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こっそり開幕したJユースカップを語りつつ、道産子の圧勝劇に過去と未来を思うこと

川端暁彦サッカーライター/編集者
先取点をあげたMF前寛之(右から二人目)を中心に歓喜の輪ができる

Jユースカップ・・・って、何?

ドリブル突破を図る千葉U-18のDF浦田樹。U-16日本代表選手だ
ドリブル突破を図る千葉U-18のDF浦田樹。U-16日本代表選手だ

まず、その話をしておく必要があると思う。大会の正式名称は「Jユースカップ第21回Jリーグユース選手権大会」。回文のような名前を持つこのカップ戦は今年で21回目、つまりJリーグ開幕と同時期に産声をあげた大会だ。当初はJリーグ下部組織(Jリーグからは近年『アカデミー』と呼ぶように指導されるようになった)のチームの大会として創設され、現在はJリーグに加盟していない地域のクラブチーム(俗に言う街クラブ)にも広く門戸を開いて開催されている。時期的には高校サッカー選手権の“裏番組”であり、部活でサッカーをすることを選ばなかった選手たちが目指す冬のタイトルとして定着してきた。

メジャー感こそ皆無とはいえ、幾多の名選手を輩出してきた大会でもある。過去大会のハイライトはJリーグ公式サイトでも視聴可能で、たとえば1998年の第6回大会ならば若かりし日の佐藤寿人や阿部勇樹、野沢拓也(当時高校2年生)といった選手の勇姿を観ることができるし、2008年の第16回大会であれば、宇佐美貴史、山口螢、扇原貴宏といった選手の貴重な映像を目にすることが可能となっている。何故か第9回大会(京都サンガU-18が優勝した)の映像が失われてしまっているのが惜しまれるところだ。個人的には第6回大会のインパクトは鮮烈なものがあり、Jのユースの試合を頻繁に観るようになった切っ掛けの一つだった。

この大会の方式は予選リーグ+決勝トーナメントのオーソドックスな形に見えて、ちょっとイレギュラー。Jリーグのクラブに準会員の町田を加えた41チームをAからJまで10個のグループに分割。それぞれ総当たり戦を行って順位を決し、各組上位2チームずつ(計20チーム)が決勝トーナメントへ進む。また、地域クラブの予選会もJクラブと別に行われており、ここを勝ち抜いた4チームも決勝トーナメントへ進出。このため、トーナメントは24チームで争われる。詳しい組み合わせ・日程などは、これまたJリーグ公式サイトを参照してもらいたい。すべて無料なので、ヒマな人はお近くの会場に足を運んでみると、意外な「出会い」があるのではないかと思う。

チャンピオン、王者らしく千葉を下す

千葉の攻撃を食い止める札幌DF内山裕貴。U-18日本代表にも名を連ねる俊英だ
千葉の攻撃を食い止める札幌DF内山裕貴。U-18日本代表にも名を連ねる俊英だ

19日、20日には同大会の予選リーグ、主に第2戦が各地で開催となった。自分が足を運んだのは、19日の中田スポーツセンター球技場(千葉県)。雪という人知では覆しがたいハンディをモノともせずに前年度大会を制した王者・コンサドーレ札幌U-18と、個人的にグッドゲームの思い出が多い(たとえば前述の第6回大会決勝)Jクラブユースの名門・ジェフ千葉U-18の一戦である。

雨の予報だったが、幸いにも小雨がぱらつく程度となったグラウンドで展開されたのは、ワンサイドゲームだった。「立ち上がりから集中していたし、気持ちも入っていた」と札幌・四方田修平監督が胸を張ったように、札幌がいきなり押し込む。2分にはMF前寛之(トップチームに在籍する前貴之の弟)がGKの脇を抜くシュートを決めて、先制点。続く7分にも早々の追加点が生まれ、一方的な展開となった。記録されたシュートは千葉2本に対し、札幌25本。スコアには6点の差がつき、内容はそれ以上では思える差だった。下級生の多い千葉が立ち上がりの失点で精神的に落ちてしまった面はあるにせよ、個々の技術、そしてフィジカルの差は歴然としていた。

この2年で10人のプロ選手を輩出し、近年は大学経由でのプロ入り選手も出てきた札幌の育成組織。プロ入りの人数自体はトップチームの経営難で層が薄くなっていることともリンクしているので一概に言えるものではないが、それでも「道産子の育成」が総じてうまくいっているのは間違いない。厳しい経営状況でも育成への投資を怠らなかったフロントの功績だろう。個性を重んじて伸び伸びと攻めさせつつ、締めるべきところは締めていく四方田監督のスタイルも、うまくフィットしているように見える。今年は過去2年に比べてタレント性で劣ると言われており、実際に春先に四方田監督も「まだ水準に達していない」と厳しい表情で語っていたのだが、「しのぎを削りながら蓄えてきた力がある。シーズン終盤になってチーム力が上がってきている」と手ごたえを得ている様子。

千葉U-18の指揮官は、かつてC大阪、神戸、鳥栖、草津などを指揮した副島博志氏
千葉U-18の指揮官は、かつてC大阪、神戸、鳥栖、草津などを指揮した副島博志氏

一方、かつて育成の名門であった千葉は立て直しの途上にある。まだ道半ばといったところだろうか。ただ、大きく落ち込んでいたころに比べて地域の人材があらためて集まるようになってきているのは間違いない。

たとえば現在開催中のU-17W杯に出場中のU-17日本代表にはMF仲村京雅という千葉の選手がいるが、彼は中学3年の夏にスカウトされて移籍してきた選手である。地域のクラブ、少年団との関係をあらためて構築し直しながら、新しくクラブを作り直しているところと言えばいいだろうか。今年に入ってU-15、U-13と観る機会があったのだが、そこでも「集まり方」が変わってきている印象は確かにあった。確かに道半ばだが、止まっているわけではないといったところだろうか。

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笑顔すら浮かべながら左サイドでのドリブル突破を繰り返した札幌の左SB井端純ノ輔(右)。「クロスが合わなくちゃね」と四方田監督は辛口だったが、豪快なオーバーラップからの切り崩しは怖さ満点だった。

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「めんこい」ループシュートを決めるなど、この試合で自分の“色”を誇示してくれた攻撃的MFの蒲生幹。雪国ゆえに北海道の選手は冬に体育館で足技を磨き抜く。彼のようなテクニシャンはそうして育つわけだ。

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選手たちは試合後、もはや「名物」とさえ言える札幌の熱いサポーターに挨拶へ赴く。彼らのおかげで(せいで?)札幌の応援チャントは大体口ずさめるようになってしまった・・・。

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試合終了後、札幌の控え組はダッシュを繰り返していた。札幌のように普段から遠征を重ねるチームの場合、ベンチで過ごす選手のケアは難しいが(大人数で遠征してBチーム戦を組むといったことはできないので、どうしてもフィジカルが落ちていく)、札幌はこうして補っているわけだ。監督自らストップウォッチを握っているので決して手は抜けない。右端でにこやかに走っているのは、何故か先発なのに走っていた1年生GK三森哲太。第1、第2GKが共に負傷という緊急事態での先発出場だが、「よくやってくれている」と四方田監督が語るとおり、物怖じせずに3年生にも指示を飛ばす堂々のパフォーマンスを見せていた。

サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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