好循環を
私が運営しているカエルチカラ・プロジェクト(目の前の課題を変えるための一歩を踏み出せる人を増やすことを目指す)言語化塾では、女性たちに日頃感じているモヤモヤを言葉にして整理してもらっている。先日「おかあさんだから」という歌詞が話題になったが、共働き時代、女性ばかりが献身していては育児は回らない…本田ナナさん(仮名、30)は夫と「チーム育児」を築いた経緯を作文にしてくれた――。
※本記事はBLOGOSからの転載記事です。以下は言語化塾参加者の方の文章です(編集:中野円佳)。
母親偏重の育児から「チーム育児」へ
「母親になったことを理由にキャリアを諦めたくない。夫とは家事はうまく分担できているし、育児にも積極的な姿勢を見せてくれているから、我が家は問題ないだろう。スムーズな職場復帰のためにも、育児のスタートが鍵となるから頑張ろう」
そう意気込んではいたものの、出産を終え、休む間も無く育児に移行した途端、息をつく間もない育児の過酷さに、みるみるうちに自信がしぼんでいった。
里帰りを終え、夫と息子との3人での生活がはじまると、最初の1ヶ月は怒涛の日々だった。日中は1時間半おきに授乳が必要で、最低限の家事をこなすことで精一杯。息子のお風呂は夫が積極的に担当してくれたものの、仕事からの帰宅後では夜遅くなりがちだった。お風呂の後は夫が先に就寝し、私一人で息子の寝かしつけを2〜3時間かけて行っていた。
息子の寝かしつけを一人で行うのは体力的にも精神的にも辛かったが、寝かしつけのコツが私自身も分からず、夫に教える自信がなかった。翌日の仕事に影響があると申し訳ないとも思い、夫には遠慮して頼むことができなかった。寝かしつけがうまくいかず息子の就寝時間が24時近くになってしまうことも多く、息子をもっと早く寝かせなければという焦りと、息子が早く寝てくれないと私の睡眠時間も削られるという悪循環に陥った。
生後2ヶ月を迎える頃には、育児疲れを自覚した。息子の体重の伸び悩みと乳腺炎がきっかけで授乳にストレスを感じるようになり、疲労も相まって、身体中に産後蕁麻疹が出た。もうこれは、自分の身体と心を休ませるためにも、オペレーションを改善しなければならないと思った。
「母親ばかり」の役割が載る母親主体の育児本
そもそもチーム育児を意気込んでいた我が家だったのに、「おとうさん」を巻き込むのはどうしてかくも難しいのか。
まず、産後に里帰りをしていた私のほうが1ヶ月のアドバンテージがあったため、自宅に戻ってから、どのように夫を育児に巻き込むべきかがわからなかった。ミルク、オムツ、お風呂、洗濯、着替え、肌や爪の手入れなど、やるべきことは無限にあるが、手取り足取り教え続けると、夫が指示待ちになってしまうのでは?伝え方を失敗すると、夫がやる気を失ってしまうのでは?と不安が募った。
そこではじめて育児に取り組む親として一緒に勉強をしようと育児本を読んでみるのだが、パパが登場するのは、沐浴・お風呂のページ程度で、その他の膨大な項目については「ママは○○してあげましょう」という表記ばかり。
「パパは何をすればいいんだ?」と夫がつぶやくほど、どの育児本も母親主体だった。健診や保育園の説明会なども、ほとんどが母親に向けられたメッセージばかり。日本は未だに根強い固定的性別役割分担意識に溢れており、「育児は母親の役割である」というメッセージにより夫の育児意欲が削がれてしまうのではないか、とかえって心配になった。
父親の育児参加が好循環を生む
でも、あまりに疲弊してしまって、「これではいけない」と感じ、私たち夫婦は、改革を行った。まず、夫の平日の帰宅時間を早めてもらった。遅くとも21時には寝かしつけたいと考え、20時までにお風呂に入れられるよう帰宅してもらうことにした。
寝かしつけも夫と二人体制で行うようにした。どちらかが寝かしつけを行い、途中で起きてしまうなど失敗した場合は選手交代。夫が息子をベビーベッドに無事に着地させられるようになるためには少し時間がかかったが、一度成功すると、以前よりも積極的に寝かしつけを担当してくれるようになった。たとえ自分が寝かしつけに失敗しても、バックアップがいると考えると、お互い気が楽だった。次第に寝かしつけのコツも教えあうことができるようになった。
生後3ヶ月を迎える頃には息子はお風呂と寝かしつけの時間が安定し、目標である21時までに、毎日就寝するようになった。また、息子だけでなく私たち夫婦の生活リズムが確立され、好循環が生み出されるようになった。
平日も共に過ごす時間が比較的多いため、息子は夫にとても懐いていて、夫も育児への積極性が日に日に増している。息子の就寝後は、夫婦で息子の成長について共有したり、息子のお世話でうまくいったこと・いかなかったことを一緒に振り返ったり、お互いのその日の出来事を話したりする、有意義な時間になっている。
私はその後にゆっくり一人でお風呂に浸かり、以前よりも格段に早い時間に就寝できるようになった。この時間が私にとってとても大切で、自分と向き合う時間、身体を休める時間を少しでも多くとることが息子と接する心の余裕、夫との関係を良好に保つことにつながっていると感じている。
私の育休中に「チーム育児」を築くことができたことは、私がキャリアを継続する上で非常に重要な意味を持つと考えている。職場復帰に向けて不安がないといえば嘘になる。しかし、息子が誕生したことによる変化を、私一人ではなく夫婦で受け止め、オペレーション改善のために試行錯誤を一緒に行った経験は、今後仕事と家庭を両立する上での困難に立ち向かうための糧になると信じている。
女性のキャリア継続のため育児初期にすべきこと
昨今、イクメンという言葉をよく耳にするにも関わらず、多くの女性が「夫は仕事が忙しく、平日は期待できない」と口にする。調査(※1)によると、6歳未満の子供を持つ夫・妻の家事関連時間について、共働き世帯か専業主婦世帯かは夫の家事関連時間に影響せず、共働き世帯であっても、妻の5時間に対し、夫は1時間未満である。
さらに、共働き世帯でも「家事」は約8割、「育児」は約7割の男性が全く行っていない。3人に2人の母親が「自身がワンオペである」と答えており、ワンオペ育児が辛いと感じている人の割合は9割に上る。
「パートナーのほうが仕事が忙しい」ことがワンオペ育児の一番の理由で、6割以上を占めており(※2)男性は長時間労働を続ける一方で、女性のみがライフスタイル・就業スタイルを変えるケースが多い。
女性ばかりがすべての変化を受け止めないといけないことは、本当に「おかあさんだから」仕方がないことなのか。
女性がキャリアを続ける環境はまだまだ不十分だと思う。子どもと一緒に家の外に出ようとすれば、児童館や子育て広場など、「ママと赤ちゃん」向けの居場所が中心になる。女こどもの世界に閉じ込められ、ビジネスどころか社会から隔離された気分になる。待機児童問題に直面し、社会から「子育てに専念しろ」と言われている感覚に陥る。
家事育児を自分で抱え、男性を巻き込むほうが面倒、と諦めてしまう。あるいは育児休業中に収入が低下することから抱いてしまう「夫に養ってもらっている」という感覚、「こどもはかわいい、成長は見届けたい」という想いなどから、自分のキャリアを諦めることを正当化してしまうケースも多い。
でも、子どもを理由に、自分自身の人生を諦めることにならないよう、これから妊娠・出産を経験する女性は、ぜひ育児の初期段階から、積極的に夫を巻き込み、自分一人ですべての変化を受け止めないよう、意識してもらえたらと思う。
育休より平日の早い帰宅がワンオペ育児を救う
これから子育てに取り組む男性には、妻の人生の選択肢を狭めてしまっていないか、意識してもらいたい。妻が家事育児をすべて担い、夫が「仕事を頑張る」モデルは経済的リスクが高い。10人に1人はかかると言われている産後うつを防ぐためにも、ぜひ妻の産後直後から、積極的に家事育児に取り組んでほしい。
日本企業に勤める男性にとって、育児休業はまだまだハードルが高い。「男性が育児休業取得すると島流し同然の扱いになる」という話も聞く。しかし、育児は長期戦だ。数週間の育休を取るよりも、平日に一分一秒でも早く帰宅することで母親をワンオペ育児から解放できる。
家族が増えることに合わせて妻とともに自身の働き方やライフスタイルを変化させ、妻の人生の選択肢を増やすことができる夫が増えることを今後期待したい。
(※1)総務省, 「平成28年社会生活基本調査」, 2016
(※2)日経DUAL, 「ワンオペ育児からの脱却法」, 2016